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リアル鬼ごっこ/山田悠介のあらすじと読書感想文

2014年1月5日 竹内みちまろ

 西暦3000年、技術が発達し、「佐藤」という姓を持つ人口が500万人を越えた王国で、「佐藤」という姓を持つ22歳の王が、同じ姓を持つ人間がたくさんいることが気に喰わないからと、「佐藤」姓を持つ人間を抹殺することを思いつきました。王は、効率的に「佐藤」姓の抹殺を進めるため、ゲームの「鬼ごっこ」をするように命じました。「鬼ごっこ」の期間は7日間で、時間帯は午後11時から12時までの間、交通をすべて止めて、「佐藤」さんを識別する探知機ゴーグルをつけた王国の兵士たちが、「佐藤」さんを捕まえる鬼になります。鬼につかまった「佐藤」さんは処刑され、王は、7日間の「鬼ごっこ」を生き残った「佐藤」さんには、何でも願い事をひとつかなえると約束しました。マスコミは、「リアル鬼ごっこ」と称しました。

 横浜に住む大学生の佐藤翼は、父親と2人で暮らしています。翼が7歳の時に、母親は4歳の妹を連れて、酒におぼれて暴力を振るう父親から逃げ出していました。

 リアル鬼ごっこの1日目、陸上選手である翼がジャージ姿で外に出ると、車が一台も走っていませんでした。その日は何事もなく終わり、2日目、目から鼻の辺りまで覆う探知機ゴーグルを着けた全身迷彩服の鬼に遭遇します。翼は持ち前の脚力で逃げ切りました。しかし、自宅前で、翼と同じように、鬼から逃げ回っていた父親の輝彦が息を切らせて倒れていました。輝彦は、翼の母親の益美が交通事故で死んだことと、いったんは旧姓の「鈴木」に戻った翼の妹の愛が、輝彦の弟の養女になったため、「佐藤」姓に戻っていることを告げます。愛は大阪におり、「お前が愛を助けるんだ」と翼へ言い残し、輝彦は急性心不全で死にました。

 翼は輝彦の通夜を済ませてから、タンスの現金をすべて持ち、追われることを想定して荷物は何も持たず、新幹線で大阪へ向かいました。新大阪から乗り換えて、父親から告げられた淀川区の駅の改札を出たとき、3日目の「リアル鬼ごっこ」が始まります。翼は、鬼から逃げ切った後、中学生時代の親友の佐藤洋に会います。中学時代は「ダブル佐藤」と呼ばれた仲ですが、4日目、洋は、「翼! 逃げろ! 後は俺に任せろ!」と、翼を逃がすために鬼に捕まりました。

 5日目、翼は、愛の友人に出会い、愛と再会します。翼は愛と2人で逃げますが、その日の「リアル鬼ごっこ」は間一髪のところでセーフ。6日目、逃げている途中に外れてしまった愛が、鬼に捕まりました。

 王国では、どうせ死ぬならとやけになった「佐藤」さんたちが犯罪に走り、治安が悪化していました。5日目が終わった時点で、500万人いた「佐藤」さんが5万人にまで減っていました。

 「ラスト鬼ごっこ」の日、翼は気が狂いながら逃げ回りました。しかし、9人の鬼たちに追い詰められてしまいました。ただ、鬼たちは翼を捕まえようとせず、探知機ゴーグルを外します。数分後、「リアル鬼ごっこ」の全日程が終了しました。

 「リアル鬼ごっこ」を生き抜いたただ一人の「佐藤」さんとなった翼は、王に呼ばれ、何でも願い事をかなえてやろうと声を掛けられます。翼は、「王様……死んで下さい」と口にし、最後の日に翼を追い詰めた鬼である兵士から託されていた拳銃で、王を射殺します。翼も、その場で、射殺されました。

リアル鬼ごっこの読書感想文(内容はネタバレ含)

 山田悠介さんの作品を読んだのは『スイッチを押すとき』に次いで2作目です。『リアル鬼ごっこ』がデビュー作ですが、読み終えて、どうしようもない現実に直面した人間の、それでもなお、どうすることもできない悲しさを感じました。

 本作のプロローグで、母親が、7歳だった翼を見捨てて、逃げていく場面が描かれています。4歳の妹の面倒で手一杯で、やむを得ない選択ではあったのですが、母親は、「お母さん……本当に行っちゃうの?」と悲しげに顔を上げる翼へ、「翼は男の子だし……強いから大丈夫よね?」などと、語りかけます。母親が大好きだった翼は、「う、うん。大丈夫。僕……強いし、男の子だから……大丈夫だよ」と無理に明るい口調で答えます。7歳にして、自分を見捨てる母親が自分に負い目を押しつけたことを悟り、大好きなお母さんに「大丈夫」と言ってしまう少年の悲しさが伝わってきました。

 他にも、愛を探していたダブル佐藤が、家族を殺されて一人残された少女を見捨てた場面や、愛が捕まってしまう場面など、自分ではどうすることもできない現実を否応なしに突きつけられざるを得ない人間の悲しさのようなものが描かれていました。ラスト・シーンにしても、翼が射殺されなければならない理由はなかったのかもしれません。しかし、それでも結末では、老臣の「こやつを撃て!」の一声で、殺されてしまいました。

 山田悠介さんは、人間の宿命的な悲しさのようなものを描く作家なのかもしれないと思いました。


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