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獣の奏者V探求編/上橋菜穂子のあらすじ

2017年1月13日 竹内みちまろ

 「降臨の野」での出来事の後、シュナンは大公の位を継ぎ、真王セィミヤと婚礼の式を挙げた。ヌガンは自分が演じさせられた役割を悟ると牢の中で首を吊って自害した。イアルは、リランがシュナンを乗せて戻ってきたときに、ダミヤを殺した。

 真王と大公の婚礼は大公領民の心を和らげたが、真王領民が婚礼に示した嫌悪感は予想以上に激しかった。真王の臣下たちのシュナンへの抵抗は止まず、シュナンは苦難の道を歩みながら改革を進めた。

 セィミヤは、やがて大公となる9歳のヨナンと、やがて真王となる5歳のユィミヤを産み、第3子を妊娠した。セィミヤは、ハルミヤが「たぶん、最後の本物の真王であったのだ」と思い、真王でないのなら「自分は何者なのだろう」と思い悩んだ。セィミヤはほとんど人前に姿を現さなくなり、隣国の使節団を招いた晩餐会にも出席しなくなった。リョザ神王国の民も、貴族も、武人もみな、大公と真王のどちらを統治者として仰いでよいのか分からず、リョザ神王国は混乱した。

 エリンは、カザルム王獣保護場で身体を癒したいという願いを聞き届けられ、カザルム王獣保護場に戻った。11年が経った。エリンはイアルと結婚し、ジェシという男の子を産んだ。

 30歳を過ぎたエリンは、シュナンから、アケ村に近いトカラ村で5頭の「牙」がすべて死んだ原因を調べるよう命じられた。大公領では、数か所の闘蛇村で「牙」がほぼ同時期に大量死するという事件が7年間隔や12年間隔で起きていた。

 トカラ村で死んだ「牙」を調べたエリンは、アケ村で「牙」が大量死したときに漂っていたのと同じ匂いがしたことに気が付いた。闘蛇衆から産卵期の野性の闘蛇にたかる羽虫が死んだ「牙」にもたかっていたことを聞いた。

 10歳でアケ村を出たエリンは、闘蛇衆には闘蛇の性別を調べてはならないという掟があることや、闘蛇の卵は毎年摂取するが5年に一度、採取してきた卵をすべて「牙」用のイケにいれて、その闘蛇だけに特滋水を与えて育てることを知った。「牙」とほかの闘蛇の違いは特滋水を与えるかどうかだけだった。

 エリンが調べると、死んだ「牙」はすべてメスであり、すべて3歳だった。さらに、死んだ「牙」は無精卵を宿していた。卵管の途中にいくつものしこりができて卵管がふさがってしまっていたため内蔵の壊死が進み、それが原因で死んだことを発見した。エリンには、いびつな成熟を迎え無精卵を産もうとしていた「牙」が病変を起こした原因は特滋水以外には考えられなかった。

 さらに、エリンは、ソヨンが、産卵期に起こる闘蛇の粘液の変化に気付いており、卵を抱えた際は特滋水が毒になることを知っていながら、そのことを告げれば闘蛇衆に闘蛇を人の手で増やせることを教えてしまうことになるため、あえて口にせずに闘蛇衆の掟にしたがって特滋水を与え、闘蛇を死なせたことを悟った。エリンは、ソヨンが破門されてもなお戒律を守っていたことを知った。が、自身は、「……生き物の身体をゆがめて、子どもをつくれなくするような薬は、与えられない」と思った。

 エリンは、トカラ村で、エリンの父親のアッソンの従妹であるアケ村出身のツラナに会い、ソヨンが残したものが焼かれた際に燃え残ったという紙の束をソヨンの形見として渡された。紙の束には、鏡に映して反転させると読むことができる「崩し鏡面文字」で闘蛇の飼育の記録が記されていた。エリンはソヨンから崩し鏡面文字を習っており、記録を読むことができた。ソヨンは闘蛇衆に伝わっている知識と技術の不足をなげき、「ああ! <残った人々の谷間(カレンタ・ロウ パレ)>に行ってみたい。花の香りがするという谷間に」と記していた。

 トカラ村で「牙」の大量死の原因を調べるエリンには、大公の親族の中で知力武力ともに秀でたものが選ばれる「黒鎧」だったヨハルが警護と監視役として付き添っていた。ヨハルは代々アマスル領を統治している領主で、大公の重臣だった。

 トカラ村での調査を終えたエリンに、ヨハルは、闘蛇の生態を徹底的に調べて欲しいと告げ、闘蛇の育成が始まった最古の闘蛇村であるウハン村にエリンを連れて行った。ヨハルは、闘蛇軍を持っていない隣国の軍事侵攻を闘蛇軍によって退けている大公の宝は、闘蛇そのものではなく、闘蛇衆の持つ技術であり、闘蛇乗りの技術であることを告げた。ウハン村では、かつて一度も「牙」の大量死が起きていなかった。

 エリンは、ウハン村では、緑の目をした子どもが産まれることが珍しくないことを知った。エリンは、王祖・ジェは王獣使いであり、闘蛇使いではなかったのに、なぜ、ジェが築いたリョザ神王国で闘蛇が使われるようになったのかと疑問した。ジェはいつ、どこで、闘蛇の使い方を知ったのだろうと考えた。エリンは「これまで伝えられてきた話には、どこかで、奇妙な捩(ねじ)れがある。欠けている部分があるのだ」と思った。

 ウハン村では、8年前に、現在87歳のカマル老の弟が闘蛇の卵を取りに行き、叫び声をあげてその後に水音がしてそのまま戻って来なかったことがあった。カマル老は、「足の踏み場所を間違えれば、川に落ちて死ぬこともある……」と悼んだ。

 ウハン村の頭領・コルの先導で、エリンとヨハルは夕刻に闘蛇の卵を見に行くことにした。渓流の「釜」と呼ばれるよどみに闘蛇の卵はあったが、エリンは、「牙」にする卵の「釜」がほかの「釜」よりも水温が暖かいことに気が付いた。

 ヨハルが背に矢を受けた。エリンは「女は殺すなよ。闘蛇衆をさらうより、よっぽど役に立つ……」という声を聞いた。野性の闘蛇が近づいてきた。エリンはソヨンが吹いた指笛と同じ音を指笛で吹き、野性の闘蛇を操った。ヨハルと共に闘蛇の背に乗って逃げ延びた。

 ヨハルの館で、エリンは地図を見た。神々の山脈の東南に広がるリョザ神王国は地図の8分の1ほどに過ぎず、リョザ神王国の南にはひとつの国を挟んで海が広がり、東にはいくつもの国が広がっていた。南に広がる国は交易で潤っているトゥラ王国で、タカロア王子が使節としてリョザ神王国を訪問していた。

 ヨハルは、エリンに、「あなたは、野性の闘蛇を操れるのですね」と切り出した。ヨハルは、「血と穢れ」はエリンを襲うだろうと予期していたことも告げた。混乱するリョザ神王国の中で、大公と結ばれたとはいえ、民の大半は真王を神と崇めており、真王がエリンを従えて王獣を操れば大公を廃してリョザ神王国を1人で統治できると考える者もおり、特に、「血と穢れ」はそれを恐れていると告げた。ヨハルは、「わたしは、<血と穢れ>が起こす行動を、あらかじめ知ることができるのですよ。――<血と穢れ>をつくったのは、わたしの曾祖父ですから」と告げた。

 ヨハルは、油紙に包まれた本をエリンに渡した。エリンが内表紙を開くと、崩し鏡面文字で「残った人々の記」と記されていた。ヨハルは、ウハン村を作った先祖のそのまた祖父が、密かに真王に招かれて、神々の山脈から家族を連れてこの地にやってきたと伝えられていることや、「真王の友」と呼ばれ王宮の奥に隠されていた人々が大公の祖であるヤマン・ハサルに闘蛇を操る技を伝えたと言われていることをエリンに伝えた。エリンは、ヨハルに、かつて神々の山脈の向こうで起きたという悲劇の話をした。

 エリンは、特滋水が卵管の詰まりを引き起こすと考えられること(=特滋水を使わなければ人の手で闘蛇を増やせること)と、ヨハルの先祖が闘蛇村を作り闘蛇部隊を増やしながらも闘蛇の数が必要以上に増えないように特滋水を使って制御する仕組みを作ったのではないかと考えられることを話した。また、闘蛇は水温によって雌雄が後天的に決まるのではないかとの考えを告げた。

 ヨハルは、すべてを大公に伝え、闘蛇衆の掟を書き換えて闘蛇の雌雄を調べ、闘蛇を人の手で繁殖させることに取り掛かると言った。

 ヨハルの娘婿のムハンが、ヨハルとエリンを襲った賊を捉えた。賊の話から、10年以上前から東の軍事大国ラーザが、さらってきた闘蛇衆を大金で買い取るというふれを出していたらしいことと、8年前に、賊がウハン村から闘蛇衆を1人さらうことに成功していたことを知った。

 ヨハルは、すべての闘蛇村に兵を送り守備を強化することを命じた。ヨハルは、さらわれたのはおそらくカマル老の弟だろうとし、「闘蛇衆として、自害してくれていればいいが」と危惧した。「闘蛇三年」という言葉があり、闘蛇が卵からかえって人を乗せて戦えるようになるまでに3年かかるという意味だが、8年あればかなりの数の闘蛇軍を揃えることができた。

 ヨハルは、「もう二度と後手にまわるわけにはいかぬ」といい、エリンを連れて王宮に行き、エリンとエリンの心を動かす者たちをすべて、完全な保護下におくとエリンに告げた。

 エリンは王宮に来た。ヨハルは、「血と穢れ」の頭領に、ラーザが8年前に闘蛇衆をさらっており闘蛇軍を揃えている可能性があることを告げ、当面はエリンにも、エリンの家族にも危害を加えないように手を回した。シュナンはより優れた闘蛇部隊を作る決意をしており、エリンに王獣部隊を作るよう依頼した。セィミヤ自身も、エリンに王獣部隊を作ることを命じた。

 エリンは、なんの武闘訓練も積んでいないリランが武闘訓練を積んだ闘蛇を軽々と引き裂いていくのだったら、武闘訓練を積んだ2千の王獣軍と数万の闘蛇軍が戦っても、王獣軍の圧勝になるはずだと思った。しかし、昔話では、人も獣も死に絶えるような大参事が起こったとされている。エリンは、昔話が真実ではないか、あるいは、何か伝わっていないことがあるはずだとセィミヤに告げた。エリンは「怖いのです。王獣には、まだ、わたしが知らないことが、たくさん隠されております」などと告げた。「それを知らぬまま王獣を増やし、部隊をつくってしまえば、わたしは、王祖ジェが犯してしまわれたのと同じ過ちを――とり返しのつかぬ過ちを――犯してしまうかもしれません」と口にした。

 エリンはセィミヤに、ソヨンやヨハルの祖先が記していた「残った人々の谷間」が今も神々の山脈にあり「残った人々」がそこで暮らしているのなら、そこに行けば多くの謎が解けるかもしれないと話した。セィミヤは、エリンを王宮から逃がした。

 イアルは、ラーザが手を伸ばした大公軍の兵士に襲われた。イアルは賊を返り討ちにして、ジェシを連れて逃げ、カイルから、真王がエリンを王宮から逃がしたことを知らされた。イアルとジェシは、エリンを見つけ出し、合流することができた。が、エリンたちを捜していた兵士たちに取り囲まれた。

 エリンはセィミヤに、心を決めるための猶予をもらったことを感謝し、王獣を増やすことに力を尽くすことを告げた。エリンは、竪琴で王獣を操る技を多くの人に伝えればいずれは必ず他国にも漏れるため、エサルには協力してもらうものの、当面はエリン1人が王獣を操り、ときが来たら王獣を操る技の全てをセィミヤに伝えると告げた。エリンと共にセィミヤとシュナンに謁見したイアルは、闘蛇乗りに志願することを願い出た。イアルは、エリンが王獣を飛ばすのであれば、自分は闘蛇乗りとなり、微力ながら堅き楯と大公軍の間を繋ぐ橋渡しをしたいと告げた。


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