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彼女が好きなものはホモであって僕ではない/浅原ナオトのあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2019年10月16日

彼女が好きなものはホモであって僕ではないのあらすじ(ネタバレ)

 安藤純は同性愛者であることを隠して「ふつう」の生活をしている男子高校生で、親にも親友である高岡亮平にも、もちろん学校のクラスメイトにも自分が同性愛者だということを打ち明けずに、既婚者でゲイである年上男性のマコトと交際していた。

 ある日、純は本屋でクラスメイトの三浦紗枝がBL本を手にしているところを目撃する。三浦はボーイズラブが好きな腐女子と呼ばれる女の子であったが、そのことを学校では隠して生きていた。三浦は純に誰にも言わないように口止めして別れた。

 純には同じくゲイの相談相手がいた。それは「ミスター・ファーレンハイト」というハンドルネームのチャット相手であった。20歳のブロガーであるファーレンハイトは年上の恋人がおり、その恋人からHIVウイルスに感染してしまっていた。純は、マコトと付き合い始めた頃にファーレンハイトの闘病ブログを読んで、同じゲイで、同じく年上の恋人がいて、QUEENの音楽が好きという共通点があり、ファンメールを送った。そこから意気投合してメッセンジャーでやりとりをする関係になった。ファーレンハイトにはゲイとしての悩みを相談できていた。

 翌日、三浦は純を呼び出して、腐女子が集まるイベントに一緒に行って欲しいと頼んだ。純は三浦の頼みを断れず付き合うことになった。その日から三浦は学校でも純に話しかけてくるようになった。何度か会話する仲になるうち、三浦は純に恋してしまったのだった。三浦の気持ちを薄々感じていた純は、ファーレンハイトに相談する。ゲイである時点で女性を恋愛対象に見ることはできない。断るのが普通である。しかし、純は「ふつう」に憧れ続けていた。

 ある日、純は亮平から遊園地に誘われる。そこには、クラスメイトで亮平と仲の良い小野と、三浦を含む女子3人がおり、男3人女3人で遊ぶこととなった。そこで純は小野から「実は亮平がずっと三浦のことが好きだった」と聞かされる。しかし、三浦の気持ちを知っていた亮平は、純も誘って遊園地に遊びに来た。複雑な気持ちの純だったが、その日、2人きりで乗った観覧車の中で三浦から告白される。自分はゲイで、しかも相手は親友の片思いの相手である。だが、純はどうしても「ふつう」の男が持つ全てが欲しかった。好きな男とも付き合いたい一方で、女の子と普通に交際して、結婚して子どもを作って、「ふつう」になりたかった。純は、そのまま三浦の告白を受け入れた。

 純は三浦と交際を開始した。一緒に勉強したりデートに行ったり傍から見れば「ふつう」の楽しい交際をしていた。純は三浦のことを、可愛らしい女の子だと思い、人として好きになった。しかし、それは恋愛感情の好きと違うことを自覚していた。ファーレンハイトに三浦と付き合ったことを相談すると、男とも付き合いながら、カモフラージュのように女性とも交際するコウモリのようだと比喩した。実際に、純の恋人であるマコトは、ゲイでありながら妻も子どもいる。悩んでいた純であったが、自分にも「ふつう」にできると思い、三浦と性行為をしようと試みる。しかし、身体は反応せず失敗してしまう。純は自分が「ふつう」ではないと思い知らされる。

 純がファーレンハイトに自分が「ふつう」にはなれないことを相談した。ファーレンハイトからどうして「ふつう」になりたいと聞かれた純は、「家族が欲しい」「母さんを安心させたい」「みんなに気持ち悪いと思われたくない」と答え、最後に「自分を気持ち悪いと思いたくない」と答えた。ファーレンハイトは純に優しい言葉をかけ慰めた。しかし、ファーレンハイトにも悲しい出来事が起きていたことを純は知る。ファーレンハイトの恋人がAIDSに感染して亡くなってしまったのだった。彼の恋人は、彼の従兄弟だった。家族からは交際を猛反対され葬式にも参加できなかったという。ファーレンハイトは、もし自分が死んだら、恋人の墓に思い出であるQUEENのCDを自分の変わりに供えて欲しいと頼む。純はファーレンハイトの辛い気持ちを受け止め約束した。

 純は、三浦との関係を終わらせないといけないと思いつつも続けていた。ある日、三浦と温泉に行ったときに、偶然マコトと鉢合わせする。マコトは家族と一緒に旅行に来ていた。純がお風呂上がりに三浦と話していると、携帯にメッセンジャーが届く。純が確認すると、それはファーレンハイトの遺書だった。ファーレンハイトは恋人を追って自殺してしまったのだった。あまりのショックで純は三浦の元から走りだした。頭で理解しようとしても何も考えられなかった。そこでばったりとマコトと出会った。様子のおかしい純をマコトはなだめた。純は「どうして僕たちみたいな人間が生まれてきてしまったのだろう」とマコトに縋りついた。マコトは慰めるように純にキスをした。しかし、その時、純の頭に何かがぶつかった。純が落としてきた携帯だった。投げた相手は三浦だった。三浦は純にどういうことなのか詰め寄って怒りをぶつけ、逃げるように去って行った。

 純はしばらく三浦を避けて過ごした。しかし親友の亮平から背中を押されて、三浦にすべてを告白することにした。自分はゲイであること、マコトと恋人であることを伝えた。三浦は話を聞いて、好きでもないのに自分を利用していたのかと聞いた。純は、ただ「ふつう」の幸せを手に入れたかったのだと説明した。「ふつう」に女の人と付き合って、結婚して、子どもを産んで、幸せな家庭を築くことが自分にもできるのではないかと思ったのだ。三浦はその話を聞いて、「絶対に振り向いてくれない人を好きになった私はどうしたらいいの」と涙を流した。しかし、2人きりだと思っていた教室に小野が入ってきて、純に怒りをぶつけた。純を罵倒する小野は純を殴り、純も小野を殴り返し騒然し、教師が止めに入る事件となった。そして翌日から「学校にゲイがいる」という噂が広がった。

 自分を見るみんなの視線が変わったのを純は痛いほど感じていた。三浦も亮平も、そんな純にいつも通り接してくれていた。しかし体育の授業前、教室でみんなと着替えていると小野が純に「気持ち悪いから出て行け」と言う。小野を止める亮平に対して、小野は「お前は気持ち悪くないのか」と問われ、亮平は言葉に詰まってしまう。その光景を見た純は亮平との今までの思い出を振り返っていた。父親と離婚した母親に連れられて、この町にきて一番に声をかけてくれたのが亮平だった。いつでも亮平は純の味方で、純は亮平のことが大好きだった。言葉を詰まらせる亮平を見て純は「わかった。教室から出ていく」と言い、教室ドアではなく、ベランダに向かい、窓枠に足をかけた。クラスメイトは騒然とし、純を必死で止めるが、純は「僕は疲れた」と言いベランダから飛び降りた。

 純は死ぬこができずに一命をとりとめた。見舞う母に対して今までの苦しい思いを吐き出した。三浦や亮平は、毎日のように純のお見舞いにやってきた。三浦と話をしているうちに、純は少しずつ元気を取り戻してきた。ずっと学校を休んでいた純だったが、三浦の描いた絵が表彰されると聞き、周囲の目は相変わらず痛いものだったが、終業式には出ようと登校した。純は表彰される三浦の姿を見守っていた。壇上でコメントを求められた三浦は、大きな声で突然自分が腐女子である事を告白した。そして純との出会い、純にゲイであることを打ち明けられた話を続けていく。教師が三浦の告白を止めようと壇上に上がると、それを見ていた生徒たちが一斉に教師を止めに入った。茫然と見ていることしかできずにいた純に、壇上から小野が「ケリをつけろ!男だろうが!」と叫んだ。生徒たちは純を後押しするように歓声をあげ、純はその様子を見て涙が込み上げてきた。勢いよく壇上にあがり純のことを待っている三浦を抱きしめ口づけをした。

 純はファーレンハイトとの約束をかなえるために、三浦と一緒にファーレンハイトの家を訪ねる。ファーレンハイトの母親も純のことを聞かされていた。ファーレンハイトの両親は自分の子どもが同性愛者であることを受け入れず執拗に彼を責めていたことを知る。しかし、自殺したことによって自分たちが息子を苦しめていたことを実感していた。純が仏壇の遺影を見て、そこでファーレンハイトが実は中学生だったことを知る。自分よりずっと大人だと思っていた相手が、こんなにも若く、そして苦しみ、若くして亡くなってしまったことを知り純は涙が止まらなかった。そして、三浦と共に海を見ながら、純は別れを決意した。

 純は大阪の高校へ転校することになった。純は、恋人のマコト、親友の亮平、そして三浦、この町で出会った大切な人たちと別れを告げた。転校先に登校する前日、純はメールで三浦に新しくブログを始めることを報告した。自分がファーレンハイトと出会えたことを思い、どこにでもいる同性愛者の高校生のブログを書くことを決めたのだった。そして初登校日、純はある自己紹介をしようと決めてきた。教室の前にたち胸を張り挨拶すると、教室からは大きな声が聞こえた。

彼女が好きなものはホモであって僕ではないの読書感想文

 この作品は腐女子のクラスメイトがBL本を購入しているのを目撃してしまった主人公のゲイの少年、安藤純の話です。近年ドラマや小説でも、LGBTを題材にしたものは増えてきました。そういった意味では数十年前に比べ、人々の価値観も広く多様になってきているのかもしれませんが、この本を読んで、実際に純が抱える苦悩や「ふつう」への憧れ、周囲や自分に対しての諦めなど、複雑な感情を痛みと共に感じることができました。最初から最後まで、純の視点で物語が進むので、非常に読みやすく純の感情に浸ることができます。色々な価値観を知るという点で、どうか沢山の人の手に渡り、読んでもらいたいと思える作品です。

 特に印象的だったのは、純が三浦に自分がゲイであることを教室で告白するシーンです。三浦は、ゲイであるカモフラージュのために自分のことを利用しだましていたのかと質問します。三浦の立場を考えれば、私もきっと同じ質問をしてしまうと思います。ゲイである時点で、女性が恋愛対象ではないことは純もわかっているはずで、それなのに女性からの好意を受け入れた。傍から見たら利用したと言われてもおかしくないと思います。しかし、純は自分もみんなが手に入れることのできる「ふつう」が欲しかっただけだと訴えていました。私はこの言葉にハッとさせられました。ゲイだからといって、どのように男性と付き合うかという未来を夢見ているだけではなく、女性と恋愛して結婚して子どもができて幸せな家庭を作る、そんな日常的なことを望んではいけないのかという、叫びに聞こえました。

 また、本作を読んで、身の回りにも悩みながら周りに相談できずに、「ふつう」になろうとしている人がいるのかもしれないと感じました。その「ふつう」という概念が、LGBTの人だけではなく人を傷つけてしまうのかもしれない、性的に少数であること以外にも、色々な面で少数として生きている人が、世に広がる「ふつう」という概念によって生き辛くなっているのかもしれない、そんなことを考えました。この作品を読むことで、100%の苦しみを理解できなくても、自分以外の「ふつう」を考えるきっかけになると思います。


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