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グラスホッパー/伊坂幸太郎のあらすじと読書感想文

2015年3月15日 竹内みちまろ

グラスホッパー/伊坂幸太郎のあらすじ

 2年前まで教師をしていた20代後半の鈴木(男性)は、フロイライン(ドイツ語で「令嬢」の意)という会社に契約社員として採用され、1か月間、アーケードで女性を勧誘する仕事をしてきた。鈴木に仕事を教えた比与子は、同じ20代後半だが、フロイラインではキャリアが長く役職者。鈴木は、その比与子から「次の段階に行こうか」と声を掛けられ、街で声を掛けて薬で眠らせた若い男女のカップルを拳銃で殺すよう、指示を受けた。

 フロイラインは薬物をはじめ、臓器移植などにも関わる、いわゆる闇の世界の会社。鈴木は、2年前、妻を、フロイラインの社長・寺原の息子に轢き殺されていた。比与子いわく、「馬鹿息子はさ、あちこで迷惑をかけているわけ。夜中に車を盗んで、暴走させることなんて、しょっちゅうだしね。酔っ払って、人を轢くのは、年がら年中だよ」。鈴木の妻が殺された現場は、中年の交通事故鑑定人が「ブレーキを踏むどころか、わざと加速したとして思えねえな、こりゃ」とつぶやくほど酷く、しかし、比与子によると、息子は、父親や政治家に「えこ贔屓」されているため、罰せられることはないとのこと。

 フロイラインには寺原の息子への恨みを晴らすために入社する者がいるという。鈴木も疑われており、比与子は疑いを晴らすために2人を殺すよう促した。しかも、寺原の息子が鈴木が2人を殺すところを見届けるとのこと。

 寺原の息子は、鈴木たちが乗っている車に向かって、交差点まで来ていた。しかし、信号が青から黄色に変わった瞬間、息子は車道に足を踏み出し、黒のミニワゴンに轢かれた。

 比与子は、「見えてるでしょ? 何かさ、怪しい人影が遠ざかってるよね」と興奮。比与子は鈴木に「馬鹿息子を押した犯人を見過ごすわけにはいかないでしょ」と告げ、鈴木に、“犯人”の男の後を追うように命令した。

 復讐を横取りされた(?)、あるいは、先を越された(?)鈴木の数奇な数日が始まった。

グラスホッパー/伊坂幸太郎の読書感想文

 ストーリーはここから始まると言っても過言ではありません。「蝉」や「鯨」と名乗る殺し屋たちも登場します。人を交通事故死させる「押し屋」をはじめ、殺し方も、自殺させたり、毒殺したりなど様々。物語は盛り上がっていきますが、感想に移りたいと思います。

 「グラスホッパー」を読み終えて、現代のゆがんた社会が描かれてると思いました。

 政治家と癒着している寺原の息子が何をしても罰せられないことについて、比与子は、「世の中は、善悪じゃないんだから。ルールを決めてるのは偉い奴らでしょ。そいつに保護されちゃえば、全部問題ないってこと」、「政治家が『あいつが邪魔だ』と言ったら、寺原がその望みを叶えてあげる。そのかわり政治家は、寺原を罰しない」などと聞かせます。

 また、“自殺屋”が殺す相手は、不正な献金を見抜かれて絶対絶命に陥っている政治家の秘書だったり、使命感に溢れ政治家の暗部に切り込んでいったニュースキャスターだったりします。もちろん、創作の中でのエピソードですし、しかも、直接ストーリーに係わるエピソードというよりは回想など背景に滲ませられたエピソードでしたが、そういった間接的な描き方が、かえって、現実世界にもありそうだとリアリティを感じさせました。

 「グラスホッパー」は、あくまでも、何の理由もなく妻を殺された鈴木という男が、そのことをキッカケに、裏の社会へ足を踏み入れる物語です。鈴木は、まともな表の世界から、闇の世界に踏み込み、再び、表の世界に戻るのですが、教師として普通の生活を送っていた鈴木が、いやおうなしにトラブルに巻き込まれていくところからも、現代社会のゆがみは、すべての人に影を落としていることなのだと思いました。


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