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火垂るの墓/野坂昭如のあらすじと読書感想文

2014年6月1日 竹内みちまろ

火垂るの墓のあらすじ

 戦争末期の神戸。B29が350機飛来したという6月5日の神戸大空襲の際、14歳の清太は、病弱で逃げられない母親を防空壕に入れ、4歳の妹・節子を背負って逃げます。父親は海軍の軍人で、巡洋艦に乗って出征しましたが、音信が途絶えていました。

 空襲が終わると、清太の家は跡形もなく焼け落ちていました。避難所に指定されていた学校の校舎へ向かうと、町内や近所の人たちが清太を気遣います。清太は、目と鼻と口だけを出して全身に包帯を巻かれた母親に対面します。清太の母親を病院へ運ぶといわれ、清太は、母ちゃんは心臓が悪いのでその薬ももらえますか、と聞き、ああ頼んでやろう、と言われます。頼んでやろうという返事を聞いた清太は母親が絶望であることを確信しました。

 清太は、節子を連れて、万一の時に身を寄せることになっていた西宮の遠縁の親類の家に行きました。最初のうちは、清太が持参した米や、疎開させておいた清太の母親の着物などが目当てでやさしくされますが、すぐに、やっかいもの扱いされます。山際だった西宮は、まだのどかな空気が流れていました。防空演習に参加しない清太は近所からも苦情を言われますが、あのB29の大編隊を見てしまった清太には、バケツリレーに参加する気が起きませんでした。

 節子はじきに、幼い心に何かを悟ったのか、お母ちゃんのところに帰りたいとは言わなくなりました。が、そんな節子も、親類の家にはいたくないと言い始めます。清太は節子を連れて、貯水池のそばの横穴の中に、蚊帳や布団を運び、暮らし始めます。

 すぐに食料は底をつき、清太は畑を荒らしたり、空襲警報が鳴ったあとに近所の家に強盗に入ったりするようになります。しかし、節子は骨と皮ばかりにやせ衰え、病院に連れていくと、栄養を付けさせるしかない、と言われます。清太は貯金を下ろして食料を買いに出ます。が、闇のルートを使う知恵もなく、処世術もないため、ついに節子を栄養失調で死なせました。

 清太も、三ノ宮駅で寝起きするようになり、じきに息を引き取ります。清太のそばには、節子の骨が入ったドロップ缶があり、身寄りがないため、清太は無縁仏として葬られました。

火垂るの墓の読書感想文

 「火垂るの墓」はアニメーション映画の印象が強烈で、文庫本のカバーにもアニメの中の清太と節子が印刷されていますので、どうしても、アニメのイメージを思い描きながら読んでしまうのですが、今回読み返してみて、人間というものが持っている、どうにもならない悲しさのようなものを感じました。

 小説の「火垂るの墓」のストーリーは映画とほぼ同じで、小説はたんたんと描かれている気がしましたが、それでも、清太が空腹のあまり、ニキビをつぶして出てきた白い脂を口に含んだことなど、エピソードの一つ、一つが心に迫ってきました。

 清太の家は、父親が職業軍人のようで、戦争中は、特権階級として優遇された暮らしをしてきたようです。心臓を患っている母親は、清太と節子のことを思って、お金に換えることができる着物などを親類の家に預けたりしていました。が、家族や親類も含めて、信頼のできる人間がいなかったためか、万一のことが起きてから、万一のための用意をしておきながら、清太と節子がつらい目に遭っていました。

 また、逃げることができない母親が炎と煙の中で地獄を味わったことや、貯金はあってもお金の使い方も処世術も持たない清太が何もできない姿や、節子があせもだらけになって虫に食われ続ける姿など、やるせない気持ちになってきます。

 戦争が悪い、思いやりがない、助け合いをしよう、などと叫ぶことは簡単ですが、それ以上に、「火垂るの墓」に描かれたエピソードは、もともと人間に備わっているどうにもならない悲しい宿命を感じます。それが戦争という極限状態で、如術に現れたのかもしれません。

 じゃあどうすればよいのだと言われてしまうと返す言葉がないのですが、何かを成し、そして、何者かになるために、毎日を必死に生きるしかないと思いました。


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