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獣の奏者W完結編/上橋菜穂子のあらすじ

2017年1月13日 竹内みちまろ

 エリンは、王獣部隊を作ることを承諾してから、迷いを捨て、ひとつ、ひとつ、王獣に関わる封印を解いていった。2年で、自在に編隊飛行ができるまでに王獣を訓練した。ジェシは13歳になっていた。

 カザルム王獣保護場では、リランは子どもを生み続けたが、リランの子どもたちはいつまでたっても成熟せず、交合をしなかった。

 エリンは、王獣保護者のオムラから、野性の王獣は親が子どもを巣に入れないようにする「子離れの儀式」をすることや、野性の王獣には縄張りがあり、同じ親から生まれた子どもらがひとつの谷筋を縄張りにし、よく子どもを生む王獣(=「大主」と呼ばれる)が子どもを生まなくなるくらいの歳になると孫の世代からよく子どもを生む王獣が現れ次の「大主」になることを聞いた。

 エリンは、カザルム王獣保護場でも王獣が1頭死ぬとそれを待っていたかのようにリランが妊娠するため、王獣は群で生きる生き物で、限られた空間の中で増えすぎないように調整しているのかもしれないと思った。エリンは放牧場を増やし、リランの子どもたちを親離れさせた。野性の王獣であれば4歳になれば交合飛翔をするところ17歳になるアルがようやく性的に成熟し、交合飛翔をした。

 エリンは、カザルム王獣保護場を訪れたセィミヤに、自分が太古の人々が特滋水を使って王獣も闘蛇も人の手で増えないようにした理由を暴く道を選んだことを告げた。エリンは、ソヨンが掟を守るために死を選んだことを理解しながらも、自身は「わたしには、生き物の生をゆがめるとわかっていて、薬を与えるようなことは、できません。ならば、その結果起こることを我が身でひきうけるのは、当然だと思われませんか」と語った。

 長雨のため麦の収穫が打撃を受け、来年の種麦さえ採れぬかもしれないという大凶作が真王領を襲った。長雨は大公領の米作地帯にも影響を及ぼした。例年通りの税を課せば民が餓死し、かといって税を減らせば隊商都市から穀物を買い上げる資金がなくなった。その夏の危機は、シュナンの妹のオリが豊かな隣国トゥラ王国のタウロカ王子の求婚を受け入れたことで回避された。タウロカ王子は両国の友好の証として大量の穀物をリョザ神王国に贈ってきた。

 イアルは、ヨハルが公然と後ろ盾となり大公軍の中で居場所を作り、黒鎧に次ぐ地位である青鎧になっていた。そんなイアルがエリンとジェシが住む家に里帰りをしてきた。東の大国ラーザが本格的にリョザ神王国の東部草原の隊商都市に触手を伸ばし始めたため、戦を前に、黒鎧と青鎧が順次、10日間の里帰りをすることになったのだ。

 イアルは闘蛇乗りになって6年が経っていた。エリンは イアルに、空腹ではないときは王獣は闘蛇が1頭なら威嚇の鳴き声を出すだけで襲わないことや、降臨の野でリランを襲ったのは闘蛇が群れていたからだということや、王獣が音で闘蛇を操ることや、王獣が多彩な鳴き声を持っていることや、飛行中の王獣が霧の中でも編隊を維持し闇の中でも岩を避けることから王獣が壁や岩に反響する何かを出しているのではないかということや、王獣と闘蛇は複雑で深い関係があることなどを告げた。エリンは「ああ時間が欲しい! 知りたいことを解き明かしていく時間が! 人の一生は、短すぎるわ……」と嘆いた。

 リョザ神王国が大公の軍事力で支配していた東部草原の隊商都市・ウラムが、ラーザに制圧された。ウラムの城門は、ラーザの闘蛇軍に守られていた。ラーザから大公に、東部草原の隊商都市のうち、ラーザに近いウラムとイキシリとトグラムの諸都市の所有権を完全に放棄すれば、リョザ神王国に近いイミィルとホザとカショルの諸都市の所有権を認め、今後、配下の諸氏族に軍事攻撃を仕掛けないよう通達をするという文書が届いていた。

 リョザ神王国で、セィミヤ、シュナン、真王領の貴族、大公領の領主たちが集まり御前会議が行われた。セィミヤは、ラーザの要求をはね除けて戦いを挑むことを選んだ。セィミヤは、真王領の貴族たちにも出兵を命じ、自らもシュナンと共に戦場に出ることを伝えた。真王領だけではなく大公領の重臣たちも、セィミヤの心がシュナンと共にあることを悟った。

 エリンのもとに急使が来た。エリンは、「死んじゃだめだよ、おかあさん!」とすがるジェシに、「おかあさんは、彼らを野に帰すことも、戦をとめることもできなかった。でもね、ひとつだけ、できることがあるの。――おかあさんにしか、できなことが」、「王祖ジェや、おかあさんの祖先たちが、見せないようにしてきことの真の姿を、明らかにすること」と告げた。「どんな知識も、隠されるべきではないと思う」、「知らねば、道は探せない。自分たちが、なぜこんな災いを引き起こしたのか、人という生き物は、どういうふうに愚かなのか、どんなことを考え、どうしてこう動いてしまうのか、そういうことを考えて、考えて、考えぬいた果てにしか、ほんとうに意味のある道は見えてこない……」とも。

 イアルは、大公の新生闘蛇軍の副隊長として、隊商都市のイミィルに到着した。ラーザの2000の騎馬部隊は発見されているものの、ラーザの闘蛇部隊はいまだ発見されていなかった。闘蛇を北の丘稜地帯の川に放すのをやめてほしいという山羊飼いの苦情から、イアルは、騎馬部隊はリョザ神王国の闘蛇部隊をイミィルに集結させるための囮で、ラーザは闘蛇部隊でイミィルらの隊商都市を飛び越えて、川を下って大公が本陣を構えるアマスルを全滅覚悟で一気に攻撃する計画であることに気が付いた。

 ラーザの騎馬部隊が陽動だったという知らせが、セィミヤ、シュナン、ヨハル、エリン、そして王獣部隊が陣を構えるアマスルに到着した。エリンが連れて来た王獣部隊は、リランとエク、その息子のカル、あとから連れてこられたノラ、トゥバ、最も若いレッセ、カセ、オッセ、フセの9頭。妊娠中のアルとつがいのウカル、脚にケガをしているミナはカザルム王獣保護場に残してきた。アマスルでは、闘蛇部隊、弓隊、王獣部隊を配置して、アマスルの街を死守するための陣形が張られた。

 エリンがアマスルに到着した日の午後、カザルム王獣保護場を、「戒律ノ民」のナソンと、2人の「残った人々」が訪れた。「残った人々」の女性は、片方の瞳が緑で、もう片方が金色だった。エリンは、王祖ジェと「残った人々」が脚環に文を入れて飛ばし連絡しあっていたというオチワを使って文を飛ばしており、「残った人々」は「助けが必要なときにはオチワを飛ばしなさい」という太古の約束に従ってナソンを道案内にしてやってきたのだった。「残った人々」の女性は、王獣は闘蛇の大軍と接触すれば狂ってしまい、神々の山脈の向こうで起きた悲劇に比べれば救いがあるというものの、いまの数の王獣が闘蛇の軍に襲いかかれば数千人の死者が出るだろうと告げた。

 ジェシは、エリンに飛んではならないことを告げるため、アルに乗って、カザルム王獣保護場からラザル王獣保護場に到着した。エリンはすでにアマスルに行っていた。

 夜が明けると、ラーザの闘蛇軍が姿を現した。大公の闘蛇軍1000頭とほぼ同じ数に見えた。ラーザの闘蛇軍が上陸地点に差し掛かったとき、シュナンは味方の闘蛇軍に攻撃を命じた。しかし、闘蛇が敵の闘蛇に近づくと身を翻し、闘蛇同士は接触を避けた。ラーザの闘蛇軍は上陸を終えて、1000頭が一気にアマスルの街へ向かって駆け始めた。

 エリンは、セィミヤに、「どうか約束してください。――これから起こることを見届け、なにがあってももう二度と隠すことはしないと。みんなが真実を知り、考えることができるように。もう二度と隠さないと、どうか……」と願い、セィミヤは「必ず、そなたの思いに応える」と約束した。

 エリンはリランに乗り、竪琴で王獣部隊を飛ばした。ラーザの闘蛇部隊はアマスルの街を守る周壁に近付いていた。王獣たちがラーザの闘蛇たちの上空に散らばり、次々と襲い始めたとき、多くの天敵に頭上を覆われた闘蛇たちが一斉に恐怖に陥った。

 ラーザの薄滋水でゆがめられた身体で繁殖を繰り返してきた闘蛇たちは、身を絞って声なき悲鳴をあげ、王獣たちの鳴き声と闘蛇たちの声なき悲鳴がぶつかった瞬間、闘蛇の群は身を寄せ合って右回転の円を描いて渦を巻き始めた。

 闘蛇の足元から土煙があがり、1000の闘蛇は異様に高い悲鳴をあげ、恐怖と興奮によって分泌された体液が互いに身体を押し付け合うたびに鱗の間から沸き上がり、土埃と共に巻き上げられた。闘蛇に乗っていた闘蛇乗りたちは、土埃がもやのように交じった大気に触れると、一瞬にして死んだ。

 闘蛇に襲いかかっていた王獣たちも、身体を反らせ、悲鳴をあげるように口を動かし始めた。頭をふり、声なき声をあげながら、それでも、闘蛇の群に突っ込んでいった。

 発狂した闘蛇たちはひたすら円を描いてぐるぐると回り続け、王獣たちもその周囲を翼を斜めに振りながら回転していく。

 リランも急降下を始めた。エリンは、土煙の層が間近に見えたとき、顔にもやのようなものが触れ、激痛が走った。エリンは身をのけぞらせながら騎乗帯の取っ手を引いた。エリンは涙で目が開けられないまま、必死に竪琴を奏でた。リランは円を抜けて天へ舞い上がった。竪琴の音を聞いて、リランに続き、エクが舞い上がり、ノラとトゥバもなんとか付いて来ようとしている。しかし、カル、レッセ、オッセ、フセはすでに狂っており、ラーザの闘蛇軍に追いすがってきた味方の闘蛇軍に頭から突っ込んでいった。

 大公軍の闘蛇も狂乱に巻き込まれた。敵も味方もなく、恐怖に陥り、狂った闘蛇の群と王獣たちは苦痛にさいなまれた塊となってアマスルの街の周壁にぶつかっていった。狂った闘蛇の群はアマスルの大門に次々と身体をぶつけ、ついに、大門が破壊された。闘蛇がアマスルの街になだれ込んだ。その上空で、王獣が次々と闘蛇を襲っている。

 エリンは、王獣が闘蛇を襲い続ける限り闘蛇は毒の霧を発散し続けると思った。野性の闘蛇も、降臨の野でリランに襲われた闘蛇も毒性の霧を発することはなかったため、エリンは、「この闘蛇たちは――人の手で繁殖させられた闘蛇なんだわ」と気付いた。「何世代にもわたって人の手で繁殖をくり返させられ、生みだされた闘蛇の体液は毒性を増すのだろう。そして、恐怖に陥ったとき、その代謝は激しくなるのだ」と思った。

 エリンは、毒の霧がアマスルの街の人々を殺してしまう前に、王獣と闘蛇の狂気の連鎖を止めなければならないと思った。エリンは、エク、ノラ、カセ、トゥバを丘に向けて逃がした。

 そのとき、ジェシがアルに乗ってやって来るのが見えた。ジェシは、甘えん坊のカルが牙を剥き出しにして闘蛇の群に襲いかかり、レッセもオッセももつれあい、ひっかき合いながら悶えている姿を見た。ジェシは、アルと共にカルのところへ行って、狂っている王獣の真ん中で音無し笛を吹けばすべてが終わると分かっていた。しかし、音無し笛を吹いてしまえば、アルもアルのお腹の子も死んでしまうため、吹くことができなかった。

 エリンは、ジェシを乗せたアルを天高く飛翔させた。エリンは、ジェシが音無し笛を口に当てたときに何をすればよいのかを悟った。リランに「……行きましょう、リラン、あなたの子どもたちのところへ」と告げた。

 エリンはぶつかり合う獣たちの群の中に飛び込み、もつれ合う王獣たちの間に入ったとき、音無し笛を一気に吹いた。カルたちが硬直し、音無し笛が届いた範囲の闘蛇もその場で崩れ落ちた。王獣と闘蛇の狂乱の連鎖が断ち切られた。硬直したリランは、エリンを乗せたまま地面に落下した。

 生き残った闘蛇たちが一斉に弔い笛を吹き慣らした。アマスルは闘蛇と闘蛇兵たちの死体の海だった。

 アマスルに駆け付けたイアルは、騎馬兵から、王獣も闘蛇も狂い、敵も味方もなく、渦に捕らえられたら血を吐いてすりつぶされることを聞いた。イアルは馬でアマスルに駆け付け、馬が竿立ちになって言うことをきかなくなると、アマスルに走った。イアルは、リランと共に落下するエリンの姿を見て駆け寄り、エリンを救い出した。

 エリンはそれから4日間生きた。エリンは筆記者を呼び、ひたすら筆記者に向かって、野にあれば起こるはずのない異常な状態に置かれた闘蛇や王獣たちが、なぜ、どのようにして狂っていったのかを語り続けた。

 ジェシたちは試行錯誤の末にアルの子どもたちをようやく野に帰した。アルたちが死んだ後、カザルムから王獣の姿が消えた。エリンが筆記者に語った記録はセィミヤによって編さんされ、教導師や獣ノ医術師を目指す者たちの必読書として版を重ねている。


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