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かわいい躾/サタミシュウのあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2012年11月18日 竹内みちまろ

 高校生だった10年前、美術教師の志保先生によって「あちら側」に誘われ、夏の4か月間、ムチ、よだれ、手錠、ローター、その他の特殊な器具を駆使して志保先生とお互いをむさぼり合った男子生徒の美樹は、大学を卒業し、現在は、進学校として県内で3本の指に入る高校の国語教師になっていました。大学の同級生で恋人の咲子は、3年から4年に進級するときに、当時一つ上の先輩とつき合っていた咲子を、美樹が奪う形で付き合い始め、現在も大学に残り研究者をしている咲子とは、お互いの部屋を行き来する仲。咲子は「美樹くん、だめです。すごいのが、きます」と、敬語を使うくせがあります。美樹のものをくわえながら「うれひい、です」と声をあげる咲子は、志保先生との行為を通して自分の性癖を知ってしまった美樹にとっては、普通の行為をしても興奮でき、愛しいと思える恋人でした。

 そんな美樹には、昨年、入学した時から気になっている女生徒がいました。「すみみ」の愛称で親しまれる向原澄美(すみ)です。丸くかわいらしい顔立ちをしていますが、目立つタイプではなく、かといって、友だちがいないわけでもなく、ごく「普通」の女の子でした。しかし、美樹は、澄美は、志保先生と同じ匂いを感じます。美樹は、澄美の笑うと、黒目がちな目が細くなって、左目の下の2つのほくろがきゅっと上がる様子などを、気付かれないように見続けていました。そんな澄美が2年生に進級し、美樹のクラスになりました。ジーコジャパンが惨敗するサッカーのドイツワールドカップが開催される年でした。

 ゴールデンウィークに咲子が実家へ帰省します。美樹は、大型書店に行ってから電車で家路につきます。途中に澄美が住む町があり、美樹は、あくまでも降りたことがない街を散歩することが目的と自分に言い聞かせながら下車しました。美樹が、その町の書店に入ると、禁止されているはずのアルバイトをしている澄美と目が合いました。美樹は、アルバイトが終わってから、澄美から事情を聴きました。母親の友人から紹介されたといい、アルバイト代をすべてその書店で本代に使うという条件で、週に一度ほど、続けていると説明。美樹は、学年で10位以上成績を落とさないなどを条件に、見なかったことにすると伝えました。

 ゴールデンウィークが明けました。澄美は、目くばせを送ってくるようなことはなく、それまでと同じに振る舞っていました。しかし、澄美は美大に進学したいという考えを持っており、まだ両親にも話していないといいますが、進路指導の前に、美樹にだけ相談したいことがあると、携帯のアドレスを伝えました。

 夏休みに、美樹が車を走らせていると、制服の澄美が歩いていました。美樹と志保先生との始まりも、車を運転していた志保先生が美樹を拾って駅まで送ってくれたことでした。美術部で美大志望の澄美は美術教師の志保先生と共通するところがあり、美樹の中で、「ああ、やっぱりそうなのか」という声が浮かんできました。その日、澄美は塾がありましたが、澄美から、「塾の後で、お会いしていただけますか」というメールが届きました。

 ストーリーはまだ続きますが、感想にいきたいと思います。

かわいい躾の読書感想文

 「シリーズ最強」という前振りのとおり、澄美は、底なしの女でした。

 澄美は、学校でも、家でも、「普通の子」で、担任の美樹にアルバイトを見つけられても、さすがに今にも泣き出しそうな顔をしていましたが、「親には今日、ちゃんと自分から話します。その後は、どうすればいいでしょうか」と告げ、美樹を驚かせる芯の強さも持っています。美樹と秘密を共有してもそれをひけらかすようなことはせず、ひたすら自分の中だけで喜びをかみ締めます。塾の後に友だちの家に泊まる予定だったという澄美は、制服姿とは別人の姿で現れました。胸も腰も肉付きの良さが強調され、誰かに見られないように美樹の車の助手席に滑り込む時、キャミソールの胸元から青いブラジャーが見えてしまうほどでした。それでいて、「先生とお話しできるチャンス、そんなにないですから」とうれしそうに微笑みかけ、友だちには断りをいれ、また、このまま家に帰ったら、親に友だちとケンカしたのかと誤解されてしまうと困ってしまい、別の意味で美樹を困らせたりします。

 そんなかわいらしいところのある澄美ですが、『かわいい躾』では、言葉の持つ力を感じました。言霊とでもいいましょうか、口に出してしゃべることで、言葉はすでに持ち主のもとを離れて、走りだしてしまうのかもしれません。美樹は、「向原、さっき言ったことが本当なら、もう一度言ってくれないか」と口にし、澄美は、「私を、先生のものにしてください」と答えます。美樹は「わかった。いまから向原は俺のものだ」と告げると、澄美は目つきがかわり、体をぶるっと震わせました。

 美樹と澄美は、言葉を積み重ねていきます。

「それでも、俺のものになるか」「してください。先生のものになりたいです」
「信じろと言うのか?」「信じていただくためなら、何でもします」
「お仕置きもする。おまえをいやらしく躾ける」「ああああ、先生、私をいっぱい叱って、いっぱいお仕置きしてください」

 しかし、言葉を重ねれば重ねるほど、2人は逆に満たされない気持ちを募らせて、何かに飢えていくようでした。澄美は、トランクスを脱いだ美樹の股間が目に入っても、恥ずかしそうなそぶりを見せず、口を半開きにして吐息をもらします。真っ白な太ももの間にある、それだけ別人のもののような薄茶色のはみ出した肉の厚みを、こぼれ出る愛液でしっとりと光らせながら、足を閉じたり、手で隠したりもせず、美樹がそこを凝視する様子に、興奮を募らせます。

 美樹は、「やはり間違っていなかった。澄美は『そう』だった」と確信します。美樹は、自分のものを完全に澄美の中に入れました。しかし、澄美は、自分から腰を美樹へ押し付け、美樹が最後まで入れたと思っていたものを更に奥までくわえ込んで、絶倫しました。澄美は、「私、高校に入ったときからずっと、先生がこうしてくれるのを待っていたんです」「はい、澄美は、先生のおもちゃです。先生のペットです。これからいっぱい、澄美を犯してください。お願いします」「お許しいただけるまで、たくさんお仕置きしてください」などと懇願の言葉を重ねます。しかし、美樹が「向原は、俺のペットだ」と何度言っても澄美は満足できず、ラブホテルに入るとつけていた首輪のひもを自分から美樹に差し出し、「涎が出たら気にせずにこぼしていい。そのためのものだ」と告げられ興奮し、厚い薄茶色のはみ出した肉に覆われた花びらを見たことがないグロテスクな生き物のようにピンク色に充血させ、そこで器具をくわえこむと、床にたらした唾液を20センチ程に広げ、口の器具を外してもよだれを垂らし続け、のどの奥に出されたものを一滴もこぼさずに、くわえこんだまま飲みほします。自分から美樹の尻の穴をなめ始め、小水を初めて胸で受け止めたときは命令される前に自分から顔を上げて口を開けました。美樹は、澄美の身体で、志保先生から教えられた性癖を満たしていきますが、澄美の心も身体も、美樹の想像を、はるかに超えていました。

 『かわいい躾』では印象に残っている場面があります。澄美は、「想像以上にいやらしくなったし、どんどんきれいになってるよ」と美樹から声を掛けられ、ほっとしたように、「よかった。全部、先生が教えてくれたからです。だから先生は先生なんです」と答えます。美樹は、自分はえらい大人でも、尊敬される人でもなく、澄美よりもちょっと大人で、澄美もいつか大人になったら、自分を馬鹿にするかもしれないなどと、軽い気持ちで口にします。澄美は、しばらくじっと美樹を見つめたあと、いつになく真剣なまなざしで、「でも大事なのは、教わるほうがいつ、どんな気持ちで教わったかですよ」と答えます。

 確かに澄美は、美樹の想像をはるかに超えていました。しかし、美樹も途中から忘れてしまっていましたが、澄美は、美樹とディズニーランドへ行くことを楽しみにする10代の女の子です。『スモール・ワールド』の「ご主人様」や、志保先生のように、大人として自分の生活を守りながら、性癖は性癖と割り切って「楽しむ」わけではありません。また、香奈のように、夫婦生活を円滑に送りながら、いっぽうで、「ご主人様」との時間を「楽しむ」こともできません。「スモール・ワールド」の住人たちは、最低限の同志の間で秘密を共有し、楽しんでいるわけですが、それは、文字通り、心の中にある箱庭としての「あちら側の小さな世界」の中だけの関係になり、そこに、現実世界で社会生活を送る「私」は存在せず、「スモール・ワールド」は、あくまでも性癖を満たす場所で、さみしさは「スモール・ワールド」では埋めることはできないのかもしれません。

 澄美は、美樹に彼女がいることを気にし、美樹が自分が処女ではなかったことに失望していることを気にかけ、ときどき、どうしようもない寂しさに襲われます。それは、10代の等身大の女の子そのもので、その澄美の口から出た「(ディズニーランドへ)まだ行ったことがないんです。もし先生と行けるなら、すごく嬉しいです」との言葉が、せつないです。

 澄美は、特別な性癖を持っているわけでもなく、美樹が書店に来たときにすでに美樹が別の町にある大型書店の袋を持っていたことをしっかり観察する習慣を身につけてしまっているような生き方をしてきている背景があるのかもしれません。この年代の「普通」の女の子がディズニーランドに行ったことがなく、もし連れていってもらえたら…と期待に胸を膨らませる澄美の中には、言葉だけでは満たされることのない何かがあるのかもしれません。澄美は、別の世界を作るだとか、性癖は性癖としてうまく付き合うだとかいうことは、想像することもできず、まだ澄美にとって世界には「私」ひとりしかおらず、そんな澄美が、「あちら側」を知ってしまっている美樹と出会ってしまいました。

 ストーリーは、まだまだ続くのですが、まさに澄美は、シリーズ最強のヒロインだと思いました。


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