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映画「怒り」のあらすじと感想(ネタバレ)

2016年9月17日 竹内みちまろ

映画「怒り」のあらすじ(ネタバレ)

 映画「怒り」(李相日監督/2016)は、真夏の住宅街で、夫婦が夫婦の自宅で殺害される事件から始まります。

 犯人は、殺害した妻を浴槽まで運んだ後、蒸し風呂のような家の中で1時間待ち、帰宅した夫も殺害。夫婦の死体を放置したままの浴室でシャワーを浴び、家の中で食事を取り、ドアに血で「怒」の文字を書き記して、逃げました。

 犯人の特徴は、ほほに3連のほくろがあることと、左利きということ。当初は鋭い顔つきをしていましたが、整形手術を受けて二重にしたところ、険の取れた顔つきになりました。新宿で目撃情報があったことから、警察は整形後の顔に加え、女装したモンタージュ写真を作成し、公開捜査に乗り出しました。

 そして、3つの物語が並走していきます。

 ***

 母親が男関係で問題を起こしたため、母親と2人で離島に移り住んできた高校生の泉は、島で旅館を営む家の同級生・辰哉のボートで無人島に連れていってもらいました。無人島で、廃墟で暮らすバックパッカーの田中と出会います。田中は、できれば自分に会ったことは誰にも言わないでほしい、と泉に告げます。泉は、廃墟を訪れるようになり、田中と交流を深めていきます。

 辰哉が泉をデートに誘いました。那覇で映画を観ようというもの。那覇に行った2人は、那覇に来ていた田中と出会い、3人は、食堂で泡盛を飲みます。辰哉は慣れない酒で酔ってしまいました。

 店を出た田中は、最後のフェリーで帰るという辰哉と泉と別れます。泉が目を離したすきに、辰哉は荷物も持たずにふらふらと歩きだしてしまいました。泉は辰哉を追い駆けるうちに、米兵たちが酒を飲む通りに迷い込んでしまいます。下を向いたまま足早に通りを抜けた泉でしたが、暗がりの公園までたどり着いた所で、背後から忍び寄った2人の米兵に襲われてレイプされました。

 辰哉は、泉がレイプされる様子を見つけましたが、恐くて、泉がレイプされている間、泉を助けることが出来ませんでした。どこからか「ポリス!」の叫び声がして、2人の米兵は逃げて行きました。辰哉は泉に駆け寄り、震える手で携帯電話を掛けようとしますが、泉は、どこにも連絡しないで、と告げました。

 辰哉は、旅館を手伝うようになった田中に、沖縄で女の子が米兵にレイプされることを話し、怒りを伝えることってできないのか、などというという疑問をぶつけます。田中は、沖縄の味方になるなんて大きなことは言えないが、俺は辰哉の味方にはいつでもなる、ということを告げます。

 しかし、田中は、旅館で顧客の荷物を投げ飛ばしているところを辰哉に見つけられ、むしゃくしゃすると自制が効かなくなることを告げます。フライパンを持って部屋中をめちゃくちゃに荒らした末に、2階の窓から、無人島へ逃げました。

 辰哉は無人島の廃墟を訪れました。

 ***

 大手通信社に務める藤田優馬は、ゲイの仲間たちとパーティで遊びますが、ホスピスに入所しているたった1人の肉親である母親を足繁く見舞います。優馬は、ゲイの男たちが同好の男と出会うサウナのような場所で、膝を抱えて俯いていた大西直人を襲いセックスをしました。

 直人が腹が減ったと言うと、優馬は、外に出てめしでも食おう、と直人を誘い、ラーメンを食べます。直人は優馬のマンションで暮らすようになりました。

 優馬は、母親の見舞いに直人を連れて行くようになりました。母親は、直人のほほに3連のホクロがあると、笑います。

 しかし、ゲイの仲間たちの部屋が空き巣に入られる事件が続き、優馬は直人を疑い、お金は大丈夫なのか、などと探りを入れます。

 優馬は、中目黒の喫茶店で、直人が若い女性と親しそうに話をするのを偶然、目撃します。優馬は、俺を根本で裏切るようなことをしていないか、などと直人を問い詰めようとしますが、直人は、言いたくない、と女性のことは言わず、行方をくらましました。

 直人と連絡が取れず憔悴しきっていた優馬は、テレビで、殺人事件の犯人のほほに3連のほくろがあることを知りました。突然、警察から電話がきて、大西直人という人を知っているかと尋ねられますが、知らないと答えました。

 ***

 千葉の港の漁業組合で働く槙洋平は、3カ月前に家出した娘の愛子が新宿・歌舞伎町の風俗店で働かされているのを、NPOの助けで知り、愛子を連れ戻しました。

 愛子は、2か月前にふらっと現れたという田代という若い男と心を通わせます。洋平に、町に空いているアパートの部屋があるからそこで田代と一緒に暮らしたいと頼みます。

 洋平は、田代が持ってきた紹介状を頼りに、田代が前に2年間ほど働いていたという軽井沢のペンションまで行き、田代の話を聞きました。が、軽井沢のペンションでは田代は別の名前を使っており、働いていた期間も田代の説明とは違っていたことを知ります。

 さらに、洋平は、テレビ流れていた殺人事件の犯人のモンタージュに、田代とおなじ3連のほくろがあることを知ります。犯人も田代も左利きであることを知ります。

 洋平は、愛子の従姉妹の明日香に相談しました。明日香が、愛子に、洋平が田代が犯人ではないかと疑っていることを告げます。愛子は、田代に、殺人事件を犯して逃げている犯人でないなら帰って来て、と電話をしますが、田代は帰ってきませんでした。

映画「怒り」の感想(ネタバレ)

 「怒り」は、ラストシーンが印象に残りました。無人島の廃墟を訪れた泉は、廃墟の壁に、米兵にレイプされた泉をあざ笑う落書きを見つけます。落書きは上から削られて必死に消されようとしていました。それを見て、泉は、辰哉を思いました。

 米兵にレイプされた泉の怒りは、どうにもならないことへのやるせない怒りでした。ただ、最後の場面で、拳を握りしめた泉の怒りは、辰哉への思いから生まれた怒りだと思いました。そして、泉の顔つきや叫びからは、何か、人を圧倒するような意志のエネルギーを感じました。

 泉の中に沸き起こった辰哉への思いやエネルギーがどうなるのかは映画では描かれていませんでした。しかし、泉の顔つきから、正義や、正しさや、良心や、誇りや、尊厳や、意志というものは、怒りも含めた人間の感情から生まれるもので、誰かを思う気持ちが強いほど意志も強くなるものなのかもしれないと感じました。

 また、3つの物語とも、人と人が出会うことから始まっていることが印象的でした。世の中の人はみんな、それぞれの事情を抱えて生きていると思います。が、誰とも出会わずに静かに決まりきった毎日だけを過ごす限りはそんな事情は表に出ることはないのかもしれません。

 しかし、それでも、人と人が出会わなければ物語は生まれず、そして、人と出会っていくことが生きるということなのかもしれないと思いました。


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