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屋根裏の散歩者/江戸川乱歩あらすじと読書感想文

2013年7月13日 竹内みちまろ

屋根裏の散歩者のあらすじ

 25歳の郷田三郎は、何をしても面白くなく、職業を転々としてきました、一生を捧げるに足るものに出会うことなく、下宿も転々としながら、無為な時間を過ごしています。これまでに手を出した趣味は多岐にわたり、女装して映画館の男性席に忍び込んだり(大正のころは男女で席が別れていた)、素人探偵の明智小五郎と知り合い、「犯罪」に興味を覚え、金持ちらしい通行人を尾行したり、妙な暗号文を公園のベンチの板の間に挟み込み、誰かがそれを発見するのを木陰から見張ったりもしましたが、さすがに、どんなに興味を覚えても、「犯罪」を実行することはできませんでした。

 そんな三郎でしたが、完成するなり一番に引っ越した東栄館で奇妙な楽しみを発見しました。東栄館に移って10日ばかりたったころ、退屈のあまり、いつも布団をしまっている押入れの上段に、そのまま寝てしまおうと考えついたのでした。いちいち布団を出して部屋で寝るよりも、布団をしまっている押入れの方に自分が入ってしまおうという思い付きです。実際に寝てみると、予想以上に感じがよく、襖の隙間から漏れてくる糸のような電気の光を見ていると、探偵にでもなった気がして愉快になります。しかし、それも3日ほどで飽きてしまい、手に届く天井板に落書きなどをしていました。そのとき、ふと、天井板が上に持ち上がることを発見しました。電気工事の人間が天井裏に出入りできるよう、その板だけ釘でうちつけず、上から石で重しをしていたのでした。

 天井裏に入ってみると、鍾乳洞の内部を見るような興奮を覚え、三郎の「屋根裏の散歩」が始まりました。

 東栄館は、中庭を囲んで、桝形になっていました。三郎が自分の部屋から屋根裏に入り、ぐるっと一周して、また自分の部屋の天井裏に戻ってくることができました。また、天井裏には至る場所にすき間があります。そこから住人たちのプライベートの様子を覗き見することに興奮を覚え、新築の東栄館の屋根裏には蜘蛛の巣もなく、ねずみの死体もなく、屋根裏の散歩が日課になりました。

 ある時、東栄館の住人で、歯科医の助手を務めている遠藤という男の部屋の天井裏に、節穴があることを見つけました。三郎は、遠藤を毛嫌いしていましたが、遠藤は鼻が悪いせいか、口をあけて寝ています。三郎は、東栄館に来たばかりのころ、遠藤の部屋で、酔った遠藤から、昔、女と情死しようとしたことがあることを聞かされて、遠藤が持っていた致死量というモルヒネのビンを見せられたことがあります。

 三郎は、この節穴から、寝ている遠藤の口にモルヒネを垂らして、遠藤を殺すことができないかと考えました。三郎は、「完全犯罪」の思い付きに興奮します。

屋根裏の散歩者の読書感想文

 『屋根裏の散歩者』はここからクライマックスに突入し、遠藤の死は自殺として処理され、三郎の「密室での完全犯罪」は成功します。しかし、そこに、明智小五郎が現れ、結末を迎えます。

 『屋根裏の散歩者』は読み終えて、人生というものを考えました。三郎は、いろいろな職業を試し、趣味にも手を出しますが、熱中できるものに出会うことはありませんでした。そんな三郎は、冒頭で、「一種の精神病ででもあったのでしょう」と紹介されています。もちろん、一生を捧げるに値する仕事に出会うことができた人間は幸せだと思います。が、多くの人間たちが、三郎と同じように、「これこそ一生を捧げるに足ると思うようなものには、まだひとつも出くわさない」という経験があるのではないかと思いました。

 ストーリーは、三郎が、もちろん遠藤のことは好きではありませんが、だからといって、ただそれだけの理由で遠藤を殺してしまっていいのかと煩悶し、結局、「犯罪」の魅力にあらがえないことで展開します。

 倫理的にどうだとか、完全犯罪がどうだとか、密室犯罪がどうだとかいう点で深めることもできるかもしれません。ただ、『屋根裏の散歩者』を読み終えて、一番に、人間はやはり、一生を捧げるに値する仕事を見つけなければならないのだと思いました。


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