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友情/武者小路実篤のあらすじと読書感想文

2011年9月7日 竹内みちまろ

友情/武者小路実篤のあらすじ

 『友情』は、新人脚本家・野島(23)、野島の友人で新鋭小説家・大宮(26)、野島の友人で社交家の仲田の妹・杉子(16)の三角関係の物語。野島は、まだ女を知らなかったが、女性を見ると結婚を連想する理想家。文壇の先輩たちをひそかに軽蔑する野心家でもあり、有名雑誌から大宮に執筆依頼が来たことを聞き嫉妬する場面も。3人のほか、大宮の従妹・武子(17)、評論家の村岡、仲田の同級生早川などが登場する。

 野島は、仲田に誘われて訪れた帝劇で、以前、一度だけ写真で見たことがある仲田の妹・杉子に会い、心を奪われた。新聞を見ても、雑誌を見ても、本を見ても、「杉」という字が目につくほど妄想をつのらせ、野島は大宮に杉子への愛を明かした。

 野島は杉子に会いたくて仲田の家をひんぱんに訪れ、仲田の家でピンポンをしたり、鎌倉で夏休みを過ごしたりする。鎌倉で野島が38度9分の熱を出した翌日、見舞いに訪れた大宮が野島の枕元の「泰西(=西洋)美術史」を見て、32、3歳になってから行くと言っていたヨーロッパへ、急に行くと言いはじめた。

 横浜から船で洋行する大宮を東京駅で見送る際、野島は、杉子の態度から杉子の大宮への愛を知った。大宮が旅立ってから一年後、野島は杉子の家に結婚の申し込みをしたが、体裁よく断られた。さらに一年たって、結婚した武子が夫婦で洋行することになり、野島は杉子もいっしょに行くことを知った。野島は、文壇から少しずつ認められるようになっており、芝居も2、3が演じられた。

 杉子がヨーロッパへ発って3、4か月ののち、大宮から「尊敬すべき、大いなる友よ。自分は君に謝罪しなければならない。すべては某同人雑誌に出した小説(?)を見てくれればわかる。よんでくれとは云えない。自分の告白だ。それで僕達を裁いてくれ」と英語で書かれた絵葉書を受け取った。

 小説は、大宮と杉子との間の往復書簡形式になっていた。野島との友情と、杉子への愛との間に板挟みになっていた大宮は、「恐らく、友は最後の苦い杯をのむことを運命から強いられて其処で彼は本当の彼として生きるだろう。自分は女を得て本当の自分として生きるだろう」「わが愛する天使よ、巴里(パリ)へ武子と一緒に来い」などと書かれており、杉子の手紙には、「野島さまが私を愛して下さったことを私は正直に申しますと、ありがた迷惑に思っております。お気の毒な気もします」などと書かれていた。「わが友よ」と書き出された大宮の手紙には、同情も言い訳もせず事実だけを書くとことわり、「ただ自分はすまぬ気と、あるものに対する一種の恐怖を感じるだけだ」などと書かれていた。

 小説を読んだ野島は、泣き、感謝し、怒り、笑い、そして、大宮へ「君よ、仕事の上で決闘しよう」などの文がある手紙を書いた。

友情/武者小路実篤の読書感想文

 『友情』は、普遍的なテーマの小説であり、青臭さもあるが熱い野島、媚を売らない大宮、残酷な天使・杉子など、登場人物たちが魅力的な小説だと思いました。特に、好き嫌いの問題である以上どうにもならないのですが、杉子の野島への気持ちは残酷だと思いました。

 また、『友情』を読んで、当時の青年たちが持っていた日本を背負って立つという意志や、文学や芸術に対する純粋な向上心、また、表現者としてのほこりや決意というものも感じました。特に、「仕事の上で決闘しよう」という言葉には、ミッション(使命)を持ち、認め合った仲だから言えることかもしれないと思いました。


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