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「シレンとラギ」のあらすじと感想(ネタバレ)

2013年10月20日 竹内みちまろ

ゲキ×シネ「シレンとラギ」のあらすじ

 北の王国では、統治能力のない跡取り息子のギゼン王(三宅弘樹)のもと、取り巻きの執権モロナオ(栗根まこと)一味が勢力を伸ばしていました。そんな中、宮中に南の王国からの刺客が現れます。南の王国では、20年前に病死したゴダイ王(高橋克実)の姿を見かけたという噂が広まっていました。

 ゴダイは、北の将軍・キョウゴク(古田新太)が、ローラン族の暗殺者シレン(永作博美)に命じて20年前に暗殺した人物。キョウゴクは、シレンに、真相の確認とゴダイ暗殺を命じます。キョゴクの息子でシレンにあこがれるラギ(藤原竜也)と共に、シレンは南へ向かいました。

 ゴダイ王は、「神の椅子になれ!」という教義を広め、自らは神の代理として南に王国を築きあげました。キョウゴクとモロナオは、かつては南の重臣で、武官のシンデン(北村有起哉)やダイナン(橋本じゅん)と共に、ゴダイ王のもと、新しい国づくりを夢見ていました。しかし、「確かにゴダイは人物だった。だが、もろ刃の剣」と振り返るキョウゴクは、モロナオとともに南を捨て、北の王国へ来ていたのでした。

 シレンは、かつては、側室としてゴダイ王のもとに仕え、2年間かけて、ゆっくりとゴダイに毒に盛り続けました。南の王国に侵入したシレンは、ゴダイを見かけ「20年かけて毒を抜いた」とゴダイが本物であることを知ります。再び、ゴダイ王の側に接近します。

 同じころ、かつての盟友ダイナンが北のキョウゴクに、クーデターを持ちかけました。

ゲキ×シネ「シレンとラギ」の感想(ネタバレ)

 「シレンとラギ」は、観終わって、作品に込められた思いというものを考えました。

 世界には様々な人生がありますが、人間をつき動かずものとして、「ミッション(使命感)」「パッション(情熱)」「エモーション(本能)」があると思います。

 シレンは、幼い頃から体に毒を盛られて育ち、大人になってからは毒殺を得意とする刺客として、命じられるままに人を殺してきました。刺客としてのやり方は特殊で、血に毒が流れているため、交わった者が交わるたびに少しずつ毒に犯されていくというものでした。シレンは、自分を人間として扱ってくれた唯一の人間としてキョウゴクに恋慕のような感情を抱いています。いうなれば、エモーションのようなものですが、ただ、「シレンとラギ」のストーリーの中では、シレンのエモーションはあまり大きな役割を果たしません。そもその、シレンとキョウゴクにとって、それぞれは、自身が持っている運命とは何の関係もない外部の存在です。

 劇中で自らの出生の秘密を知るナギは、「もう、なにがなんだかわからない」と言うように、自らの意志で行動する主人公というよりは、運命に翻弄されながら、キョウゴクやダイナンたちが繰り広げる抗争の中で敷かれたレールの上を歩き、そこからゴダイによって暴走させられるヒーローでした。

 「シレンとラギ」は、サブストーリーとして、若き日のキョウゴクや、モロナオや、ダイナンや、シンデンが夢見た新しい国づくりへの情熱がありました。そこには、明確なミッションとパッションがあります。ゴダイ王は、キョウゴクがいうとおり、4人の想像をはるかに超えた危険なカリスマで、いうなれば覇王として部下を従えていた織田信長タイプの人物。そんなゴダイの下にいた4人は、どこかで思いを踏みにじられ、どこかで空回りさせられたはずですが、そんな4人が20年たって再び戦乱の中に自ら身を置いていくという展開は、期待させられるものがありました。ただ、4人+ゴダイ王のドラマを描くなら20年前の過去も描かねばならず、「シレンとラギ」はシレンとラギという2人の現在の物語でしたので、そのあたりは描かれませんでした。

 そのシレンとラギですが、運命に弄ばれる2人でした。ラギのこれまでの物語は一切語られず、あえていうなれば、父親のキョウゴク、妹のミサギ(石橋杏奈)、キョウゴクの部下かたちから愛されて育てられた心のまっすぐな青年という感じです。「ミッション」「パッション」「エモーション」は何もありません。物語の主人公としては、正直、きびしい。しかし、出生の秘密と、若い真っ直ぐさや覇王の恐ろしさとでもいうべき陰謀によって、一躍、悲劇のヒーローの座に座られます。このあたりは見ごたえがありました。

 シレンとラギは、けっきょくは運命に縛られて何もすることができなかったように感じました。最後、ミッションに目覚める場面で終わりますが、信念があってというよりも、自らの尊厳を守るための行為、言葉を替えれば自分を守るための行為であり、不意のアクシデントによる大混乱を起こしたうえで物語に一定の結末をつけるという意味ではセオリー通りなのですが、「それ以上のもの」を期待する観客の心には若干の物足らなさが生まれてしまうかもしれません。かつて信じるものを持って生きた4人も、現在のその4人を突き動かすものが、かつての生き様とは無縁の、恋心だったり、欲望だったりしますので、奥深さという点ではもうひと工夫欲しかった気がします。枝葉を捨てて、シレンとラギの物語として描かれるバージョンがあるなら見てみたいと思いました。


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