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はやくいって/サタミシュウのあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2012年11月7日 竹内みちまろ

 表題作『はやくいって』は、大学の同級生である五月(さつき)と真奈美という2人の女性の物語です。それぞれ一人称で、「ご主人様」のものをなめることがどんなに好きであるかや、プレイを申し込んでくる顧客のほか、プライベートできちんと飼っている3人の男がいることなどを語ります。

 五月は、入社3年目の4月、異動に伴う取引先へのあいさつ回りでご主人様と出会いました。1か月後の26歳の誕生日に、当時39歳だったご主人様に「変えられ」ました。ご主人様のものが大好きで。大好きでたまらなくなり、想像もできなかったプレイを繰り返すうちに、ご主人様を思う毎日がうれしくて、楽しくて、たまらなくなります。

 そんな五月はご主人様に鏡の前に運ばれ、白目をむき、鼻の穴を大きく広げ、涎を垂れ流す自分の顔を見て、「本当に不細工な豚」と思います。が、真奈美からすと、五月は男にとびっきりにもてるかわいい女とのこと。

 ある時、五月はご主人様から年齢を聞かれ、28歳であることを答えます。「体が老けてきたな」というご主人様は、「また呼ぶかもしれないが、いつになるかわからない。とりあえず今日で終わりだと思ってかまわない」と告げます。五月は、翌日の木曜日から会社を休み、週末も利用して4日間、泣き続けます。

 真奈美は、日中の仕事が休みになったので、顧客だけどプライベートでも相手にしている室岡を呼び出し、マンガ喫茶を探させます。ペアシートに通されると「紙コップ」と室岡に告げます。室岡が紙コップを持ってくると、片足をあげて「聖水」を注ぎます。室岡は、真奈美から「ほら」といって渡された「聖水」を、ごくごくと、のどを鳴らして飲み込みます。ちびちびと飲むなと指示されていたからなのですが、真奈美は、「室岡が嬉しそうにしながらも、実際は苦手なことくらいは気づいている」。

 真奈美は、そんな室岡から、「嫁が妊娠しました」「真奈美さんにお会いするのも、ちょっと考えなあかんのかなって思ってまして」と告げられます。「どの分際で」という怒りを感じましたが、「私はいま、こいつに振られようとしているのかと思うと、何とも言えないざわざわした気持ち」を強く感じました。

 ご主人様に「卒業」させられた五月は、誰といっしょにいても、ご主人様のことばかりを考えてしまいます。そんな五月の態度を見透かした真奈美から、飲みに誘われ、声をかけてきた2人の男と、それぞれデートするようになりました。

はやくいっての読書感想文

 『はやくいって』のストーリーはまだまだ展開するのですが、読み終えて、五月の内面世界というものはどんなものなのだろうと思いました。五月は、ご主人様のものをくわえたまま、ご主人様から「卒業」させられたのですが、「いつでも呼んでいただければ、わたしはすぐにご主人様の元にかしずきたい、そのとき、どれだけ愛する男の人がいたとしても」と、ご主人様のものを口にくわえたまま、こくこくと2度、うなずきます。

 五月の人生は、もちろん「卒業」後も続き、実際に物語の後半では五月が別の男性と出会います。ただ、もし五月がその男性を愛して、結婚して家庭を持ったり、子どもを生んで育てたりするようになっても、心はいつまでもずっと、ご主人様を思うのだろうかと思いました。そして、呼ばれれば、ご主人様のものをよろこんでくわえに行くのだったら、五月がその後に関係を築いていく人への裏切りとか、そういったことを超越した世界だと思いました。

 思えば、家族、夫婦、親子であっても、自分以外の人間の気持ちや、歴史や、感情は、究極には、他人にはわからないものなのかもしれません。五月の夫は、五月が心の中でずっとご主人様を思い続けているということに気づかず、子どもも母親がそんな人間だと知ることはないと思います。ご主人様も、五月も自分の口から言うことはないでしょうし、その世界にいる人たちも、誰かに告げることはないのだと思います。

 もし、自分の妻が、あるいは母親が、そんな秘密を持っていたらどんな気持ちになるだろうと考えました。しかし、いま「秘密」と書きましたが、五月は極端すぎる例ですが、人間なら誰にでも人には言わないことはあるのでしょうし、感情や思ったこと、見たもの、体験したことをすべて、他人へ伝えるわけではありません。むしろ、個人の内面世界は、他人へ伝えないことのほうが、当たり前なのかもしれないと、ふと思いました。


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