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映画「ダメージ」のあらすじと感想

竹内みちまろ

 「ダメージ」という映画をご紹介します。監督:ルイ・マル(1992年/イギリス  フランス)、主演:ジェレミー・アイアンズ、ジュリエット・ビノシュ、ミランダ・リチャードソン、ルパート・グレイヴス、レスリー・キャロン。

 「ダメージ」は、傷を負った女と、傷を求めた男の物語です。映画「ダメージ」は、学生のときにはじめて見ました。20歳前後でした。お世話になった教授が勧めてくれました。教授が勧めてくれた意図を、当時の私がどれだけ理解できたのかはわかりません。ただ、ラストシーンが強烈だったことを覚えています。こういう映画を学生に勧めるほどなので、教授は個性的な方でした。その方からは、多くを学びました。人生の恩人です。

 余談はこのくらいにして、本題に。舞台は、イギリスです。主人公は、ある省庁のトップです。議会工作もテレビ出演も、クールなマスクでソツなくこなします。首相の覚えも良く、大臣の椅子を打診されます。そんな男が、ヒロインと出会います。ヒロインは、息子の婚約者でした。男とヒロインは、できちゃいます。できちゃう過程の説明はありません。と言いますか、説明も何もあったもんじゃありません。2人が見つめ合います。ヒロインが電話をかけます。男が「住所を。1時間で行く」と言います。ベッドインです。ヒロインは言います。

「いいこと。ダメージを負った人間は危険よ。必ず生き残る」

 映画では、ヒロインの物語が語られていきます。引越しばかりの家庭、4回も結婚した母、自殺した兄。ヒロインのダメージは、このへんにあるようでした。ヒロインは、心に傷を負っています。それゆえに、男を骨抜きにする魔性のオーラを放ちます。このへんのメカニズムは、言葉では説明できません。スクリーンの中の女優さんも、背筋が凍るほどの哀愁です。

 一方、「ダメージ」では、男の物語は語られません。家族との関係から、男の人生が垣間見れる程度です。母親には何でも話す息子は、父親には、どこか距離を置いています。しかし、彼なりに大人としての責任をはたしています。専業主婦で、慈善事業にも精を出す妻にとっては、男は満点パパのようでした。

 ヒロインが男の家に招待される場面がありました。息子の恋人として、ヒロインは招かれました。息子が言います。

「さざ波も立てられないほど、きちんと整った家庭も不自然だ。僕なりの意見だけど」

 「家庭は基盤よ」とヒロインがたしなめます。「基盤は大事だけど、他のモノも必要だ」と息子が返します。「たとえば」と男が問いかけます。「暖かさ。情熱」と息子は答えます。「母親の責任ね」と母親が自分が悪者になって場を取り持ちます。

「違うよ。強いて言うなら、パパだ」

 男は、ヒロインを強く求めます。ヒロインも、男を受け入れます。同時に、ヒロインと息子の結婚話が進みます。

 ヒロインの母親が登場する場面がありました。結婚式の打ち合わせを兼ねた会食です。ヒロインの母親は、4回も結婚しただけあって、まっ黄色のドレスを着ています。大きなブローチが、キラキラ光ります。控えめな(と言うか常識を持ち合わせている)家族を前に、一人でしゃべっています。そのうちに、とんでもないことを口にしました。

「ショックでしたわ。マーティンにお会いした瞬間にね。アンナの兄に生き写しで」

 自殺したヒロインの兄が、息子とそっくりだと言います。ヒロインは、絶望を浮かべます。家族は、凍りつきます。しかし、ヒロインの母親は、ただものではありません。一般常識はなくても、ヒロインと同じく魔性の女です。省庁の車で送ってもらうときに、男に言います。

「これでやっと娘も幸せに。マーティンと新しい人生を歩めるわ。それを邪魔されては困るの」

「おっしゃってることが、わかりませんが」

「おわかりよ。食事の間中、あなたは娘を一度も見なかった。どうか身を引いて」

 男が、凍りつきました。

 このセリフを聞いたときに、私は、この地上は2つの世界が重なり合ってできているのだと思いました。暗闇に突入する特殊部隊は、目に]線スコープをつけています。特殊部隊には、暗闇の中に何があるのかが見えます。魔性のオーラは、]線スコープだと思いました。魔性のオーラをまとう人間には、普通の世界に住む人間には見えないものが、見えてしまうのだと思いました。普通の人間に見える世界と、魔性をまとった人間しか見ることができない世界。そんな2つの世界が重なり合って、この世はできているのだと思いました。ヒロインの母親は、「あなたたち、魔界に足を踏み入れるつもり?」、なーんて言いたかったのかもしれません。

 ストーリーは、このあとに、劇的な展開をします。ヒロインは、魔性の女ぶりを発揮します。男も、一瞬だけ、魔性のオーラをまといます。妻の目をとおして、そんな場面が描写されました。「ダメージ」では、最後まで男の物語は語られません。しかし、ラストシーンを見て思いました。この男、魔界に足を踏み入れたくなってしまったのではないだろうかと。


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