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フォルトゥナの瞳/百田尚樹のあらすじと読書感想文

フォルトゥナの瞳/百田尚樹のあらすじ

 木山慎一郎は自動車のコーディング工場で働いている。幼いころに家族を亡くして施設で育ち、施設でもいじめられて育ったため、人と交わるのが苦手で、親しい友人がいたこともない。もちろん恋人もいない。毎日精一杯仕事をして家に帰るだけの生活をしている。

 ある日、慎一郎は電車の中で腕が透けている人を見る。最初は信じられなかったが、自分にだけ透けている人間が見えると気付く。何人かそういった人に出会ううちに、全身が透けている男に出会った。気になって後をついていくと、どんどん透けていく。そして、その男は目の前で、事故にあって死んでしまった。慎一郎は、死が迫った人が透明に見える「目」を持っているという自分の能力に気づく。

 それから何度か体が透けている人の死の現場に立ち会う。ある日、職場の同僚である金田が社長の遠藤と揉めクビにされた。そのとたん、慎一郎は遠藤の手が透けているのが見えた。その後も注意深く遠藤を見ていたが、体はどんどん透けていき、死が近づいているのは明らかだった。慎一郎は仕事終わりに遠藤をごはんに誘い死を回避したいと思った。二人が歩いていると後ろから金田がバッドで殴り掛かってきた。慎一郎が助けたことで遠藤の体ははっきり見えるようになった。信一郎は遠藤を死の運命から助けることに成功したが、その直後激しい胸の痛みに襲われ意識を失う。

 慎一郎は遠藤を助けたことによって、自分の能力は人を助けることができると意識するようになる。そんな慎一郎の前に黒川という慎一郎と同じ能力を持つ男が現れる。黒川は慎一郎に他人の運命を変えるなと忠告する。黒川の話に納得できない慎一郎に、黒川は「後に後悔することになる」と告げ、姿を消す。

 黒川の言葉が気になる慎一郎であったが、ある日、携帯ショップで指先の消えかかった桐生葵という女性の店員に出会う。黒川の言葉が頭にありながらも、目の前の死が迫った人を放っておけず、慎一郎は葵に「お店が終わったら話があります」と声をかける。近くのカフェで待っていた慎一郎の元に、仕事終わりの葵がやってくる。姿を見ると透けていた身体が元に戻っていた。慎一郎が声をかけたことによって葵の死の運命は変わったのであった。要件を聞く葵に、慎一郎は信じてもらえないと思いながらも葵の命が助かったことを告げた。葵は慎一郎の予想を裏切り、話を真剣に聞いてくれた。葵のことを不思議な女性だと感じた慎一郎であったが、葵の命が助かったことに安堵し、葵と別れる。

 慎一郎は再び黒川の元を訪れた。そこで、慎一郎は黒川から、死ぬはずだった人の運命を変えると、自分自身の身体が内側から損傷していくと聞かされる。黒川自身も既に身体はボロボロであった。慎一郎は、人の運命を変えた後に、心臓に痛みを覚えて倒れたこともあり、黒川の話に納得するしかなかった。しかし、自分の身体が蝕まれていくのがわかっても、死ぬはずの人を見て見ぬふりすることへの抵抗を持ち続けていた。

 ある日、慎一郎の職場に葵が現れる。慎一郎が葵に声をかけた日、葵が通るはずだった場所で大きな事故が起きていた。葵は慎一郎が自分を助けてくれたのだと思い、お礼を言いにきた。慎一郎は、事故の事は偶然であるとごまかすが、葵にもう一度会えたことを内心嬉しく思う。慎一郎は自分が葵に恋をしていると自覚する。葵と結ばれるはずがないと思っている慎一郎であったが、過去に職場で片思いしていた女性に自分の想いを告げられずに終わった経験を思い出し、葵に告白することを決心する。葵をカフェに誘いその場で告白をする。葵からの返事は「はい」であった。

 慎一郎と葵は交際を始め、幸せな毎日を送っていた。それまで他人と強い結びつきがなく、失う存在のなかった慎一郎は葵という存在を得て、自分が死ぬことへの恐怖を感じるようになっていた。そんなとき、慎一郎は同じ場所で指先が透けている大勢の人を目撃する。葵との幸せな未来を守るために、他人の死に無関心でいることを貫こうと葛藤する慎一郎であったが、大勢の子どもたちが透けている姿を目撃してしまい、感情が揺れ動く。

 この苦しみを理解してもらいたい一心で黒川に連絡をした慎一郎は、黒川が死んだことを知る。誰かの運命を変えて死んだのか、それともボロボロだった身体の限界がきたのか、原因が何かはわからなかったが、慎一郎は自分の命ももう長くはないということを悟る。葵との未来が長くは続かないのであれば、せめて多くの命を救って死のうと、慎一郎は大勢の人達を救うことを決意する。そして、死ぬまでの葵との時間を大切にしようと決めた慎一郎は葵と1つになる。抱き合った後、葵は静かに涙を流していた。

 大勢の透ける人たちを目撃した場所や時間帯から推測して、クリスマスイブの日に電車で事故が起きることを慎一郎は確信する。当日、覚悟を決めた慎一郎は、電車の踏切に入り線路の上に寝そべり、自分の身体を線路に固定した。慎一郎の不審な行動に沢山の人だかりができ、騒ぎが大きくなって全ての電車が停止する事態となった。慎一郎は自分を止める人たちに囲まれながら時計を見ると、ちょうど事故が起きると予想していた時刻になっていた。その時、慎一郎は胸に激しい痛みを覚え自分の死を悟った。

 葵は、踏切に侵入した男が心筋梗塞で死亡したという記事を夕刊で確認した。葵はこの日が来ることを知っていた。葵は、慎一郎と同じ「目」を持っていた。葵は、自分自身が他人の人生を救うためではなく自分の幸せのために生きているように、慎一郎にも葵との幸せを選んで欲しいと願っていた。しかし、慎一郎が他人のために死を選んだ。葵は慎一郎が他人のために行動できる勇敢な人であることも知っていた。葵の手には、慎一郎からのクリスマスプレゼントがあった。そこには「愛してる」というメッセージが添えられていた。

フォルトゥナの瞳/百田尚樹の読書感想文

 死が近づいている人の身体が透けて見える「目」を持ってしまった主人公の慎一郎。さらに、その死ぬはずであった人を助け運命を変えてしまうと、自分自身が死に近づいていく。本作では、このような恐ろしい能力と代償を背負ってしまった慎一郎の心の葛藤を丁寧に描いています。

 本作を読み終わった人はおそらく慎一郎と自分を重ね合わせて、自分だったらどのような選択をするかを考えると思います。他人の命のために自分の命を差し出すことができるのでしょうか? それとも、葵や黒川のように人の死には関わらず生きていく選択をするのでしょうか? 死が迫った相手が自分の知人だったら? 愛する家族だったら? 他人だったら助けずに、身内だったら助けるのでしょうか? 考え始めたらきりがないくらい、この能力を手に入れた自分を想像するだけで、悩みが付きまとうことは明らかです。

 私が印象に残っているシーンとして、慎一郎が一度、他人の運命に対して関心を持たずに生きていこうと考えた時、ふと寂しさを感じるシーンがありました。生まれてからずっと孤独と隣り合わせだった慎一郎が、他人に対して関心を持たないと心に決めた時、恐ろしほどの孤独を感じるというシーンです。自分にとって死んでほしくない人がいない、他人に関心のないまま生きていくこくということは、もしかしたら死ぬことよりも辛く寂しいことなのかもしれないと感じました。そう考えると、最終的に自分の命と引き換えに他人の命を救う決心をした慎一郎は、幸せな人生を生きることができたのかもしれないと思います。フォルトゥナの瞳を持つことは苦しく不幸なことのように見えますが、その力のおかげで慎一郎は孤独だった人生から一歩踏み出し、大切な人を見つけることができたのかもしれません。

 人はいずれみな死にます。それだけは変えようができない運命です。ですが、日々「死」について考えながら生きてるという人は少ないと思います。電車で自分の隣に座っている人が、数時間後に死ぬかもしれないなんて想像しながら生きている人はいないでしょう。本作を読んで強く感じたことは、「死」について考えることは同時にどのように「生きる」のかについて考えることだと感じました。(まる)


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