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書評「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦|あらすじ&読書感想文、森見ワールドに関する考察

2017年5月25日 ミーナ

夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦のあらすじ

 舞台はレトロな雰囲気漂う京都。クラブの後輩である「黒髪の乙女」に思いを寄せるヘタレで奥手な「先輩」は、今日も「なるべく彼女の目にとまる作戦」略して「ナカメ作戦」を実行する。しかし天然な彼女にはなかなか思いが伝わらない。

 春の先斗町(第1章)に夏の古本市(第2章)、秋の学園祭(第3章)に冬の李白風邪(第4章)、、、と、個性的な仲間たちが巻き起こす珍事件に次々と巻き込まれ、季節はどんどん過ぎていく。

 果たして先輩の恋の行方はいかに!?

 可愛いらしい乙女と滑稽な先輩、他にも阿呆でチャーミングな仲間たちに笑いの絶えない作品となっている。

森見ワールド (1)語感の良い数々の名言

 森見登美彦氏の魅力はなんといっても、その文体と言い回し、そしてつい口にだしてみたくなる語感の良さにあると思う。中でも私が気に入っているのは、第1章の黒髪の乙女の言葉である。

“カクテルを飲んでゆくのは、綺麗な宝石を1つずつ選んでゆくようで、たいへん豪奢な気持ちになるのです。”

 すぐにでも街へと繰り出し、カクテルを飲みたくなるようなそんな一文。映画を見た後であれば、花澤香菜さんボイスで脳内再生されるため、より一層素敵さを増すセリフである。

 しかしなんといっても、冴えない主人公の愛しき名言たちは、森見ワールドの魅力を語るには外せない。なんのプライドももたずに青春を楽しめると良いのだが、それに失敗し物事を斜に構える非リア充主人公の名言には、思わずくすっと笑ってしまう。個人的に特に好きなものを本文から3つほど紹介したい。

“私は布団を頭まで引き上げて丸くなり、自分で自分の身体を抱いた。抱いてくれる者も、抱いてやる者もいないがゆえの、やむにやまれぬ自給自足である。”

“恋に恋する乙女は可愛いこともあろう。だがしかし、恋に恋する男たちの、分けへだてない不気味さよ!”

“わけても男たちというのはどいつもこいつも阿呆であり、彼女の好奇心や優しさを己への好意と勘違いしているらしい短絡的思考の持ち主が多数あった。”

森見ワールド (2)森見登美彦氏の他作品との関連

 森見登美彦氏の作品をいくつか読むと、おそらく同一人物であろうと思われる人が他作品でも登場している。これもまた森見ワールドの魅力である。

「夜は短し歩けよ乙女」羽貫さん
「四畳半神話大系」羽貫涼子
 名前が同じ。両者とも酒豪で樋口の友人歯科衛生士をしている。

「夜は短し歩けよ乙女」樋口師匠
「四畳半神話大系」樋口清太郎
 こちらも名前が同じ。両者とも 大学8回生。浴衣に高下駄という姿で自称“天狗”である。そして貧乏。

「夜は短し歩けよ乙女」李白 
「有頂天家族」寿老人
 名前は異なるが設定がほとんど同じでありおそらく同一人物と思われる。どちらも、高利貸しを営む富豪の老人。かなりの酒豪。自家用車を愛用。

「夜は短し歩けよ乙女」千歳屋の若旦那
「有頂天家族」大黒
 大黒は千歳屋の若旦那という設定であり、「夜は短し歩けよ乙女」では名前が出てこないだけで、こちらも同一人物であろう。

偽電気ブラン
 こちらは架空のお酒で、「夜は短し歩けよ乙女」や「有頂天家族」に登場している。“無色透明で芳醇、何杯も飲める美酒”であると小説では紹介されており、森見ワールドへ足を踏み入れた者なら誰しもが、ぜひ飲んでみたい!と思う幻酒であろう。“電気ブラン”という酒は存在しており、太宰治の「人間失格」にも登場おり、偽電気ブランというのは、その電気ブランを似せて作った酒、という設定だ。

森見ワールド (3)アニメ化

 「四畳半神話大系」のアニメ化に続く「夜は短し歩けよ乙女」のアニメ映画化であったが、両方ともくせの強い森見登美彦氏の世界観を崩さず、かつさらに大胆に表現する、という媚びない感じがとてもよかった。

 監督を務めた湯浅政明さんといえば、2014年に放送された「ピンポン THE ANIMATION」でも、独特で物凄い世界観に引きずり込まれてしまったが、森見ワールドでもその独特な世界観は健在であった。他にも中村佑介さんの色使いとポップなテイストは、現実のすぐ近くにファンタジーがある森見ワールドにとてもよくマッチするし、ASIAN KUNG-FU GENERATIONも甘酸っぱくも不思議な世界観にぴったりの曲を提供している。

 「夜は短し歩けよ乙女」のアニメ映画は大ヒット上映中である。ぜひこの機会に、レトロでくせになる森見ワールドに、一歩足を踏み入れてみてはいかがだろうか。


→ 有頂天家族/森見登美彦のあらすじと読書感想文


→ ペンギン・ハイウェイ/森見登美彦のあらすじと読書感想文


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