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アルジャーノンに花束を/ダニエル・キイスのあらすじと読書感想文

2013年4月2日 竹内みちまろ

 『アルジャーノンに花束を』(ダニエル・キイス/小尾芙佐訳)を読みました。読み終えて、深い内容に圧倒されました。読み返す年齢やステージによって感じるものが違う、味わい深い作品だと思いました。あらすじと読書感想文をまとめておきたいとおきたいと思います。

 まずは、あらすじから。

 知的障害を持つ32歳のチャーリイ・ゴードンは、死んだ伯父ハーマンの親友ドナーが経営するパン屋で働いていました。チャーリイは「ぼくわかしこくなりたい」と常に思い、周りの人たちからも好かれようと、一生懸命でした。ビークマン大学の研究チームは、白ねずみのアルジャーノンを使った動物実験で知能を急激に高める成果をあげていましたが、その実験を、チャーリイに用いることにしました。結果、チャーリイは、「天才」になります。ページをぺらぺらめくるだけで本の内容はすべて頭に入り、外国語をいくつも習得し、ストラビンスキーの音楽に聴き入るようになります。しかし、知識や知能の急激な上昇に、感情がついていかないという現象が起こります。チャーリイは、ニーマー教授はじめ研究チームのメンバーの心の中がわかってしまい、また、実験のことを他言することは禁じられていたため、急にかしこくなったチャーリイは不審がられてパン屋を首になってしまいました。チャーリイの実験の発表は、時期尚早ではありましたが、博士号の取得と、学会での成果を必要としていたニーマー教授によって、為されます。チャーリイは、自分がチャーリイを創作したというニーマー教授に、心の中で、実験前も僕は人間だった、と叫びます。発表会場から、アルジャーノンを連れて逃げ出します。一人になったチャーリイは、父親と母親と妹に会いに行きます。別居して理髪店を営んでいた父親はチャーリイに気づかず、母親は老いと生活苦のためにチャーリイと正常に向き合うことが出来ませんでした。また、妹は母親からチャーリイは幼い頃に死んだと聞かされていました。やがて、アルジャーノンに、急激な知能の低下が起こり、アルジャーノンは死んでしまいました。「天才」となっていたチャーリイは、アルジャーノンに起きた知能の急激な低下が自分にも起こることを悟り、怯えます。チャーリイは、ウォレン養護施設へ入所することになりました。

 『アルジャーノンに花束を』は、読み終えて、チャーリイの旅は、自分自身を探す旅だったのかもしれないと思いました。手術を受けた後、チャーリイは、いろいろなものが見えてくるようになります。手術を受ける前にはわからなかったことも理解できるようになります。パーティーで「なぜこの人(=チャーリイ)をほうっておかないの?」とチャーリイにちょっかいを出して喜ぶ連中に疑問を向けるエレンと踊らされるはめになったとき、チャーリイは、何度も転びます。いつも突き出される誰かの足につまずいて転ぶのですが、みんな輪になって笑い、チャーリイも、笑います。その時のことや、子どものころに鬼ごっこをして鬼になったチャーリイが、暗くなるまで探し回っても誰一人見つからなかったことなど、だんだんと、チャーリイには、人間の「悪意」とでもいうようなものが理解できるようになります。

 そんなチャーリイは、家族に会わなければと思います。17年前に伯父のハーマンがパン屋を経営するドナーにチャーリイを託し、2年後にハーマンが死んだ際、チャーリイの母親のローズがチャーリイをウォレン養護施設に入れましたが、ドナーはチャーリイをウォレン養護施設から引き取っていました。

 17年ぶりに母親のローズに会いに行くと、ローズは最初はチャーリイのことがわからず、次に、おびえて、玄関の鍵を締めてしまいました。チャーリイは、ローズに、「自分を理解しなければぼくは完全な人間にはなれないんだよ」などと語りかけます。チャーリイの中で、25年前のチャーリイを守るために世間と必死に戦っていたローズの姿や、妹のノーマが生まれノーマに知的障害がないことがわかった後にチャーリイを疎んじるようになったローズの姿などが思い浮かびます。チャーリイは、「私が彼女(=ローズ)を許さなければ、私が得るものはなにもないだろう」と思います。「天才」となったチャーリイが欲したことが、知識の習得でも、健常者としての生活でも、活躍や名声でもなく、自分自身と向き合うことだったところが印象深かったです。

 また、チャーリイがビークマン大学の知的障害成人センター教師のアリスと愛を交わす場面も心に残りました。チャーリイはアリスと愛し合おうとするとパニックになってしまっていたのですが、実験によって与えられた知的障害状態ではない時間が終わろうとしているとき、アリスと愛を交わします。チャーリイは「神秘」を感じ、そのまま眠りに落ちます。分裂症状も見られていたチャーリイは、無意識の領域の中に、知的障害状態のチャーリイが存在していることを感じていました。しかし、アリスと愛を交わす際はパニックに陥らず、「きっと(知的障害状態の)チャーリイには、彼女(=アリス)が自分の母親でも妹でもないことがわかったのだろう」と思います。チャーリイにとっては、それだけ、母親と、母親との関係に重大な影響を及ぼした妹が、大きな存在だったのかなと思いました。

 チャーリイは、ニーマー教授へ、「人間的な愛情の裏打ちのない知能や教育なんてなんの値打ちもない」と告げていました。『アルジャーノンに花束を』は、尊厳や、障害や、社会のあり方などいろいろなことを考えさせられましたが、心に残ったのは、チャーリイの愛情を求める姿でした。また、アリスが、残された時間が少なくなり、おこりっぽくなったり、無気力になっていくチャーリイに告げた「手術を受ける前のあなたはこんなふうじゃなかった」「あなたには、あたしたちに尊敬する心をおこさせるようななにかがあった――そうよ、たとえああであってもよ」という言葉も印象に残りました。


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