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イワンのばか/トルストイあらすじと読書感想文

2005年3月5日 竹内みちまろ

 「イワンのばか」(トルストイ/菊池寛訳)は、教訓話です。ストーリーを簡単に。一家が登場します。両親に子どもが4人(3兄弟+妹)です。

3兄弟:シモン(兵隊)、タラス(商人)、イワン(農民)、妹:マルタ(農民)

 マルタは妹です。聴力を持たず、しゃべりません。

 ある日、シモンとタラスが両親に財産をねだります。両親は顔をしかめます。しかし、イワンが「兄さんの欲しいだけあげなさい」と言うので、1/3ずつ分け与えました。それを、年老いた悪魔が見ていました。年老いた悪魔は、財産分けで兄弟がけんかをしなかったことに腹を立てました。3匹の小悪魔を召還しました。小悪魔たちは、3兄弟に取りつきます。シモンとタラスは、小悪魔に足を引っぱられます。無一文になって、イワンの家に帰りました。イワンに取りついた小悪魔は、うまくことを運べません。イワンは、足を引っぱられても、コツコツと畑を耕すことを止めません。イワンには、欲がありません。小悪魔のささやきにも耳を貸しませんでした。小悪魔は、とうとうイワンに捕まってしまいます。

「じゃ行け、神様がお前をお守り下さるように」

 イワンが神様の名を口にするかしないかのうちに、小悪魔は地の穴に吸い込まれていきました。

 「イワンのばか」の魅力は、ストーリーが持つ説得力ではないかと思います。「まんが日本昔話」にも通じる読後感がありました。登場人物が、みな人間くさいです。仏法説話に慣れ親しんでいる人でも、違和感なく読めるのではと思います。イワンは素朴な農民です。畑を耕して収穫を祝うことに疑問を持ちません。両親と妹を養いながら、自分のやるべきことに精を出します。シモンとタラスは、そんなイワンをバカにしています。戦争や商売の能力には長けていますが、欲の厚さを見透かされて、小悪魔にイタズラされてしまいます。そんな2人は、イワンの家に逃げ帰ります。イワンは、笑顔で家に迎え入れました。しかし、シモンとタラスは、服が臭いだの、農民といっしょには住めないだのと、イワンに文句をつけます。挙句のはてに、イワンから財産をもらって出て行ってしまいます。

 物語には、”落ち”があります。「イワンのばか」の”落ち”は、手を叩いてしまうほどに鮮やかでした。シモンとタラスが小悪魔にたぶらかされる姿が何度も語られたり、一見マヌケとも思えるイワンの素行が繰り返し描写されるのは、すべてラスト・シーンでストーリーを”落とす”ためのワナだったんだと思いました。 トルストイは、これでもかと言うまでに読者を落すための伏線をはります。イワンは、小悪魔を3匹とも地の穴へ閉じ込めてしまいました。年老いた悪魔が登場します。しかし、年老いた悪魔が金や権力をちらつかせても、イワンは相手にしませんでした。年老いた悪魔は腹を立てます。同時に、腹をすかせます。木の葉から金貨を作って、パンを買おうとしました。しかし、イワンの国では、だれもお金をありがたがりません。

「だからばかと言うんだ。ところがおれは頭で働く方法を一つ教えてやろう。そうすりゃ手で働くより頭を使った方がどんなに得だかわかるだろう」

 狡猾な悪魔が腹をすかせたり、むきになって説教をはじめてしまうところが、ストーリーの妙でしょうか。そんな年老いた悪魔を、妹は、耳が聞こえずに言葉を持たないゆえの純粋さで追い詰めます。そして、イワンは、素朴さゆえに正鵠を得たセリフで、年老いた悪魔のこっけいさを皮肉たっぷりに浮き彫りにします。そんな場面で終わる物語でした。教訓話に加えて、物語としても十分におもしろかったです。といいますか、おもしろいから、説話としての重みが加わるのだろうと思いました。「イワンのばか」は、ストーリーの妙技を堪能できる小説だと思いました。


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