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モンスター/百田尚樹のあらすじと読書感想文

2013年9月19日 竹内みちまろ

モンスターのあらすじ

 瀬戸内海に面した古い田舎町に生まれた田淵和子は、容姿に恵まれず、美しい姉の智子から「ブス」と言われ、「低能」と言い返していました。いつしか、顔が険しくなり、憎しみが刻まれていきました。小学校に入学した日、同じクラスの果物屋の東野から「バケモン」と呼ばれます。女の子の友だちはできますが、その子は、クラスの女子たちから和子といっしょにいることを責められて、離れていきました。

 そんな和子でしたが、中学に入って恋をしました。相変わらず友達はできませんでしたが、恋の相手は一つ上の学年の足森修司でした。足森は生徒会長でテニス部のキャプテン。県大会では準優勝していました。和子は迷った挙句、足森の卒業式の日に、手編みのマフラーをプレゼントします。翌日、3年生がいなくなった学校へ登校すると、和子は、首にマフラーが巻かれてた野良犬を見ました。

 高校生になると、小中学生時代のように面と向かって「ブス」と言ってくる男子はいませんでした。代わりに、哀れみの視線を向けられるとがありました。しかし、入学して最初の自己紹介で「高木英介」の名前を聞きます。英介は、和子が幼稚園のころ、2人で近くの知らない町へ歩いていき、いっしょに迷子になった相手でした。和子は泣き、英介はそんな和子を守ろうと必死になっていました。英介が引っ越しをしてしまいそれきりになっていましたが、和子は、高校でその英介と再会したのでした。

 英介は漠然とですが、思い出として、幼稚園の頃に、女の子と2人で迷子になったことを覚えていました(顔は忘れていました)。和子は、自分がその相手だと言い出せませんでした。が、恋心を募らせ、もし、英介が視力を失えば英介は自分の醜い顔を見ることができない、そして誰も英介に見向きもしなくなるだろう、しかし、私だけは英介を見捨てない、と妄想を重ねます。

 和子の家は薬局でしたが、和子は、メチルアルコールが入ったお酒で失明した人がいたことを本で知っていました。和子は、英介にカラオケパーティーに連れて行ってほしいと頼み、カラオケボックスで、薬局の倉庫から持ち出したメチルアルコールを入れたお酒を英介に飲ませます。英介はすぐに異変に気が付きました。英介は和子の挙動には気が付かないそぶりを見せましたが、クラスメイトが、和子が英介が飲んだお酒を作った所を見ていました。カラオケボックスの中は大騒ぎになりました。警察に届けられましたが、起訴猶予になります。しかし、薬局に客は来なくなります。和子は、「モンスター」と呼ばれるようになりました。街に「ものすごく醜い女が学校で一番のハンサムな男にふられて、その復讐で彼の目を潰そうとした」という「伝説」が生まれました。

モンスターの読書感想文

 『モンスター』は、家を勘当される形で東京の短大に入り、製本工場のラインで働くようになった和子が、24歳の時、初めて、女性週刊誌で見た整形外科を訪れ、一重まぶたを二重まぶたに整形することで、本格的なストーリーが始まります。和子は、整形を繰り返し、完璧な容姿を手に入れます。さらに、風俗店で働いていたとき、顧客の美術家との話から参考を得て、左から見ると顔に気品が浮かび、右から見ると少し幼く見えるというふうに、完璧な容姿にわずかに「ゆがみ」を作り出し、その魅力を増して行きました。

 高校を卒業した翌日、和子は、「モンスターが町を出ていく」と見送られました。その和子が、親でもわからないほどの別人になり、生まれ故郷の街に戻って来る場面から『モンスター』は始まります。この辺りで感想に移りたいと思います。

 和子は、まぶたから始まり、1千万円近くかけて、鼻、口、エラ取りなど次々と整形を繰り返します。「美容整形はほとんど趣味の世界に入っていた」といい、自分の美しさは、手に入れたものなので、生まれつき持っていた美しさよりも価値があると思います。そんな和子ですが、「美しくなりたい本当の理由は、英介に会いたかったからだ」と気づいた場面がせつなかったです。和子自身、「多分、私の中で時間が止まってたのだ」と感じていましたが、和子は、小学校、中学校、高校の時のまま、時計がとまってしまっていて、『モンスター』は、和子が、10代のときのまま止まってしまった時計をなんとか再び進めようとする物語だと思いました。

 和子は、誰かに愛されたことがなく、恋愛をしたこともなく、風俗の仕事についてから、お世話になっている崎村に、客として抱かれたとき、生まれて初めて恥じらいのようなものを感じます。同時に、「本当に好きな男性とするセックスは、すごく素敵だろう」と思います。容姿が醜く、そのため、憎しみの虜になってしまっていた和子は、普通の人が普通に過ごす青春へあこがれています。大人になるとさらに卑屈になる一方、青春が2度と戻らない時間であることがわかってしまうため、いっそう、和子の中で、恋をしたい/このまま恋をせずにさみしい人生で終わりたくない/英介に好きだと言いたい/英介に振り向いてもらいたい、という気持ちが募ります。美しさを手にいれた和子が、故郷へ帰り行動を起こしてから、崎村から、「お前、どこかキレてるぜ」と言われますが、和子自身、自分が狂っていると思っています。それでも、和子は思いを止められない。そこが、せつなかったです。

 整形を繰り返した結果、和子の体はボロボロで、あと数年も命が持たないことを覚悟しました。しかし、それでも、悲しさも、悔いも持っていませんでした。整形で手に入れた容姿と、高級風俗店で稼いだ2億円を持って、残り少ない命で故郷に帰ります。ラスト近く、“わたしの中の本当のわたし”の叫びが聞こえる場面は心に響きました。『モンスター』は、整形に出会った一人の女性が、自分の選択で、命を燃やし尽くすという、人生の物語だと思いました。


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