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か「」く「」し「」ご「」と「/住野よるのあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2018年5月4日 21時10分

か「」く「」し「」ご「」と「/住野よるのあらすじ(ネタバレ)

1.

 男子高校生の京は他人の感情が、その人の頭の上に「、」「。」「!」「?」のマークとして見える能力を持っている男の子。同じクラスのミッキーというあだ名の明るく元気な女の子に恋をしている。

 京の隣の席のエルというあだ名の少しおとなしい女の子は2か月前から不登校になっている。京はエルと隣の席の友人として仲良くしていたと感じていたが、エルが学校に来なくなったのは自分が傷つけてしまったせいかもしれないと少し悩んでいる。

 ミッキーは定期的に、ヅカというあだ名の男の子に「何か変わったと思わない?」という質問をする。ヅカは京と仲の良い男の子であるが、おとなしい性格の京と対照的に明るい性格で外見も良い。京はミッキーのシャンプーの香りが日によって変わっているという変化に気づいていたが、本人に言い出すことができないでいた。

 ある日、京はCDショップで、クラスメイトの女の子が「ミッキーは最近、大塚君の事が気になっているらしい」と噂しているのを聞く。その話を聞いた京は、ひどく動揺し何も手がつかなくなってしまう。

 久しぶりに外に出た京は、ミッキーと出会う。京は、告白してしまおうかと思ったが、悩んだ挙句に出てきた話題は、ミッキーが最近変えたシャンプーはエルが使っているシャンプーと同じだという事であった。京がその話題を出したことで、ミッキーはとても喜んだ。実はミッキーは不登校になったエルと仲良くなっており「京がエルのことを嫌いじゃないとわかればエルは学校に戻ってくる」という約束をしていた。そのために、回りくどくヅカに質問をしたりして京の反応を見ていたのであった。

 まだエルが学校に通っていた頃、京はエルが使っているシャンプーについて指摘したことがあった。そのシャンプーは中学生の頃、イケているグループの人達の間で流行っていたシャンプーであった。指摘されたエルは悲しい感情を示し、その反応を見て反省した京はその後エルとうまく会話ができなくなり、そのままエルは不登校になってしまった。エルと京は互いに嫌われたと思っていた。誤解を解くことができ、学校に登校してきたエルは、京に向かって控えめに「おはよう、大塚くん」と挨拶をした。

2.

 ミッキーは他人の感情が、プラスに傾いているか、マイナスに傾いているかシーソーのようなバーの動きが見える能力を持っている。

 ミッキーのクラスでは文化祭の劇でヒーローショーをやることになった。目立ちたがり屋で派手好きのミッキーはヒーロー役に名乗り出た。パッパラパーだからという理由でパラというあだ名をつけられた女の子が、脚本と監督を担当し、リーダーとしてみんなをまとめることになった。パラは進路のために、完成した劇を撮影して大学のAO入試で提出する予定だった。クラスメイトもパラの目標を応援していた。

 文化祭の準備が次第に整っていく中、ヒーローに倒されるボス役の男の子が怪我をしてしまう。みんなが不安がる中、パラはへらへらした様子で代役を名乗り出た。実際に練習を再開してみると、パラは台詞も演技も完璧だった。いつも軽い調子のパラであるが、全員分の演技ができる準備をしていた。迎えた当日、舞台がはじまる前、ミッキーはとても緊張していた。すると、誰かが手を握って「大丈夫」と唱えてくれた。よく聞いたことのある男の子の声だった。その言葉で安心したミッキーは心を整えて舞台に出ることができた。

 舞台は順調に進んでいったがミッキーは一番大事なところでセリフが飛んでしまう。パラの夢をつぶしてしまう、とミッキーは混乱して言葉が出ない。その時、舞台上にパラが登場し、アドリブで乗り切り舞台を無事終わらせてくれた。

 後日、ミッキーは京にお礼を言う。「大丈夫」と言って手を握ってくれたことについてである。しかし、京が「大丈夫」と言ったのは、自分の緊張を溶かすためにパラに言えと言われた言葉だった。そして、ミッキーの手を握っていたのはパラであった。

3.

 パラは人の鼓動を、数字で見ることができる能力を持っている。自分の鼓動も見ることができるため、常に一定のリズムに保つ癖があり、自分の事を冷たい人間だと思っている。

 自分と同じように常に鼓動を変えないクラスメイトがいる。ヅカである。爽やかでクラスの人気者であるが、何があっても動じないヅカのことをパラは内心気に入らない奴だと思っていた。

 修学旅行の朝、いつものようにパッパラパーのふりをしてヅカにちょっかいをかけたパラであったが、ヅカから鈴の音が聞こえた。パラの学校では、修学旅行中に、鈴を渡した相手とはずっと一緒にいられるというジンクスがある。パラはヅカの相手が気になり始める。真っ直ぐで裏表のないミッキーが大好きで、さらに京のミッキーへの想いに気づいて応援しているパラは、ヅカの相手がミッキーではないかと思いながら、ヅカの相手を探ろうとする。自分のパッパラパーというキャラクターを利用して、ヅカにまとわりつき、探りをいれる。

 しかし、ヅカにまとわりついていたことで、ヅカに恋をしている女の子を傷つけてしまう。そして、エルから「見ていてパラは楽しそうじゃないからやめたほうがいい」と言われる。図星をつかれたパラは、いつもの調子で答えることができずにエルを怖がらせてしまう。

 パラは自己嫌悪の中、風呂場で倒れてしまう。翌日は1人ホテルで安静にして、みんなが帰ってきたころにヅカがパラの見舞いに来る。そこで、初めてヅカと本音で話すことができる。また、ヅカは鈴の相手がミッキーではないので心配する必要はないと言ってくれたが、最後まで相手は教えてくれなかった。

 最終日、パラはミッキーから鈴をもらう。ミッキーは仲が良い友達みんなに鈴をあげていた。ミッキーがヅカにも鈴を渡したというのを聞き、ヅカが持っていた鈴はミッキーがあげたものか、とパラは思った。しかし、ミッキーから話を聞くと、ヅカに渡したのは朝ではなかった。その時、パラはヅカを問い詰めたときのヅカの態度を思い出し、ヅカが鈴を渡そうとしていた相手がエルだという事に気づく。

4.

 ヅカは人の感情を、トランプのマークで見ることができる能力を持っている。

 ある日、エルが学校にクッキーを作って持ってきた。ミッキーと一緒にクッキーを食べていたヅカは、クッキーの味を褒めた後、ミッキーと一緒に隠し味は何かを聞く。エルは、「秘密」と言って席を立った。パラの感情が哀しい気持ちで膨らんでいたことにヅカはひどく動揺する。また、京からエルについて相談される。京はエルの態度が自分だけによそよそしくなっていると悩み、自分がエルを怒らせたのではないかと不安になっていた。

 週末にヅカ、京、ミッキー、エル、パラの5人でお花見をすることになっていた。約束通り集まったが、エルは相変わらず哀しいマークを浮かべて、京ともぎこちない。そんな中、料理が苦手なミッキーがクッキーを作って持ってきた。エルからレシピを教えてもらったというミッキーであったが、それでも「エルのようにおいしく作れたわけではない」と言った。その言葉を聞いて、エルは立ち去ってしまう。

 慌ててエルを追いかけたヅカが理由を聞くと、エルは大好きなミッキーに意地悪をして隠し味を教えなかった事が苦しいと言った。エルは京がミッキーを好きなのを知っていたが、友達として気が合う京のことが大好きだった。京がミッキーを好きな気持ちとは違うけど、京とミッキーがうまくいくことに不安を覚えて、クッキーの隠し味を秘密にしてしまったという。そんなミッキーへの罪悪感もあり、京にそっけなくしてしまっていた。

 エルは京と仲良くなったことで、仲良くなった友達がいつか離れてしまうのが怖くなっていた。ヅカにはその気持ちが理解できなかったが、エルの不安が大きなものだという事は理解した。そこで誰にも言っていなかった秘密を告げた。実は、ヅカはミッキーと中学時代付き合っていた。仲の良い友達ではあったが、恋愛感情とは違うことに気づき別れたが、それでも今また仲良く友達に戻れているという話をした。

 エルは落ち着き、京にも元通り接することができた。ヅカはエルへの気持ちは、ミッキーの時とは違うことを改めて実感し、そしてミッキーが京に思いを寄せていることにも気づく。

5.

 エルは他人の恋愛感情、誰が誰を好きかという矢印を見る能力を持っている。

 お花見をした5人で、タイムカプセルを埋めようという話になり、10年後のそれぞれに向けて手紙を書くことになった。エルは、それぞれの恋愛感情を知っている立場から手紙を書いていく。ただ、エルはヅカの矢印だけは見たことがないという。

 京は手紙ですらミッキーへの想い書くことを悩んでいた。自分なんかがミッキーと釣り合わないと本気で思っていた。エルはミッキーの矢印が見えているから、諦めて欲しくないと思っているが、不安になる京の気持ちも痛いほど理解していた。京は、ミッキーと仲良くなれただけで十分だと思っていたが、好きだからこそどんどん欲が出てくる自分が怖いと思っていた。

 翌日エルはいつものようにみんなが集まる図書室へ行った。そこで京と一緒に勉強していると、いつもよりも不自然な笑顔のミッキーがやってきた。そして、京の目の前で京宛ての手紙を書き始めた。京はたまらずミッキーのペンを止めた。ミッキーが京の気持ちに気づき、区切りをつけるために手紙を書いてくれていると思った京は、「僕なんかがごめん」と言った。僕なんかが好きになってごめん、という意味だとエルは理解した。しかし、その言葉でミッキーは図書室を出て行ってしまう。ミッキーの矢印がまだ京に向かっていることを知っているエルは、京に向かって追いかけるように言い、結果的に2人の誤解は解けた。

 実はミッキーは、京はエルの事が好きだと勘違いをしていた。だから受験の前に、京への気持ちに区切りをつけようと行動を起こしたのであった。互いに勘違いをしていたせいで、ミッキーは「僕なんかがごめん」という言葉で京に振られてしまったと思い、図書室を出て行ったのであった。

か「」く「」し「」ご「」と「/住野よるの読書感想文

 この作品は5人の高校生がそれぞれ主人公として物語が進んでいきます。そして、5人それぞれに特殊な能力があります。他人について自分だけに見えている情報があり、まずその設定が非常に面白い設定だなと思いました。他人にはない能力があるという設定だけを考えると、それぞれの能力を生かして恋や人間関係を円滑にしていく物語なのかなと思いますが、実は単純にそうではないというところが、本作の面白い部分だなと思いました。

 感情が見えているからといって、その受け止め方などは、性格に左右されるというのも面白いと思います。京やエルのように自分に自信のないタイプの子は、相手を知っていることで多少は自信になるのかな、と思っていましたが、逆に不安が募ってしまっていました。また、パラだけが唯一自分についても見ることができる子なのですが、自分を客観視するあまり、本来の自分と周りから見られる自分のギャップに苦しんでいました。能力の有無を問わず、受け止め方は本人次第なのだと思いました。

 また、この物語に出てくる5人の能力。本を読んだ方はきっと、自分だったらどんな能力が欲しいかな、と考えるのではないかなと思います。私もどの能力があったら良いのか考えてみましたが、もしかしたら何も見えない、何も能力がない、というのが1番良いのかなと思います。登場人物たちは、見えているからこそ、余計悩みが増えているようにも見えて、見えているけど見えていないというように思えました。

 特殊な能力があり他人の感情などがわかったからといって、全てが思い通りにいくわけではありません。感情が見えているだけでは、相手の感情を変えることはできません。また、見えていたとしても、相手に正面からぶつかって相手を知らなければ、その感情がどこから生まれたものなのか、感情の理由を知ることができません。感情が見えていようとなかろうと、やっぱり自分や相手の何かを動かして変えていくのは、自分自身の勇気や行動なのだと思いました。(まる)


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