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「もしドラ」第2弾『もしイノ』のあらすじと読書感想文/もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら

2016年1月16日 竹内みちまろ

「もしドラ」第2弾『もしイノ』岩崎夏海のあらすじ(ネタバレ)

 私立浅川学園高校1年生の岡野夢(ゆめ)は、目標も夢もなく毎日をただなんとなく過ごしていた。たった1人の友達・兒玉真実(まみ)から誘われて、なし崩し的に野球部のマネージャーになった。

 真実は、『もしドラ』(『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』/岩崎夏海)を読んでおり、新任教師として浅川学園に赴任してきた作者の岩崎夏海(本名:北条文乃)に話を聞きに行っていた。同じく、『もしドラ』に興味を持った3年生の富樫公平と2人で野球部のマネージャーになっていた。

 浅川学園は、東京西部の多摩丘稜の端に建つ男女共学の私立高校。創立は50年ほど前の高度経済成長期で、全校生徒数は800名弱。当初は学校の施策としてスポーツが振興され、特待生制度も早くから導入。野球部は創立5年目に念願の甲子園初出場を果たし、その後も、春と夏に1度ずつの合計3回の甲子園に駒を進めた。しかし、東京都の高校数が増えて、強豪校も増えたことから、ベストエイトに残るのも困難な状態に。ある時、監督が指導という名のもと、部員に暴力をふるい訴えられた。高野連から1年間の対外試合禁止を申し渡され、それを機に、野球部自体が休部となっていた。

 休止状態になっていた野球部を再会させることになり、真実は、夢と公平に、「ドラッカーの『マネジメント』だと、文乃先生の二番煎じになっちゃって、面白くないと思うんです。私たちは、その先を行かないと」といい、ドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を紹介した。

 真実いわく、「ドラッカーは、今から四〇年以上前に、『これからは競争社会が到来する』と予見したの。なぜかというと、情報化社会が進むに連れて、知識階層が拡大する。すると、競争に参加するプレーヤーが増えるから、競争せざるを得ないだろうって」。また、「それで、人々が生きていくためには仕事を増やす必要があるんだけど、それこそが、『マネジメント』の最も重要な役割の一つなんだって」とも。

 『イノベーションとは、競争しないことである』といい、「イノベーションって、新しいものを生み出すことですよね」などと話が進んだ。『もしドラ』がキッカケでマネージャーに興味を持ち、北条文乃に話を聞きに来ていた柿谷洋子と神田五月の3人を加え、5人で、野球部を、野球をするための組織ではなく、「マネジメントを学ぶための組織」と定義した。

 約25年間も放置されていた練習用グラウンドの整備から始め、新入生から部員を募集した。

 1年生だった真実と夢が3年生になった夏、浅川学園は、西東京大会で優勝し、甲子園出場を決めた。

「もしドラ」第2弾『もしイノ』岩崎夏海の読書感想文(ネタバレ)

 野球部を再開して活動を始めるには、何をおいてもまず9人の選手が必要だろうと思っていたので、読み始めてからすぐに、選手の勧誘をどうするのだろうと思いました。

 真実や夢たちは、まずは、3年経ったら選手が必ず卒業していくという条件のもと、選手がどうしたら野球部に入り続けてくれるのかを考え、優れた指導者がいることや、素晴らしい環境が整っていれば選手が入りたくなるのではと思いつきました。

 そこで、選手の勧誘をする前に、まず、グラウンドの整備を始めたことが印象的でした。グラウンドの整備が一定レベルまで終わったあとには、有名校を招いて、そのグラウンドで練習試合をしてもらっていました。

 結局、新1年生が入学してくるまで、在校生を選手に勧誘することをしていませんでした。

 在校生の調査を進めた結果、在校生の中に野球に秀でたポテンシャルを持つ生徒がいなかったこともあると思いますが、真実や夢たちは自分たちから誰かに選手として野球部に入ってくれと頼むことはせずに、野球をやりたい人たちが向こうから入りたくなるような環境を整えることに力を注ぎました。結果として、入部試験を実施するまでに入部希望者が殺到した場面は、読み応えがありました。

 確かに、「選手をやってくれませんか?」と誰かに頼んだら、頼まれた側には、「自分は頼まれたんだ」という気持ちが生まれるのかもしれません。頼んだり、誘ったりするのではなく、やりたいと思わせて、自分から「やらせてくれ」と言わせる組織を作ることは、なるほどなと思いました。

 また、野球部を、プレイヤー(選手)ではなく、マネージャーが主役の組織というところも印象的でした。

 マネージャーの数がどんどん増えていき、さらに、投手に陸上経験がある生徒を専属トレーナーとして付けて、走り込みをするときにそのトレーナーが一緒に走るというシステムを作っていました。選手ごとに性格が違い、中には、他の選手から遅れる姿を見られたくないという生徒もいました。そういった生徒にも走り込みをさせる手段として有効だと思いました。

 結果としてできあがった野球部は、選手の数は必要最低限に絞られ、一方、部員として多数のマネージャーやグラウンド整備員、トレーナーが所属するという組織になっていました。

 高校生の部活動ということもあり、お金が絡まない点は大きいと思いますが、逆に高校生ゆえに、ひとつだけ気になった点を挙げるとすると、真実や夢やその他多くの生徒たちにとっては、「野球」は目的ではなく、「手段」でしかない、あるいは、斜に構えた見方をすれば、途中で何か気に喰わないことでもあれば「止めます」と言ってほっぽリ出してしまえばいいような「道具」でしかないのかなと感じたことでした。真実や夢にとっては、マネージメントを勉強できるなら、野球ではなくて、サッカーでも、合唱でも、演劇でも、書道でも、俳句でも、何でもよかったのかもしれないと感じました。

 本書に登場したのは、目的も、夢もなく毎日をただ過ごしていただけの高校生たちだったのかもしれません。が、そんな高校生たちが、使命感でも、情熱でも、衝動でもかまわないのですが、「私は何々がやりたい!」と胸を張って言えるような、自らの熱意や信念を注げる何かと出会ったときの物語を読みたいと思いました。


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