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映画「私の男」二階堂ふみのあらすじと感想(ネタバレ)

2015年6月15日 竹内みちまろ

映画「私の男」二階堂ふみのあらすじ(ネタバレ)

 映画「私の男」(熊切和嘉監督/2014年/日本)は、1993年7月の北海道南西沖地震の場面から始まります。奥尻島に住んでいた幼い花(はな)は、おんぶして津波から逃げてくれた父親をはじめとする家族を失い、海岸でさ迷っていたときに声を掛けられました。避難所に、オホーツク海に面する紋別市で海上保安官として巡視船に乗る仕事をしていた腐野淳悟(くさりの・じゅんご)がやってきて花を引き取ると言います。淳悟は花の遠縁でしたが、紋別の世話役のような老人・大塩は、淳悟に、家族を作ることはあんたには無理だと告げます。が、「言いすぎた」と引き下がりました。欠損家庭で育ったという淳悟は、カッとなって母親の首を絞めたことがあるといい、淳悟の家族は、みんなで死んだとのこと。

 淳悟は、紋別の銀行に勤める大塩小町とは長い付き合いで、町の人からは、そろそろ結婚かな、などと声を掛けられますが、小町は、学生服を着るようになった花と淳悟が指を舐め合ってじゃれ合う姿を見ます。花は、小町に、淳悟になら殺されてもいいと告げました。

 淳悟と花の禁断の関係を知った大塩老人は、旭川にいる花の親戚に掛け合って、花が高校を卒業するまで預かってもらうように話をまとめました。そして、そのことを花に告げようとします。花はそんな大塩から、流氷が着岸していた浜まで逃げて、さらに流氷に乗って沖に逃げます。花に声を掛けながら追いかけていた大塩は、花に、(淳悟との関係は)誰にも言わない、と告げます。花は、大塩が乗っていた流氷を足蹴にして沖に流します。花自身が乗っていた流氷も流されましたが、花は海に飛び込んで自力で泳いで帰りました。後日、氷の上でコチコチになっていたという大塩の遺体が発見されます。10日間の巡視船での勤務から戻った淳悟に、花は、私がやったの、と告げます。

 淳悟と花は、紋別を捨てて、都会に出て、淳悟はガラの悪いタクシー会社で運転手をし、花は学校に通います。そこに、大塩小町から居場所を聞いたという紋別の警察官がやってきて、「豚の餌だ」と言って、現場から発見されたのであろう遺留品である花のメガネを淳悟に見せます。淳悟は警察官を刺殺しました。

 やがて、淳悟の生活は荒んでいきます。働き始めた花が合コンで酔いつぶれて男に送られて帰って来た場面では、淳悟は男に「あがれよ」と声を掛け、上半身の服を脱がせて匂いを嗅いだり(淳悟は、タクシー会社の事務員から体にこびりついた匂いを指摘されていました)、婚約者と思われる男と結婚式の前日と思われる日にレストランで会った際も、タキシードは着ていたものの、花のものだろうと思われる赤い傘をさして、足は裸足にサンダルでした。

 花が淳悟の元から姿を消してから3年ぶりの再会でしたが、しかし、花はそんな淳悟を愛しそうに見つめながら、唇だけを動かして言葉を掛けました。

映画「私の男」二階堂ふみの感想(ネタバレ)

 「私の男」は、見終わって、ただ、ただ、圧倒されました。

 大塩と流氷の海に出た場面では、花は、淳悟が花の本当の父親であることを知っていることを大塩に告げました。誰かから知らされたりしたわけではなく、血が繋がっている、体中でそう感じることができると言います。その花のセリフを聞いて、だから大塩に目撃された花と淳悟の情事の場面では血が降ってきたのかと思いました。流氷に乗って流されていく大塩は、花に、そんなことは神様が許さない、ということを叫びます。

 「私の男」は、しっとりとした描写が心に染みる作品でした。冒頭から始まる幼い花が津波に襲われた場面とそのに続く避難所で淳悟と会った場面、淳悟の車で紋別へ向かう場面などは、たっぷりと時間をとって描かれていました。紋別で学生服を着る花は、天真爛漫なようで壊れそうな繊細な心を持ち合わせ、一途に淳悟が勤務から帰るのを待ちます。大人になって働き始めた花は、かわいらしさと妖艶さを兼ね備えた大人の女性になっていました。

 淳悟は自身が欠損家庭で育ったこともあり、家族というものが欲しかった、あるいは、花の父親になりたかったと思うのですが、一方、震災によって孤児になった花は、おんぶして逃げてくれた父親のぬくもりを覚えているはずです。身の上のことを知っている町の人たちからも優しくされています。

 そんな花がどうして、淳悟と男と女の関係になったのかはわかりません。また、淳悟との関係の是非を問うならば、大塩が言うように、神様が許さない、もしくは人間社会の掟が許さないと言わざるを得ないわけですが、しかし、津波に襲われて家族を失った幼い花が、淳悟に「キスしよ」と声を掛けた場面は衝撃でした。花の家に預けられていたときに花の母親と関係を持ったと思われる淳悟でさえ、最初言葉を花から「キスしよ」と言われた際は、驚いた顔をしていました。

 また、学生服を着た花が淳悟との関係を守るために大塩を流氷ごと海に蹴り出した場面はせつなかったです。ただ、ラストシーンの花の顔は、寂しさや孤独のために淳悟を求めていたときの花とは別人だと思いました。まさに、タイトルにもあるように、自分の男を手に入れた女の妖しさのようなものを漂わせていました。

 「私の男」は、淳悟についてのすべては、“欠損家庭で育ったため”というひと言で片付けることができるような気がしますが、花の底知れなさや妖しさは、“震災で孤児になったため”というひと言ではとても片付けることができません。言葉では表せず、ただもう、花がそういう女だったため、とでも言うほかはできません。そんな花の姿を描いているところに、「私の男」の奥深さがあるのだと思いました。


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