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復活/トルストイあらすじと読書感想文

2005年9月1日 竹内みちまろ

 一昨年、イタリア映画「復活」を見ました。革命前夜のロシアを舞台に、青年の苦悩が描かれた作品でした。2003年に見た映画で、一番心に響きました。映画のラストシーンは、青年の変化を暗示して終わりました。実は、映画を見たときは、ラストシーンで何を伝えたかったのかわかりませんでした。原作を読みました。原作は、映画以上によかったです。映画のラストシーンは、制作者なりの解釈だとわかりました。

 「復活」(木村浩訳)のあらすじを簡単にご紹介します。「復活」は、青年貴族が主人公です。軍務に就いて、すさんだ生活をしていました。青年は、叔母の屋敷に立ち寄りました。復活祭の夜に、幼いころから一緒に育った屋敷の養女を誘惑しました。操を奪いました。翌朝、青年は、100ルーブル紙幣を養女に押し付けて屋敷を去ります。「復活」は、それから10年後の場面からはじまります。青年は陪審員として、ある裁判に出席していました。かつて自分が傷モノにした養女が、被告席に座っていました。養女は、娼婦でした。殺人の罪を着せられようとしていました。

 「復活」の魅力は、さまざまな視点で語ることができると思います。階級社会や官僚制度への批判とも読めますし、ロシア正教やキリスト教という点に注目しても得ることがあります。農奴解放、あるいは、革命運動を取り上げても興味深いです。そして、恋物語としても読み応えがありました。青年は、無実の罪でシベリアへ徒刑となったヒロインを救おうとします。それは、かつて自分が犯した過ちと向き合い、罪を償うための行動でした。そう決心するまでに、青年は何度も苦悩します。前の晩には、「たとえ結婚という手段によってでも自分の罪をつぐなうためにはどんなことでもする決意をしたのだ」と心の中で叫びます。しかし、翌日になると、何も言えなくなってしまいます。夜を越えた青年の葛藤は、繰り返し何度も語られます。友人は、青年に「お前のマグダラのマリアにもあの人の話をきかせてやりたいものだねえ」と言いました。娼婦を救済するために駆けずり回る青年を、周囲の人間は嘲笑します。青年は、心の中で、(世間の連中は、なんとでもこのおれを批判するがいい。連中ならあざむくことができる。しかし、自分をあざむくことはできない)と思います。

 青年の物語の合間に描写されるヒロインの姿にも、心を奪われました。ヒロインは、青年と目を合わせるたびに、「さっと顔を染め」ます。しかし、次の瞬間には心を閉ざしてしまいます。そんな描写が、繰り返し何度も語られます。青年を愛するがゆえに、青年に別れを告げる場面では、ヒロインは「急に真っ赤に」顔を染めました。せつなかったです。特定の描写や決まった状況を繰り返し設定すほかにも、物語中に伏線を張りめぐらして、対になった出来事が無数に散りばめられていました。

 「復活」を読み終えて、脱力しました。どの場面も心に残る作品でした。とりわけ、ラストシーンは強烈でした。物語を盛り上げるための工夫は、しょせん、技術でしかないのだと思いました。手元の文庫だと、ラストシーンは10ページです。その中には、聖書の引用も多く含まれています。疲労と絶望感に打ちのめされた青年は、床にも就けません。ヒロインは、別の場所へ旅立っていました。青年は、たまたまベッドの脇に置いてあった聖書を手にします。青年は、読みなれた聖書の言葉の一つ一つに、新しい発見をします。青年の心の中で、何かが変わりました。この場面を読んで、それまでに語られてきた全てのエピソードが、ラストシーンの伏線でしかなかったことを知りました。青年が見た「神の王国」は、ほんとうに存在するのかもしれないと思えるほどの「説得力」がありました。トルストイは、この場面を書くために、10年の歳月をかけたのかもしれません。私は、(キリスト教徒ではないのですが)、聖書を読んでみようかなと思いました。本書の最後の段落は、「この晩からネフリュードフにとってまったく新しい生活がはじまった」という文ではじまり、「彼の生涯におけるこの新しい時期がどのような結末を告げるかは、未来が示してくれるであろう」という文で終わります。トルストイは、復活の朝の様子は描きませんでした。「未来」は、読者自身に、見つけて欲しかったのでしょうか。


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