2017年7月23日
「オズの魔法使い」と言えば、アメリカを代表する童話であり、これまでいくつもの小説や絵本として翻訳され、アニメや映画など映像としても親しまれている作品だ。しかし、話の内容や登場人物たちは知っていても、実際しっかりと呼んだことがないという人も多いはず。私もその一人だった。
今回このような書評を書かせていただく機会をいただき、初めて「オズの魔法使い」(ライマン・フランク ボーム著/にしざかひろみ(イラスト/河野万里子翻訳)を手に取ってみた。子供向けの物語だろうとかいくぐっていたのだが、これが驚きと興奮に満ちた冒険活劇で、心を鷲掴みにされてしまい、この世界にずっといたいとさえ思わせるほどに心を鷲掴みにされてしまった。
物語の主人公はカンザスの大草原で暮らす、ドロシー。農夫のヘンリーおじさんとその妻エムおばさん、そして愛犬のトトと共に暮らしているが、退屈な毎日にうんざりしている。そんな時に彼らを大竜巻が襲う。
難を逃れようとするドロシーであったが避難するのが遅れてしまい、そのまま家ごと空高く飛ばされてしまう。何時間も何時間も飛ばされ続けた先に辿りついたのが、マンチキンと呼ばれる不思議な人たちが暮らす不思議な国。着陸した拍子にその国を支配していた東の魔女を倒してしまったことから大魔法使いと勘違いされてしまったドロシーだったが、退屈極まりなくすべてが灰色に見えたカンザスの大草原よりも満ち足りた世界が広がっていることに心地よささえ感じてしまう。
しかしやはり心配はかけたくないということからカンザスへ帰りたいと望む、ドロシー。帰るためにはエメラルドの都に住むオズという魔法使いを訪ねる必要があり、彼女の黄色いレンガの道を進む、長く過酷な旅路が幕を開けるのだ。
道中、賢くなるために脳みそが欲しいかかし、マンチキンの女の子に愛してもらうために心が欲しいブリキのきこり、百獣の王でありながら臆病なため勇気がほしいライオンを仲間にしたドロシーは、それぞれエメラルドの都でオズに願いを叶えてもらうために、お互いを支え、協力し合いながら、歩き進んでいくという物語だ。
今回「オズの魔法使い」に初めて触れて気付いたのは、登場するキャラクターたちが自身の欠点として捉えている部分が実は最大の長所であるという点。
頭の中まで藁でできているかかしは賢くなるために脳みそを欲しがるが、苦境に立たされた時などに魅せる機転の利いたアイディアの数々で仲間たちを救い、ブリキであるが故に心を失ってしまったきこりは、ほんの小さな虫でさえも殺せないほどに心優しく、すぐに泣いてしまうほどの優しさを持ち、自身を臆病者だと咎めるライオンは、ドロシーや仲間たちを救うためなら、どんな苦難にも真っ向から飛び込んでいくほどの強さを持つ。キャラクターそれぞれがそういったことに気付かず、すでに持ち合わせているものを欲しているという部分に多いに心惹かれた次第だ。
また、エメラルドの都に住む恐ろしき魔法使い オズの正体が、ただただ仕立て上げられた存在だと認識させる箇所の背景が非常に秀逸だったように思う。
なぜなら、彼もまたドロシーと同じように意図せずにこの不思議な世界に迷い込み、ドロシーと同じように魔法使いと崇められ、素直な心を持ったドロシーは魔法使いではないと偽ることはなかったが、オズは自身の置かれた立場に甘んじてしまい、結局ペテンを働くこととなってしまった。実は両者ともに同じような境遇であるというところに不思議な縁を感じ、より一層の感情移入を生む結果をもたらしている。
結局オズは最後にかかし、ブリキのきこり、ライオンにそれぞれ欲していたものを与えるのだが、その与え方もまた素晴らしいものであった。これはぜひとも、実際に読んで確かめてもらいたい。
作者のライアン・フランク・ボームが序文で『今の子供たちが喜んで読めるように』という願いを込めてこの物語を書いたと綴っているが、奇想天外でハラハラドキドキ、次から次へとページをめくっていきたくなるストーリーに大人の私までもが大きく心を揺さぶられてしまった。
もちろん童話であるため、子供たちが大変楽しめる作品になっているのだが、決して子供向けというわけではなく、むしろ想像する楽しさや無意識に作品の世界に没頭するという感覚を忘れてしまった大人たちに読んでもらいたい作品。随所に織り込まれた挿絵の美しさも際立ち、なんだか童心に戻ったような気持ちにもさせる。
最後になってしまったが、この夏休みシーズン。
小学校や中学校では毎年、読書感想文という宿題が出るであろうが、本書はそれにピッタリな題材と言えるだろう。子供たちが読むと同時にぜひとも親御さんたちにも目を通していただきたい。この夏は家族そろって、エメラルドの都への旅行なんていかがだろうか。道中で出会うドロシーを初めとした登場人物たちから、きっと何か大切なことを教えてもらえるはずだ。もしも、帰りたくなったら、銀の靴のかかとを三回鳴らして、『帰りたい』と望めばいい。(文=Sunset
Boulevard Twitter:https://twitter.com/sunsetblvdmovie)
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