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「はてしない物語」のあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2019年11月18日

「はてしない物語 上/下」(岩波少年文庫:ミヒャエル・エンデ作、上田真而子/佐藤真理子訳)のあらすじ(ネタバレ)

 冷たい11月の朝、コレアンダー氏の古本屋で、いじめられっ子のバスチアン・バルタザール・ブックスは、『はてしない物語』という1冊の本を見つけた。不思議な力に惹きつけられたバスチアンは、本を盗み、学校の物置に忍び込んで本を読んだ。

 本の中の物語の舞台、ファンタージエン国では、その至る所で世界が虚無に飲み込まれていくという危機が起こっていた。国中から、あらゆる種族の使者たちが、危機の知らせを持って、女王・幼ごころの君に会うためエルフェンバイン塔に集まった。しかし、幼ごころの君は重い病に臥せっていた。国中の医者が診ても治療法がわからない。ファンタージエンの危機も、その病と関係があるようだった。緑の肌族の少年アトレーユは、女王から大切なお守り「アウリン」を預かり、女王の命とファンタージエンを救う術を探す旅に出た。

 アトレーユの旅は波乱に満ちたものだった。太古の亀モーラに会いに行く途中、憂いの沼で愛馬アルタクスを失くし、巨大蜘蛛イグラムールに襲われ、人狼グモルクに跡を付けられた。本を読むバスチアンも、アトレーユと一緒に涙を流し、一緒に恐怖を感じた。

 アトレーユは旅を続けるうち、幼ごころの君を救うには、ファンタージエンの外の世界に居る人間の子供が、彼女に新しい名を差し上げなければならないことを知った。しかし、ファンタージエンには果てがない。希望を失ったアトレーユは、旅の途中に出会った幸いの竜フッフールの背に乗り、エルフェンバイン塔に向かった。

 アウリンを返し、使命を果たせなかったとうなだれるアトレーユに、幼ごころの君は、彼はちゃんと人間の子を連れて来てくれたのだと言った。アトレーユの冒険に満ちた長い旅が、その物語を読んでいた人間の子供を、ファンタージエンに連れてきたのだという。

 幼ごころの君の新しい名が「モンデンキント」であると、バスチアンは閃いた。本の中の幼ごころの君に促され、バスチアンは「モンデンキント、今ゆきます!」と叫んだ。物語の中では突風が起こり、その風はバスチアンが膝の上に乗せていた本のページから吹き出し、ページがばたばたと激しく煽られた。その次には、今度は本の中に吹き込む強い風が吹いた。

 バスチアンは暖かい暗さの中で、「好きなだけ望みをいいなさい」というモンデンキントの声を聞いた。バスチアンが多くを望むほど、ファンタージエンは豊かになるという。バスチアンがモンデンキントの顔を見たいと願うと、暗闇に光が生まれ、その光から森が生まれた。

 気づくとモンデンキントは消えていたが、バスチアンはアウリンを手にしていた。アウリンには、「汝の欲することをなせ」と文字が記されていた。バスチアンは美しくなりたいと願い、強くなりたいと願った。望みどおりに、バスチアンはこの上ない美しさと強さを手に入れた。

 次に、バスチアンはアトレーユに会うことを願った。そして辿り着いた銀の都で、アトレーユと幸いの竜フッフールに出会った。アトレーユもバスチアンに会うことを願っていたが、彼はバスチアンがアウリンを使う度に現実世界の記憶を失っていくことに気づき、元の世界に帰る手伝いをすると言った。果てのないファンタージエンで、バスチアンたちの長い旅が再び始まった。

「はてしない物語 上/下」(岩波少年文庫:ミヒャエル・エンデ作、上田真而子/佐藤真理子訳)の読書感想文(ネタバレ)

 『はてしない物語』と聞けば、多くの人は、この小説を原作とした映画『ネバ―エンディングストーリー』を思い出すかもしれない。白い竜に乗った少年や様々な不思議な生き物が登場する、当時の最新技術で描かれた冒険映画に、わくわくした人も多いのではないか。しかし、この本を手にしたとき、この物語は、本を読む子供たちのためにこそ書かれた物語であったと、あらためて気づくだろう。

 ***

 この物語の面白さは、その工夫を凝らした構造にある。本の中では、アトレーユを主人公としたファンタージエンでの冒険と、学校の物置でその物語を読むバスチアンの姿とが交互に描かれる。そして物語が進むうち、2つの世界の境界があいまいになっていき、中盤以降では、バスチアンはファンタージエンに入り込んでしまう。

 本を読む子供たちにとって、空想の世界は現実から遠くても、物置で本を読むバスチアンの姿は、いま本を読んでいる自分そのものである。本の装丁にも、バスチアンが読んでいる本と同じ紋章が描かれており、まさにその本を読んでいるのだ、という気分にさせる。読者は、バスチアンに自身を重ねながら読み進めるうち、一緒にファンタージエンに入り込んでしまうことだろう。幼ごころの君がアトレーユに言ったように、バスチアンの冒険が、読み手をファンタージエンに連れていくのである。

 しかし『はてしない物語』の魅力は、そのような構造の巧みさだけにとどまらない。本当の物語は、バスチアンがファンタージエンに入り込んだ中盤以降から始まる。ファンタージエンを訪れたバスチアンは、魔法のお守りアウリンを手にし、大切な記憶と引き換えに、次々とその願いを叶えていく。彼は願いのままに、美しさ、強さ、賢さを手に入れ、皆に尊敬される。

 ところが、アトレーユの忠告を無視し、ファンタージエンの帝王になることを願ったバスチアンは、やがて「元帝王たちの都」に辿り着き、その代償を知ることになる。そこでは、かつてバスチアンと同じようにアウリンを手に入れ、願いを叶え続け、すべてを忘れた人々が、言葉さえ忘れて抜け殻のようにさまよっていた。バスチアンは、ファンタージエンを訪れた人間はみな帝王になることを願い、最後はここに行き着くことを知る。

 恐怖を覚え、なんとか都から抜け出したバスチアンは、孤独だった。そして、誰かと一緒にいたいと願う。そのとき彼が出会ったイスカールナリという人々は、個々には名前すら持たず、みんなで1つの存在だった。彼らと過ごすことを心地よく感じたバスチアンは、しばらく行動を共にする。しかし、ある時、仲間の1人が大がらすにさらわれても、何事もなかったかのように振舞った彼らを見て、バスチアンの中にまだ満たされない願いが生まれる。それは、かけがえのない1人として愛されることだった。

 バスチアンはイスカールナリたちと別れ、森の中で、アイゥオーラおばさまが住む「変わる家」を見つける。アイゥオーラおばさまは、ずっとバスチアンのことだけを待っていたのだといい、毎日彼に甘い果物を与えた。バスチアンは満たされた日々を過ごし、おばさまの家から離れられなくなったが、やがて、自らが誰かを愛したいという憧れ、最後の願いを見出す。

 バスチアンはおばさまの家を後にし、自ら行動し、夢を探し、身近な人に与えようとする人間に変わっていく。ついに彼はファンタージエンの出口を見つけ、再会したアトレーユたちにも別れを告げ、現実世界へと帰ってくる。長い冒険を終えたバスチアンは、現実の世界でも、自らの行動に責任を持ち、身近な人に真心を与えられる人間になっていた。

 ***

 ファンタージエンでの彼の物語は、人生の縮図でもある。私たちは、長い人生をかけて、願いを叶えていく。そして、美しさを手に入れ、力を手に入れ、名声を手に入れても、やがてそれらが本当に求めるものではないことに気づいていく。

 その先で、本当は孤独だったことを知り、共同体に属することを求め、かけがえのない存在として愛されることを求め、最後には自らが愛することを求める。それこそが人間なのだという著者エンデの人生哲学が、数々の豊かなたとえによって綴られ、1つの壮大なファンタジーとなっているのが『はてしない物語』である。ファンタージエンに入り込んだ読者は、バスチアンと共に、それを体験していくのである。

 ファンタージエンが虚無に飲み込まれていくのは、人間が訪れなくなるからだという。その様子は、一人の人間が、子供の頃には幾度も訪れていた想像の世界を、大人になるにつれて忘れていく様にも似ている。もし、子供時代にこの物語に出会っていたら、大人になって初めて読むよりも、何倍も強い臨場感を以て空想の世界に入り込むことができたのではないか、という気がする。この本には、ぜひ、子供の頃に出会ってみたかった。

 しかし、大人になって初めて、空想でしかないと思っていた物語に散りばめられた深い人生哲学に気づくことができる。『はてしない物語』は、子供にも大人にも、ぜひ手に取って、読んでもらいたい物語。人生のどのタイミングで出会っても遅くはない。できれば、人生の早い段階に出会い、一生のうちに何度も読み返したい、そんな一冊であると思う。


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