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マクベス/シェイクスピアのあらすじと読書感想文

2013年7月4日 竹内みちまろ

マクベスのあらすじ

 スコットランド王「ダンカン」から「身内」と呼ばれるグラミス領主で、臣下の武将「マクベス」は、コーダ領主を利用して攻め込んできたノルウェイ軍を、武将「バンクォー」とともに迎え打ち、撃退しました。「マクベス」は、「マクベス」の父親が死んでからグラミス領主の地位に落ち着いていました。

 「マクベス」と「バンクォー」が戦勝報告のため、王の元へ急いでいると、3人の魔女が現れます。「マクベス」へ、「コーダの領主様」「いずれは王ともなられるお方!」と呼びかけ、「バンクォー」へは「マクベス殿よりは小さくて、ずっと大きなひとだ」「子孫が王になる、自分がならんでもな」と、マクベスとは違った温度で語りかけます。

 コーダ領主の裏切りをまだ知らない「マクベス」は、「コーダの領主はまだ元気でいる」「誰だろう、あれは?」と、いぶかります。しかし、王城到着後、取り急ぎ、コーダの領主の位を授けられたことを知り、「マクベス」は、魔女の予言が現実となったことに愕然とします。「バンクォー」は、「そういえば、よくあること、人を破滅の道に誘いこもうとして、地獄の手先どもが、ときには真実を語る、つまらぬことで御利益を見せておいて、いちばん大事なところで打っちゃりを食わすという手だ」と、「マクベス」に忠告します。ただ、「マクベス」は考えることがあるようで、「きょうのこと、よく考えておいてくれ、いずれ落ちついたら、十分吟味のうえ、おたがいに胸襟を開いて語りあおう」と「バンクォー」へ告げ、「バンクォー」は「よかろう」と答えます。

 「マクベス」と「バンクォー」の謁見を受けた「ダンカン王」は、長男の「マルコム」を世継ぎと定め「カンバランド公」と呼ぶことにすると告げます。「マクベス」は、「カンバランド公」が「おれの行く手に立ちはだかっている」と心の中でつぶやき、「ええい、星も光を消せ! この胸底の黒ずんだ野望を照らしてくれるな」と懊悩します。「ダンカン王」は、インヴァネスの「マクベス」の居城へ行くと告げます。

 インヴァネスでは、「マクベス」からの手紙で「いずれは王ともなられるお方!」と魔女から予言を受けたことを知らされていた「マクベス夫人」が、どこまでもきれごとですませようとする「マクベス」は、野心を「操る邪(よこしま)な心にかけておいでだ」といい、「マクベス夫人」は、「黄金の冠の邪魔になるものは何であろうと」、「この舌の力で追いはらってやる」と決意します。「マクベス」の帰還後、王の来城を知った「マクベス夫人」は、「もう、やめにしよう、王は栄進を計ってくれたのだ」という「マクベス」を説き伏せました。「マクベス」は、寝室で寝ていた王を剣で殺害し、酔いつぶされていた2人の護衛に罪を着せ、2人も殺しました。

 翌朝、インヴァネス城は王の暗殺で大騒ぎになり、マクベスは、「王にたいする敬愛の念」から2人の護衛を「つい手にかけてしまった」と“告白”します。しかし、ダンカン王の息子の「マルコム」と「ドヌルベイン」は身の危険を感じ、命を分けておいた方がお互いに安全とのことで、すぐに、「マルコム」はイングランドへ、「ドヌルベイン」はアイルランドへ逃げてしまいました。混乱の中、王暗殺の嫌疑が2人の王子に掛けられる形になり、残された重臣たちによって、マクベスが王に指名されました。

 マクベス王に謁見に来た「バンクォー」は、予言どおりにことが動いたことを実感し、「おれの御神託もまんざら望み薄でもあるまい? しっ、もう言うな」とつぶやいて、謁見の間に入ります。「バンクォー」は晩餐までにいったん外出すると「マクベス」に告げます。「バンクォー」が御前から退出したあと、「マクベス」は、「バンクォー」の、「生まれながらの気品」「分別」「不屈の魂」を恐れます。また、予言がほんとうなら、自分は「バンクォー」の子孫のために手を汚したことになると怒ります。「マクベス」は2人の刺客に、「バンクォー」と、「バンクォー」の息子「フリーアンス」の暗殺を命じます。「マクベス」が、もの思いにふけていると、夫人がなぐさめます。「マクベス」は「一たび悪事に手を着けたら、最後の仕上げも悪の手にゆだねることだ」と口にします。第3の刺客も加えた3人は、「バンクォー」を暗殺し、「フリーアンス」は取り逃がしました。

 晩餐会へ向かう「マクベス」に、刺客が「バンクォー」暗殺に成功したことを耳打ちします。「マクベス」は晩餐会の部屋に入りますが、血みどろの「バンクォー」の亡霊が現れ、「マクベス」が座るべき椅子に腰を下ろします。「バンクォー」の亡霊は「マクベス」だけに姿が見えるのですが、「マクベス」は取り乱します。亡霊が消えたあと、夫人へ、「血の流れにここまで踏みこんでしまった以上、今さら引返せるものではない、思いきって渡ってしまうのだ」などと告げます。

 洞窟の中で3人の魔女が妖術を使って「マクベス」の幻を呼び寄せます。魔女たちは、「(ファイフ領主で貴族の)マクダフに、気をつけろ」などとそそのかします。「マクベス」は、「頼む、教えてくれ、貴様たちの通力で解ることなら、バンクォーの子孫が、この国を統べる日が来るかどうかを?」と尋ねます。「マクベス」が恐ろしい夢から覚めると、使者が、「マクダフ」がイングランドへ逃げたことを伝えました。「マクベス」は、「マクダフ」の城を不意打ちし、「マクダフ」の一族を皆殺しにし、ファイフを乗っ取りました。

 イングランド・エドワード懺悔王に身を寄せていた「マルコム」と「マクダフ」のもとに、スコットランド貴族の「ロス」がやってきます。スコットランドで、「マクベス」の暴政への反乱が起きていることを告げます。イングランド王から、「シュアード」将軍の1万の兵を借りることができました。

 「マクベス」は精神錯乱状態になっていました。マクベス夫人が死にます。魔女の、人間の女から生まれた者にはお前は殺せない、という予言を口ずさみながら、どこまでも血に塗られた道を行きます。やがて、イングランドの援軍を得た「マクベス」らが攻め込んできます。「マクベス」は「マクダフ」の手に架かり、旗竿に首をかかげられました。「マルコム」が戴冠することになりました。

マクベスの読書感想文

 『マクベス』を読み終えて、魔女たちの、人間の心を惑わす巧みさが心に残りました。

 まず、魔女たちは、マクベスへは王になると告げ、温度差を着けて、バンクォーへは「子孫が王になる」と告げます。「マクベス」は王になるという優越感を感じ、また、あとになって、自らの弱い心から目をそむけるために、魔女たちは「バンクォー」から俺はどうなるとすごまれようやく「子孫が王になる」と言ったに過ぎないではないか、などと、自分に言い聞かせます。王になる野心の炎に油を注がれたマクベスの中には、バンクォーをさげすむことによって、魔女のバンクォーの子孫が王になる(マクベスの子孫は絶える)という予言を否定したい心が生まれていました。そして、そんな心を生み出したものは、魔女たちの、マクベスとバンクォーに差をつけるという(一方をひいきするという)手口かもしれません。しかし、バンクォーの子孫が王になる(マクベスの子孫は絶える)という魔女の予言自体は、マクベスがいくら強がった所で、ゆるぎないものです。マクベスはまず、ダンカン王を暗殺して王になりますが、王になったあとは、さらに、(マクベスの子孫は絶える)という予言を恐れ、精神を錯乱させ、次々と、手を血で染めていきます。

 人間の心は弱く、その弱い人間の心を惑わすには、『疑心暗鬼を生ず』ではありませんが、人間が自分の心から目をそむけるために他人を疑い、蔑み、憎むようにしむけるだけで事足りるのかもしれないと思いました。マクベスは、自らの疑心から目をそむけるために、暗鬼を生み出していき、死のスパイラルに取りつかれていました。バンクォーにしても、マクベスに暗殺されてはしまいますが、野心に火をつけられたことは間違いありません。分別があるバンクォーを惑わすという点でも、魔女たちは成功していました。

 また、マクベスも、バンクォーも、魔女達がいかがわしい存在であり、魔女の予言は人間を惑わすためにあるものと最初から分かってたことも印象的です。バンクォーは、最初に魔女が登場した時点で、マクベスに、「人を破滅の道に誘いこもうとして、地獄の手先どもが、ときには真実を語る、つまらぬことで御利益を見せておいて、いちばん大事なところで打っちゃりを食わすという手だ」と忠告しています。しかし、マクベスは、わかっていながら、王になるという野心を実現したいがためにダンカン王を暗殺します。欲を考えてしまうようになったバンクォーも、わかっていながら、もしかしたら、魔女の予言はまんざらうそではない、などということをつぶやきます。この、魔女たちは人間を破滅させるために予言しているとわかっていながら、欲に勝てず、魔女の予言を信じ、あるいは信じたことにしたくて信じたことにしてしまう人間の心の弱さは、シャイクスピアの時代だけではなく、古今東西の人間たちにもあてはまることかもしれないと思います。

 「マクベス」は、人間の心の弱さのメカニズムを描き、そして、そんな人間の心の弱さをもてあそぶ「悪」を描いた作品だと思いました。


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