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ちょっと今から仕事やめてくる/北川恵美のあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2019年7月17日

ちょっと今から仕事やめてくるのあらすじ(ネタバレ)

 印刷会社の新人営業マンである青山隆は、毎日上司にしごかれ、心身共に疲弊していた。会社から家への帰宅途中、ぼんやりと電車のホームに立ち、落下しそうになるところを男に助けられる。その男は「ヤマモト」と名乗り、隆の小学校のころの同級生だと告げた。隆はヤマモトについて全く記憶になかったが、ヤマモトが小学校にいた期間はとても短い期間だったようで、同級生との再会ということで食事をすることになった。ヤマモトは愉快な男で、隆はヤマモトと意気投合して久しぶりに楽しい時間を過ごした。それ以降、隆は頻繁にヤマモトに会うようになった。ヤマモトから明るい気分になれるようなアドバイスをもらい、隆は次第に良い方向に変わっていった。仕事にも前向きになり、営業成績も徐々に上がっていった。

 しかしある日、大きな仕事を獲得できそうだと喜んでいた矢先、隆の取引先から発注ミスのクレームが入る。発注時に何度も確認したはずなのに、と後悔するがミスは取り戻すことができず、営業成績の良く隆の憧れている五十嵐先輩がフォローしてくれて、事態はなんとか収まった。しかし、その翌日から隆は会社で地獄のような日々を過ごす。仕事も信用をなくしてしまい、部長からは毎日罵倒される日々が続き、隆の精神は限界を迎える。

 仕事でミスをした日から、隆はヤマモトとも連絡を断っていたが、心配したヤマモトから強引にご飯に誘われる。話を聞いたヤマモトは転職を勧めるが、隆はこんな自分が転職したところで活躍できるわけがないと考えていた。

 それからも、ヤマモトは隆を誘い、転職についての話をするようになる。それでも会社を辞めるという選択肢が頭にない隆に対して、「会社やめることと、死ぬことは、どっちのほうが簡単なわけ?」と質問をする。ヤマモトは隆に初めて会った時、駅のホームで死にそうな表情をしている隆を見て、心配になったと言う。そして、ヤマモトは同じような表情をした人物を知っているのだと話し、今までにない真剣な表情を見せた。

 隆はヤマモトの素性が気になり、ヤマモトに名前を確認する。ヤマモトは自分を「山本純」と名乗った。隆は自分の同級生にそんな人がいないことを知り、山本純という名をネットで検索すると、山本純は3年前に自殺しているということがわかった。ネットに掲載された顔写真は、隆の知るヤマモトと同じ顔をしていた。ヤマモトは幽霊なのか、と隆はヤマモトについて疑問を抱く。

 ある日、隆が朝早くに出勤すると、五十嵐先輩が隆のパソコンを調べていた。その時は、引き継いだ会社についてのデータを調べていると言っていたが、後日、発注書のデータを書き換えていたのが五十嵐先輩であることが発覚する。隆が大口契約を取ることが許せなかったという。尊敬していた五十嵐先輩の犯行に、隆は大きなショックを受けた。

 次の休日、隆はハンマーを持ち、会社の屋上にいた。隆はいつも「屋上の南京錠が開いていたらいいのに」と思っていたが、その南京錠をハンマーで壊して、フェンスを出た。別世界にも思えたその場所に立っていると、ヤマモトの声がした。

 隆は「山本純は3年前に死んでいる。俺もそっちに行っていいか?」と聞いたが、ヤマモトは隆の手を握り、隆を連れ戻した。ヤマモトの手はちゃんと温かく、2人は静かに涙を流した。ヤマモトは、隆に残された人の気持ちを考えたことがあるのかと聞いた。隆は、その質問に両親の顔を思い浮かべた。ヤマモトは「お前の人生は、半分はお前のためと、あとの半分は、お前を大切に思ってくれてる人のためにある」と隆に言った。隆は両親に電話して、久しぶりに家族と話をした。自分を心から心配してくれる声に、自分の愚かさと家族の愛情を感じた。

 翌日、隆は会社を休み、「山本純」の実家を訪れていた。彼の母親から、純が自殺してしまった話を聞き、救えなかった後悔で今も母親が胸を痛めていることを知る。さらに、純には双子の兄弟がおり、母親が同じ顔を見ると純を思い出し泣いてしまうため、双子の兄弟は住所も勤務先も知らずに家を出てしまったと聞く。たまに、元気でやっているというメールだけが送られてくるという。隆はその話を聞いて、ヤマモトらしいと感じた。そして、母親に対して「あなたの息子に、命を助けられました」とお礼を言った。

 その翌日、隆はスーツを着てヤマモトに会いに行った。ヤマモトとの出会いの話になり、実は山本は隆と初めて会った日、食事の場で隆がトイレに立った際に鞄の中をあさり、青山隆の個人情報を確認していたことを告白する。ヤマモトは、ホームで隆の顔を見てから、「何としても助ける」という決意をしていた。隆はヤマモトに改めてお礼を伝え、ヤマモト自身も純の死の痛みを抱えていることを知って、何か力になれることがあれば助けになりたいと伝えた。そして、初めてヤマモトの本当の名前「山本優」と呼んだ。

 そこから隆は、会社に行き、部長に退職すると言った。突然のことに、部長は隆を罵倒したが、隆は既に吹っ切れており、「俺の人生を、お前が語るんじゃない」と言い返した。自分には世界を変える力は無くても、自分の人生だけは変えられるのだと言い、今までお世話になりましたとお礼を告げた。隆は身も心も軽くなり、カバンを振り回してながら横断歩道をスキップして渡った。その様子をヤマモトは遠くから見ており、そのまま姿を消した。

 ***

 2年後、ヤマモトはフリーランスの臨床心理士として働いていた。そこへ、新しい心理カウンセラーの研修生がやってくる。ヤマモトの目の前には、2年前カバンを振り回して横断歩道をスキップしていた男がいた。ヤマモトは、天国にいる双子の兄弟に、人生はそれほど悪いものじゃないと語った。

ちょっと今から仕事やめてくるの読書感想文

 本作はブラック企業で働く隆が、ヤマモトという不思議な男との出会いによって、自分らしい生き方について考えていく作品です。まず「ちょっと今から仕事やめてくる」という、インパクトのあるタイトルからとても惹きつけられるのですが、文章もとても読みやすく、普段本を読むのに慣れていない人でも、最後までサクサクと読める作品だと思います。

 隆の会社はいわゆるブラック企業と呼ばれるもので、上司からのパワハラなどを受けています。最近ニュースなどでも、過労死や自殺の話題を目にすることがありますが、隆と同じ境遇の人、隆ほどではなくとも会社で働いていて、精神的にしんどい気持ちになり心が病んでしまう人、そんな人は少なくないのではないかと思います。私も読んでいて、同じような気持ちになったことがあるなあ、と心が痛くなりました。特に新人の時は、仕事に慣れるまで覚えることが多く、家に帰っても休日でも仕事の事を考えてしまい、精神的にも苦しかった記憶があります。

 仕事が辛くて自殺をしてしまう人が、沢山いるという事実はとても苦しく悲しいことです。家族や友人からすれば、間違いなく「死ぬほどつらいなら会社を辞めて欲しい」という気持ちになります。この作品の中でも、「会社辞めることと、死ぬことは、どっちのほうが簡単なわけ?」とヤマモトが聞いていますが、絶対に会社を辞めることを選んで欲しいと思います。でも、隆のように「入社して数年で辞めたら他の会社でもやっていけない」と悩む人がいるのも事実です。でもその悩みも全て、命があってこそだというのを強く感じて欲しいなと思います。隆が屋上で自殺を踏みとどまったあと、家族に電話をかけるシーンがあります。そのシーンを読んで、悩んでいる時は、辛くて辛くて孤独のような気持ちになっているかもしれないけれど、ちょっと周りを見てみればきっと心配に思っている人がいる、そう気づいたら自分をもっと大切にできるのではないかと思いました。会社を辞めたいと思っている人、仕事が辛いなと思っている人、もう死んでしまいたいと思っている人に、どうかこの作品を読んで欲しいなと思います。(まる)


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