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神の守り人/上橋菜穂子のあらすじと読書感想文

2015年12月27日 竹内みちまろ

神の守り人(来訪編/帰還編)のあらすじ

 女用心棒のバルサは、幼なじみの薬草師タンダに付き合って、新ヨゴ皇国西部で開かれる「ヨゴの草市」にやってきました。バルサは、新ヨゴ皇国の西に広がるロタ王国の商人2人が、14歳の少年チキサと12歳の少女アスラを連れ歩いており、アスラがよろけると商人が「……しっかり歩け、野良犬」と罵った風景を見ます。幼い頃に家族と離れ、日陰者の人生を歩んできたバルサは、少女に自分の子ども時代の姿を重ね合わせ、心を痛めました。

 バルサとタンダは、草市が立つ宿場町に泊まります。宿で、アスラを罵った商人が、2人組のヨゴ人の人身売買組織「青い手」の奴隷商人と話をする姿を見掛けます。美しい顔立ちのアスラが売られることを思い、席を立ちました。

 商人と奴隷商人が、チキサとアスラが閉じ込められていた部屋に入り、奴隷商人がアスラの見立てを始めます。チキサがアスラを守ろうとしますが、商人たちに足蹴にされて突き倒されます。アスラの全身が、「こわい」という思いと、「憎い」という思いで、燃え上がります。アスラは「……カミサマ。カミサマ」と祈ります。チキサは「だめだ!」とアスラを止めようとしますが、アスラは、恵みをもたらす神アファールの鬼子と呼ばれる「畏ろしき神・タルハマヤ」と呼び起こし、商人たち4人を殺してしまいました。

 アスラを助けるためにアスラを買い取った奴隷商人が部屋から出でくるところを待ち伏せしていたバルサは、部屋の中での異変に気が付き、タルハマヤに襲われます。バルサは恐怖に震え、目を閉じ、息を数えました。

 バルサが目を開けると、カシャル(猟犬)と呼ばれるスファルとスファルの娘シハナが、喉を咬み裂かされた4人の商人の死体を調べ、「シンタダン牢獄の死者たちと、そっくりだ」と厳しい顔つきで漏らします。

 アスラは、ロタ王国が建国される前に「畏ろしき神・タルハマヤ」の恐怖の力で太古ロタルバルを支配していた「タルの民」の女トリーシアの娘でした。トリーシアはかつて、ロタ国王ヨーサムの弟イーハンと恋に落ちましたが、イーハンのもとから姿を消し、「畏ろしき神・タルハマヤ」を祭る禁領に侵入した罪で、シンタダン牢獄で処刑されていました。

 スファルは、「畏ろしき神・タルハマヤ」の復活を防ぐために、「畏ろしき神・タルハマヤ」を呼び起こせるアスラを殺す決意を持っていました。呪術師でもあるタンダも、「妹のほうの魂に触れようとしたとき、おれは、ぞっとしたんだ」などとバルサに告げます。スファルを知るタンダは、バルサを、「あの子は危険だ」、「だから、関わらないでくれ」などと諭します。

 スファルとシハナが、アスラとチキサに眠り薬を飲ませて、アスラとチキサを連れ去ろうとしました。哀れな子どもを見かけると黙ってはいられないバルサは、スファルたちからアスラを奪って逃げました。

 バルサの行動は、ロタ王国の屋台骨をも揺るがす大事件に発展していきます。

神の守り人(来訪編/帰還編)の読書感想文(ネタバレ)

 『神の守り人』を読み終えて、「終章」で、王弟イーハンが口にした言葉が印象に残りました。イーハンは10数年前、辺境の城塞の巡視に出掛けた際、突然の吹雪に見舞われ、森で1人で凍死しかけたとき、タルの民の家族に助けられ、タルの娘トリーシアに恋をしました。それ以来、イーハンは、タルの民のための救護政策などを進めていましたが、一方では、「王弟は、変わり者を好む」などと揶揄されていました。ロタ北部の貧しい氏族の若者たちからは熱狂的な支持を得ていますが、北部の老人たちからはさほど支持を得ているわけではなく、南部の氏族たちからは嫌われていました。

 そんなイーハンですが、心を閉ざして眠っているアスラに、「わたしは、そなたの母を心から大切に思っていたが、そのために王家の安泰を揺るがす気はなかった。あのころ、自分では、そんな自分の本心に気づいていなかったが、そなたの母は、見抜いていたのだろうな」と告げます。

 この場面を読んで、イーハンは、歳を重ねて円熟したことで、若い頃の自分には見えなかった物を見通せるようになっており、同時に、それを恥じることなく口にすることができる若々しい潔癖さも失わずに持っている人間なのだと思いました。

 イーハンは正義感が強く一本気なところがあり、兄であるヨーサム王からは、国を保つためには平衡感覚が大切と諭されることもあります。精気に満ちた頼もしい武人である一方、策略や政治は得意ではないという印象がありましたが、眠っているアスラに話し掛ける場面を読んで、イーハンという人物の奥深さや、人間としての力の深さのようなものを感じました。

 守り人シリーズを読むと、魅力的な脇役たちが多数登場します。『夢の守り人』で活躍する新ヨゴ皇国の狩人のジンや、『虚空の旅人』のタルサン王子など、ひと癖も、ふた癖もありながら、それでいて人を引き付ける力に満ちた人物たちがたくさんいます。それぞれの人生を背負った脇役たちが、それぞれのドラマを積み上げているところも、守り人シリーズの魅力なのだと思いました。


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