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ホームレス中学生/田村裕のあらすじと読書感想文

2012年7月27日 竹内みちまろ

ホームレス中学生/田村裕のあらすじ

 中学2年の1学期の始業式の日、13歳の田村少年が2階の自宅マンションに帰ると、家具が外に出され、ドアには「差し押さえ」の黄色いテープがはられていました。呆然としていると、高校3年生の姉と、大学1年生の兄が帰ってきました。3人で話して、父親の帰りを待つことにしました。戻ってきた父親は、3人をテープの前に並べ、「ご覧の通り、まことに残念ではございますが、家のほうには入れなくなりました。厳しいかと思いますが、これからは各々頑張って生きてください。…………解散!!」と宣言。足早にどこかへ行ってしまいました。

 兄と姉は、とりあえず3人で何とかする方法を考えることにしましたが、兄と姉に迷惑を掛けたくなかった田村少年は、執拗に止める2人を振り切り、「俺は、一人で大丈夫。なんとかするわ」と別行動をとることにしました。

 田村少年は、巻貝をイメージした滑り台がある「まきふん公園」(巻貝がうんこにしか見えないそうです)で暮らすようになりました。所持金はすぐに底をつき、自動販売機の下に落ちている小銭をひろったり、段ボールを水にひたして口に入れたりしていました。兄と姉も別の公園を根城と定め、田村少年は兄が深夜のアルバイトをしているコンビニに行って、弁当を食べさせてもらったりしていました。

 公園生活が始まってから1か月ほどたったとき、夏休み中でしたが、クラスメイトの川井よしやと会い、「ちょっといろいろあってな……家、無くなってん」「飯食わしてもらわれへんかな?」と声を掛け、川井の家でごはんをもらいました。田村少年は、川井の家で暮らすようになり、やがて、兄弟3人で暮らしたほうがいいからと、川井の両親や近所の人、同級生の親などが話し合って、出世払いでいいからと、3人のためにアパートを借りてくれました。また、生活保護の手続きをして受給されるようにしてくれました。

 田村少年の父親は、「不器用で愛情表現の下手な人」で、大手製薬会社の管理職クラスでした。しかし、小学5年生の時に大好きだった母親が直腸がんで亡くなります。痛みをずっとがまんした結果、発見が遅れたようです。2週間後に、父親の母親も亡くなり、父親自身も直腸がんが発見されました。ただ、発見が早かったため、手術で一命は取り留めました。しかし、「入院している間に会社をクビ」に。「精神的にも肉体的にも、限界に追い込まれていった」父親は荒れていき、田村少年の中学の入学式の日にマンションへ引っ越し、中学2年の1学期の始業式の日に「解散宣言」が出されました。

 田村少年は、周りの大人たちに支えられ、中学を卒業し、兄と姉の助けもあり、高校の入学試験を突破。高校生活の中で、生きることの楽しみを見いだせなくなり、人生は辛いことばかりなので15年で十分だと思うようになります。しかし、担任の先生や同級生に支えられ、無事に卒業。高校3年のときに通い始めていた吉本興業のお笑いタレント養成所・NSC(吉本総合芸能学院)で、現在の「麒麟」の相方・川島明さんと出会いました。

 芸人として第1歩を踏み出した田村少年は、父親には感謝し、かつ、親孝行をぜんぜんしていないので帰ってきてほしいと書いていました。そして、「いつか、僕を見て周りの人が、僕ではなく、お母さんのことを褒めてくれるような立派な人間」をめざして、生きていきたいと記していました。

ホームレス中学生/田村裕の読書感想文

 『ホームレス中学生』は、読み終えていろいろなことを考えました。父親は、親戚に不幸があったさいに「香典を貸してくれ」と執拗に頼んだことがあり、そこから、親戚とはぎくしゃくしていたようです。しかし、父親や親戚は頼りにできませんでしたが、同級生の両親や、学校の先生たち、近所の人々、そして、何よりも、立派な兄と姉の支えがあって、田村少年はまっすぐに育つことができたのだなと思いました。子どもが友だちを家に連れてきて、飯食わして、といって、あいよ、とばかりにごはんを食べさせてくれるのは、大阪の人情というものでしょうか。大阪というところは縁がなく、話に聞くくらいの知識しかないのですが、奥深い場所だと思いました。

 『ホームレス中学生』の中で、爆笑した個所がありました。街で、フルフェイスのヘルメットをかぶった女が時速10キロくらいで原チャリを走らせ、「10キロの女」としてうわさになる場面です。自転車に追い抜かれていた、坂道にさしかかるとさらに遅くなる、など、うわさはどんどんひろまっていくのですが、正体は、田村少年の姉でした。姉が友人から譲り受けた原チャリを田村少年が横転して壊してしまい、修理するお金がないので10キロほどのスピードしかでないまま走っていたのでした。しかし、夏に、姉がフルフェイスから半ヘルに変えると、正体がばれて、「10キロの女、たむちんのお姉ちゃんやんけ!」と爆笑されていました。

 田村少年は自分が壊したといううしろめたさもあり、姉には「10キロの女」の話をできず、姉は、自分がうわさになっていることなどまったく気が付いていないようでした。周りのことを見る余裕もなく時速10キロで前だけを見て唇をかみ締めながら走る姉の姿など、ちょっぴりせつない気もしますが、不幸とは別の次元の現象として、笑えることは笑えるのだなと、つい、思ってしまいました。

 しかし、その「10キロの女」こと姉も、田村少年の母親代わりとして自分を犠牲にし、また、兄も「誰かがお金を確実に稼いでお世話になった人達に返していかなければ筋を通すことができない」と夢をあきらめていました。もちろん、本書に書いてある内容は壮絶な出来事の中のごく一部で、書くべきではないと判断したことは書いていないのでしょうが、『ホームレス中学生』を詠み終えて、兄弟3人の絆、そして、周りの人たちの人情が心に染みました。


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