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「ノルウェイの森」のあらすじと読書感想文

2011年9月4日 竹内みちまろ

ノルウェイの森/村上春樹のあらすじ(ネタバレ)

 37歳の主人公・僕(=ワタナベ・トオル)は、ドイツに降り立つ飛行機の中で、ビートルズの「ノルウェイの森」を聞いて、取り乱した。ワタナベの中で、直子に関する記憶がよみがえった。

 1968年5月の東京。大学1年生のワタナベは、中央線の電車の中で、神戸の高校時代の同級生・直子と再会した。ワタナベと直子にはキズキという共通の友人がいたが、直子の恋人でもあったキズキは高校生の時に自殺していた。キズキの自殺が原因で不安定になった直子は、「正確な言葉」を探し求めている。一方、ワタナベも、東京で、新しい生活を始めたいと思っていた。中央線の電車を降りた2人は、四ツ谷から駒込まで歩いた。以後、ひんぱんに会うようになった。しかし、直子の20歳の誕生日に直子と結ばれてから、直子はワタナベに何も告げずアパートを引き払った。

 ワタナベは、同じ学生寮に住んでいる地図の勉強をしている突撃隊やナメクジを3匹飲み込んだ永沢、永沢の恋人ハツミ、同じ大学に通う緑らと知り合う。永沢に誘われてゆきずりの女の子と遊んだり、緑の家に招かれて、緑の家の物干し場から、近所の火事を見物しながら、ビールを飲み、緑のギターと歌を聞いたりする。

 直子から手紙が届き、ワタナベは、直子が京都の「阿美寮」という施設に入所していることを知り、会いに行く。同じ入所者で直子の世話係のレイコから説明と注意を受け、直子に会った。直子から、キズキとのセックスが何度試してもうまくいかなかったことを聞いた。レイコと3人でワインを飲んでいるときに、直子が「ノルウェイの森」を弾いてほしいと、ピアニストで音楽教師だったレイコにリクエストした。ワタナベは、直子の乳房を吸いながら、直子の手で射精してもらった。

 京都から帰ると緑が不機嫌になっていた。ワタナベは緑に何も言わずに京都へ行っていた。ワタナベは、緑に連れられて病院へ行き、ベッドに横たわる、治る見込みのない緑の父親に面会した。

 永沢とハツミと3人で食事をしたワタナベは、帰りにハツミを送り、2人でビリヤードをした。ワタナベは、ケガで負った傷の手当てのために、ハツミの部屋へ行った。永沢は、ワタナベと永沢は自分にしか興味が持てない点で同類と言っており、ワタナベは、永沢と話をしていると「時々自分が同じところを堂々めぐりしているような気分になることがあるんです」とハツミに告げた。自分のことを馬鹿で古風な女というハツミは、永沢と結婚して、毎晩抱かれて、子どもを生めればそれでいいと言った。ハツミは、永沢とは別の男と結婚して、「――多くの僕の知りあいがそうしたように――人生のある段階が来ると、ふと思いついたみたいに自らの生命を絶った」。ワタナベが、ハツミがワタナベの中の、そんなものが自分の中に存在していたことさえ忘れていた「少年期の憧憬のようなもの」を揺り動かしていたことに気がついたのは「十二年か十三年あとのことだった」。

 恋人とけんかをしたという緑から呼び出されたワタナベは、緑から「あなたと一緒にいたいのよ」と告げられる。ワタナベは緑の家に泊まって、「車輪の下」を読んだ。

 何の感興もなく大学に通い、週に3日アルバイトをし、永沢からの遊びの誘いを断って、ときどき緑とデートをし、冬休みに雪靴を履いて直子に会いに行き、直子に一緒に暮らさないかと告げ、1970年になってワタナベは20歳になった。試験が終わると、吉祥寺に部屋を借りた(直子は英語の教育で有名な武蔵野のはずれにある大学に通っていた)。直子を待ち続けると決めたワタナベは、吉祥寺で静かな生活を送りながら、心の中でキズキに、俺はお前と違って生きると決めた/直子を絶対に見捨てない/17歳や18歳のままでいたいと思っていたが今は違う/もう10代の少年じゃない/もうお前と一緒にいたころの俺じゃない/俺は生き続けるための代償をきちっと払わなければならない、などと話しかける。

 ワタナベは緑から絶交を告げられた。レイコからの手紙で直子に激しい幻聴が起こり、直子が全てを閉ざして自分の殻にこもっているを知る。6月半ば、緑から、緑が恋人と別れたことを知らされる。緑は「これ以上傷つきたくないの。幸せになりたいのよ」とワタナベに告げる。

 直子が自殺した。

 直子が自殺してから、ワタナベは1か月の旅に出た。ワタナベは、キズキに、「直子はお前にやるよ。直子はお前の方を選んだもんな」と心の中で話しかける。旭川に行くというレイコがワタナベの部屋を訪ねて来て、直子の詳しい様子を話し、レイコとワタナベはセックスをした。

 ワタナベは緑に電話をし、緑から「あなた、今どこにいるの?」と問われ、自分の居場所がわからなくなった。

ノルウェイの森/村上春樹の読書感想文

 小説『ノルウェイの森』は、構造が印象的でした。語られるメインの内容は、20歳前後のワタナベ(僕)が直子や緑らと同じ時間を過ごした思い出なのですが、その思い出を回想する、物語の語り手である「僕」は37歳です。そのことは、1行目に書かれています。

 『ノルウェイの森』は、ドイツの空港に着陸するジャンボジェット機に乗っている37歳の「僕」が、機内にかかった、どこかのオーケストラが甘く演奏するビートルズの『ノルウェイの森』を耳にして、ひどく混乱する場面から始まります。「僕」は、「失われた時間」「死にあるいは去っていった人々」「もう戻ることのない想い」など、「これまでの人生の過程で失ってきた多くのもののことを考え」ます。

 「失われた時間」「死にあるいは去っていった人々」「もう戻ることのない想い」はどれもあいまいで、回想による第2章目以降で語られる内容であるとも考えられますし、本編では語られていないとも考えられると思います。いずれにせよ、「僕」が、失ったものや、無くした(亡くした)ものに、強くこだわっている様子がうかがえます。

 「僕」は、もうすぐ20歳になろうとする1969年の10月の風景をはっきりと思い出すことができます。しかし、いっぽうで、その風景の中に人の姿はなく、直子の顔さえすぐに思い出すことができません。「僕が手にしているのは人影のない背景だけなのだ」といいます。その風景だけが「くりかえしくりかえし」頭の中に浮かび、その風景が頭の中のある部分を執拗に蹴り続け、「おい、起きろ、俺はまだここにいるんだぞ、起きろ、起きて理解しろ、どうして俺がまだここにいるのかというその理由を」と訴えかけます。「僕」はいつかは自分を蹴り飛ばすたびに起こるこのうつろな音も消えてるだろうとは思っていましたが、ドイツの空港に着陸する飛行機の中では、いつもよりも長く、そして強く、「僕」の頭を蹴り続けてきました。「だからこそ僕はこの文章を書いている」ことが語られます。

 文庫本で18ページの「第1章」では、飛行機の場面ののち、風景の回想からわき上がった直子の思い出が短く語られます。「正確な言葉を探し求めながら」苦しんでいた直子の頭の中には「いろいろな思いが」「ぐるぐるとまわっていた」ことや、19歳の「僕」が直子に「何か間違ったことを口にしたらしいなと思った」ことなどが明かされます。

 そして、37歳の「僕」が、直子との約束を果たすにはそうするほかないので、「骨でもしゃぶるような気持ちで」「この文章を書きつづけている」ことが語られます。

 『ノルウェイの森』は、恋愛の物語ではなく(第1章では直子が僕を愛していなかったことも語られます)、37歳の「僕」が「これまでの人生の過程で失ってきた多くのもののことを考え」る物語であり、「どうして俺がまだここにいるのかというその理由を」探す物語だと思いました。


→ ノルウェイの森|直子と僕


→ ノルウェイの森|四ツ谷から駒込までの散歩道


→ ノルウェイの森|突撃隊について


→ ノルウェイの森|永沢とハツミ


→ ノルウェイの森|レイコについて


→ 映画「ノルウェイの森」のあらすじと読書感想文


→ 書評『騎士団長殺し』:複数の謎と春樹ワールドの繋がりについての考察/読後の感想


→ 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年/村上春樹のあらすじと読書感想文


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