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ルビンの壺が割れた/宿野かほるのあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2018年2月27日 11時40分

ルビンの壺が割れたのあらすじ(ネタバレ)

 水谷一馬は何げなく開いていたフェイスブックで、過去の恋人である結城未帆子を見つけ未帆子にメッセージを送る。未帆子から返信はないが、数年かけ何通かメッセージを送る。メッセージでは、未帆子と出会った大学時代のことを振り返っていた。2人は大学時代、同じ演劇部。水谷は部長で、未帆子はあか抜けない後輩だった。その数年後、2人は結婚式を挙げる関係になっていた。しかし、未帆子は結婚式に現れず、そこから水谷は苦しんでいた。

 最初のメッセージから数年後、未帆子から返信があり、水谷と美帆子のメッセージのやりとりがはじまる。

 大学時代、水谷から見た未帆子はあか抜けない後輩だった、土日の練習を休んで老人ホームでボランティア活動をしていることを素晴らしいと思っていた。未帆子の事を意識したのは、「ルビンの壺が割れた」という舞台のオーディション時であった。脇役を決めるオーディションで、相手役であるヒロインの子が欠席しており、その代役として入ったのが未帆子だった。そこで、未帆子は周りの部員も驚くほどの演技を見せた。部内の賛否はあったが、結局、未帆子がその舞台のヒロインに抜擢された。そして、舞台は大成功に終わった。

 しかし、その時点では、水谷は、未帆子に女性としての好意を持っていなかった。水谷には婚約者がいた為である。水谷は中学生の時に両親がなくなり、叔父さんに引き取られた。叔父さんには、叔母さんの連れ子である優子という娘がいた。水谷と優子は兄妹のように過ごしていたが、大学生になったある日、優子は水谷の事が異性として好きで、結婚してくれと叔父さんに頼まれた。育ててもらった恩もあり水谷は優子と婚約した。最初はギクシャクしていたが、徐々に恋人のような関係になり肉体関係もあった。

 演劇部でキャンプに行った日、水谷は未帆子を抱きしめキスをした。美帆子は水谷に婚約者がいることを知っていたが、嬉しい気持ちが勝り拒むことができなかった。水谷も美帆子に惹かれている気持ちが溢れてしまっていた。水谷は優子の存在をどうしたら良いのか悩んだ。

 水谷が未帆子と出会う1年前、水谷は病院で梅毒と診断された。水谷の性体験は優子以外なく、優子に問いただすと逆に責任を押しつけられた。水谷が別れ話を切り出すと、優子は過去に酔った勢いで強引に奪われたと告白する。水谷は優子を許し、そのまま婚約を解消せずにいた。

 水谷は、その当時見過ごした事を、優子への貸しだと思っていた。叔父さんに優子と別れる話を切り出すと、猛反対されすぐに家を出て行くように言われた。引っ越し準備のため、優子に貸していたモノを返してもらおうと優子の部屋に入り、優子の日記を見つけてしまう。日記には、叔父さんと優子が中学時代から肉体関係にあるという事が書かれていた。叔父さんの部屋からも優子の裸の写真が出てきた。水谷は叔父の家を出てから3日くらい自分が何をしていたのか記憶にないほどショックを受けた。

 水谷にとって本当の悪夢は結婚式当日だった。待っても未帆子は式場に現れなかった。そして、同じ演劇部の高尾の姿もないことに気づいていた。そのことを30年間ずっと気にしていた。

 水谷は自分と美帆子が付き合う前、美帆子と高尾が付き合っていた事を知っていた。また、美帆子の秘密も知っていた。結婚式を間近に控えたある日、演劇部の後輩から未帆子のよからぬ噂を聞いた。事実を確かめるため、未帆子がボランティア活動をしている日に、美帆子を尾行した。美帆子の行き先は「ソープ」であった。

 美帆子は、水谷が30年前に自分がソープで働いていた事を知っていることに驚いたが、隠しても仕方がないのでソープで働いていた理由を説明する。美帆子が高校3年生の時、父の会社が倒産し破産となった。勉強ができたがお金に困っていて進学も諦めようとしていた美帆子に、高校の同級生の高尾がアルバイトをしないかと持ちかけてきた。高尾の実家はソープだった。美帆子は進学のために、ソープで働くことを決めた。秘密を共有した高尾と付き合うようになり、高尾の友達とも肉体関係を結ぶようになった。美帆子にとって、いけない仕事をしているという意識はなく、単なる肉体労働の一種だった。美帆子は水谷以外との体の関係は、愛のないものだと認識していたので、水谷に言うつもりもなかった。

 未帆子から話を聞いた水谷は、美帆子がソープで働いていると知りながらそのことには触れないでいたのは、未帆子を許すと決めていたからだと伝える。ただ、1番ショックだったのは水谷のよく知る男性が何名も未帆子の店に行っていたことである。水谷は優子や未帆子に裏切られたことなどで人間不信になり自分が不幸になったのだと、美帆子を責める。

 未帆子は水谷が不幸だと思っている原因は水谷自身であると言い返す。そして、結婚式前日に美帆子が知ってしまった秘密について告げる。結婚式の前日、水谷のアパートにいた美帆子は、ふと水谷の机の引き出しを開けた。机の中には、小さな髪飾りがあった。美帆子はその髪飾りを交番の掲示板で見たことがあった。美帆子は交番の前に行って確認をした。掲示板には、行方不明の幼い女の子のポスターが貼ってあり、水谷の引き出しにあった髪飾りは女の子がつけているものと同じであった。その髪飾りは女の子のお母さんの手作りで、世界に1つしかないものであった。

 混乱した美帆子は高尾に電話し相談した。高尾からのアドバイスで髪飾りを元の場所に戻して、警察に通報し、そのまま息をひそめるように暮らすことになった。半年後、ニュースで水谷が幼女殺人容疑で逮捕された事を知り、過去にも幼女に対するわいせつ罪が何件かあったことも知った。

 30年経ち、突然、水谷からメッセージがきた時、美帆子は驚くと同時に恐怖を感じた。水谷が無期懲役と聞いていた美帆子は、恐る恐るメッセージのやり取りをした。文面から水谷が心を入れ替え生まれ変わったのだと思っていたが、水谷は何も変わっていないと感じた。メッセージのやりとりの中で優子の名前が出た時、美帆子は知り合いに優子の消息を探ってもらうよう依頼した。優子は前年に謎の失踪をして、親族から捜索願も出されていた。それは、水谷が前に使っていたアカウントを消した頃と一致していた。美帆子は最後のメッセージを送信後、これまでの水谷とのやり取りをプリントアウトし警察に行くと伝えた。

ルビンの壺が割れたの読書感想文(ネタバレ)

 この作品は水谷と美帆子という30年も前に恋人関係にあった2人のメッセージのやりとりだけで物語が進んでいきます。フェイスブックのメッセージというのが現代っぽく、話し言葉でテンポが良く非常に読みやすいです。しかし、かみ合っているようでかみ合っていないような2人のやりとりに、だんだん不思議な違和感のような、変な気持ち悪さを抱えていき、そのまま読み進めると、最後にこんなオチが待っていたのかという衝撃を受けます。

 私も読者として、水谷がずっと不思議に思っている「30年前、結婚式になぜ美帆子が来なかったのか」という謎を考えてながら読んでいたのですが、その謎と共に、最後のオチにたどり着くまで、徐々に水谷という人物に対しても謎が深まっていきました。お互いに過去の肝心な話をそらしながら、昔の思い出を話していく2人は、互いを探っているようで、とても奇妙なやりとりに見えました。ただ、それでも、続きが気になって読者を読み進めさせる、魅力のある作品だと思います。

 水谷は、自分の犯した罪とそのせいで苦悩の人生を歩んだことを、過去に自分が傷ついた出来事、そしてその出来事を起こした優子と美帆子という2人の女性のせいだと責任転換しています。2人に対しての、同じ過ちを繰り返しているのだなと感じました。優子や美帆子についての事実は確かにショッキングな出来事だと思いますが、それと自分の罪は全く別物です。また、自分も罪を犯しながらも、美帆子たちと普通に過ごしていたことに非常に恐怖を覚えました。

 また、この作品は一読した後、読み直すことで、改めて気づくことがある作品だと思います。私も、最後のオチまでたどり着いた後、衝撃を覚えつつすぐに再読しました。最初に読んだ時は単なる世間話のように思えていたメッセージのやりとりが、改めて読むことで違った意味に捉えられる言葉がちりばめられており、恐怖を感じるという不思議な体験ができると思います。(まる)


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