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「髑髏城の七人〜ワカドクロ」のあらすじと感想(ネタバレ)

2013年2月4日 竹内みちまろ

ゲン×シネ版「髑髏城の七人〜ワカドクロ」

 「髑髏城の七人」(通称「ワカドクロ」)のゲン×シネ版(演劇を10数台のカメラで撮影し、劇場公開用に編集した上映作品)を見てきました。興奮しました。あらすじと感想をメモしておきたいと思います。

ゲン×シネ版『髑髏城の七人』(2011)
出演:小栗旬、森山未來、早乙女太一、小池栄子、勝地涼、仲里依沙、高田聖子ほか
作家:中島かずき
劇団☆新感線

髑髏城の七人〜ワカドクロのあらすじ(ネタバレ)

 織田信長が本能寺の変で殺されてから数年後、天下人を狙う豊臣秀吉が、関東の北条を攻めるため、20万の軍勢を動かし始めます。同じころ、関東では、鉄仮面の男・天魔王(森山未來)率いる武装集団・関東髑髏党が勢力を伸ばしていました。髑髏党は、築城衆の一族に髑髏城を作らせ、2万の軍勢を集めます。一族の頭領は、信長の安土城も築いた築城の天才でしたが、天魔王は、口封じのために、頭領以下の一族を抹殺。ただ一人、難を逃れた頭領の娘・沙霧(さぎり/仲里依紗)が、髑髏城の絵図面を豊臣軍へ渡すため、西へ向かいます。

 豊臣と北条の戦いを前に、関東は無法地帯になっているようでした。徳川家康は盛んに密偵を繰り出して関東の情報を集めます。村を焼き払い勢力を伸ばす髑髏党と、任侠の道を進むかぶき者集団・関八州荒武者隊が戦っていした。そこに、浮き世を捨てた剣士・捨之介(すてのすけ/小栗旬)と、名乗れば面倒なことになりそうな浪人・狸穴二郎衛門(まみあな・じろうえもん/千葉哲也)が出くわします。捨之介が、なにやら因縁がありそうな髑髏党を追い払います。

 荒武者隊の頭領・兵庫(勝地涼)は、髑髏党に焼け出された村の娘たちを、そこでは身分や貧富は関係なく人間の器量だけが見られるという色里「無界の里」へ連れていくといいます。捨之介と二郎衛門も道連れとなり、極楽太夫(小池栄子)が看板の遊郭「無界屋」へ辿り着きました。捨之介は、無界屋の店主・蘭兵衛(早乙女太一)を見て驚きますが、蘭兵衛は、昔の話はやめてくれ、と遮ります。その無界屋に、髑髏党に追われる沙霧が舞い込んできました。

 無界屋にも天魔王の魔の手が伸びます。捨之介は、“今度は”天魔王に勝つため、これまた天魔王と因縁がありそうな刀鍛冶の贋鉄斎の元へ向かい、天魔王の鎧を砕く剣を作ってくれるよう頼みます。捨之介は、贋鉄斎を訪ねる前に、蘭兵衛へ「先走るな」と言い残していましたが、蘭兵衛は、天魔王の下へ単身、乗り込みます。沙霧、兵庫、極楽太夫らも巻き込んだ、戦いが幕を切って落とされました。

髑髏城の七人〜ワカドクロの感想

 「髑髏城の七人」を見たのは初めてでした。知人から、「今、髑髏城の七人というすごいのやってるから見て来い」「劇場の大画面で見て来い」「大音量で感じて来い」と言われ、何も知らないまま新宿バルト9へ行きました。「髑髏城の七人」がいったいどんな映画なのかも知らなかったのですが、劇場で隣に座っていた方も一人で来ていて、その方に、「髑髏城の七人」が舞台を撮影した映画であること、これまでにアカドクロ・アオドクロなど色々な「髑髏城の七人」が公演・上映されていること、天魔王と捨之介は本来、一人二役なのですが今回は初めて別々の配役をしたこと、森山未來は映画「苦役列車」などとは別人であること(もちろん、「苦役列車」の森山さんは、「苦役列車」の森山さんとしてすばらしい)、など、いろいろと教えてもらいました。その方は、劇団☆新感線さんや森山さんのファンで、「太一君は、太刀回しが速いですよ」とも教えてくれました。

 上映開始の1分前にようやく前知識を得て見た「髑髏城の七人」でしたが、すごかった! こんなすごいものが世の中にあるのかと、感動しました。休憩をはさんで3時間半でしたが、あっという間。こんなに密度の濃い時間を過ごしたのは久しぶりです。

 まず、天魔王を演じた森山さんがすごい。目線や表情がアップでよく映るのですが、本当に決まっていました。また、天魔王は、鎧甲を全身に着込んでいます。ごつい甲にほほまで隠され、目鼻や口だけ出している森山さんの姿が様になっていました。声はよく通り、表情は憎いくらいにかっこいい。背筋を伸ばしたまま剣を振り払う殺陣も、威厳と風格に満ちています。話が進むうちに、天魔王が悪の権化だとわかってきて、それが分かってくると、ますます、森山さんの目線や、表情や、声や、セリフに引き込まれていきました。森山さんが、早乙女さんに口づけをする場面は、筆舌に尽くせない色気が漂っています。正直、化粧をした男をかっこいいと思ったのは初めてでした。

 早乙女さんは、ほんとうに、刀が、ほとんど見えませんでした。あと、ここ一番のせりふを口にする時、目が光ります。森山さん同様、早乙女さんも、オーラといいますか、怪しいものを持っている人なのだなと思いました。

 また、実は鉄砲衆と呼ばれた雑賀の里の女で、髑髏城の中で機関銃(改造銃)をぶっぱなす極楽太夫を演じた小池栄子さんもきまっていました。髑髏城へ乗り込む前は、“胸の奥に別の男(蘭兵衛?)への思いを秘めている女なんてごめんだね”などとも暴露されてしまっていましたが、惚れるよりも惚れられ、惚れられたら惚れてくれた男の思いに尽くすことが、極楽太夫にとっての冥利であるようです。冥利に生きる女の粋を、小池さんはいかんなく発揮していました。

 そして今回、一番、きゅるるんときた場面は、小栗旬さんの捨之介と、仲里依紗さんの沙霧が、牢屋の前で遭遇するシーン。天魔王は悪い奴で、捨之介に薬を盛り、さらに鎧の呪いも利用して、捨之介に無理矢理に天魔王の甲冑を着せ、捨之介を天魔王に仕立て上げてしまいます。天魔王は、牢屋の前に捨之介を置いて、自分は逃げてしまいました。そこに、牢に捕らわれた捨之介を助けにため、沙霧たちが乗り込んできます。

 牢屋は空っぽで、捨之介はどこにもいません。そして、沙霧の目の前にいるのは憎き天魔王(の鎧を全身に着せられ、呪いをかけられた捨之介)。沙霧は、おのれ、とばかりに天魔王と戦います。本物の天魔王は、捨之介が「天魔王」と呼ばれるたびに、どんどん、捨之介が天魔王になってしまう呪いをかけていました。沙霧から、“おのれ、天魔王”“天魔王、貴様だけは許さない”などと憎しみを言葉にしてぶつけられるたびに、捨之介がかろうじて残していた理性がどんどん消えて無くなり、本当に天魔王になっていってしまいます。そして、沙霧を襲います。剣の腕では、沙霧は捨之介の足元にも及びませんので、天魔王と戦うとはいいながら、実際は、沙霧は剣を避けるのに精いっぱい。遅れてやって来た仲間たちが、“沙霧、危ない”“沙霧、大丈夫か!”と声をかけます。すると、なんと、捨之介に異変が! 天魔王の悪の道に染まり始めてしまっていた捨之介ですが、沙霧を気づかう仲間たちの「沙霧!」という声が髑髏城に響くたびに、鉄仮面で表情を覆った捨之介が、動きを一瞬、止め始めました。

 捨之介は、「天魔王」という声で呪いに引き込まれ、「沙霧」という声で理性を戻し、それぞれの名前が呼ばれるたびに、一瞬動きを止めながら、狂気と理性の狭間をさまよいます。その様子に、胸がせつなくなってしまいました。捨之介は、自分では認めようとしませんが、実は、心の奥底で沙霧が好きなのでは? と思いました。やはり、言葉というものは呪文であり、名前というものは、最強の呪いにも成るし、愛にもなるのだなと思いました。そして、そんなことは知らずに、天魔王の手のひらの上でひたすら踊られて、「おのれ、天魔王」と憎しみをぶつけていく仲里依紗さんの、かすれているのですが、よく通る声に、魅了されました。沙霧もせつないぞ! 今回、「髑髏城の七人」で、どの場面が一番よかったかを聞かれたら、迷いなく、「天魔王」「沙霧」という言葉に、捨之介と沙霧が翻弄される場面と答えます。本当に、いいものを見せてもらいました。

 初めて見たゲキ×シネの「髑髏城の七人」でしたが、なんだか、また見たくなってしまいました。いろいろなバージョンがあるそうなので、そちらも気になります。ただ、ふと気がついたのですが、天魔王と捨之介が一人二役なら、牢屋の場面はどうなるのだろうと思いました。兜をつけていない天魔王が、兜をつけていない捨之介に、天魔王の兜をかぶせる場面はどうしても必要だと思うのですが、そこも、なるほどとうならせるような演出があるのかもしれません。その辺りも、楽しみになって来ました。


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