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文鳥/夏目漱石のあらすじと読書感想文

2011年6月13日 竹内みちまろ

文鳥/夏目漱石のあらすじ

 10月に早稲田の家に移った「自分」のもとに友人・三重吉が訪れました。三重吉は、文鳥を飼うように勧めます。三重吉がかごと文鳥を持ち寄りました。朝寝坊なたちの「自分」は、翌日、布団から起き上がることができず、水をやろう、やろうと思っているうちに8時過ぎになりました。鳥かごを日当たりに出すと、気の毒な気持ちになりました。三重吉に言われるがままに飼い始めた文鳥ですが、縁側で鳴いたり、水を飲む姿を見守ったりするうちに、「自分」は他家へ嫁いだ昔の女の人を思い出します。しかし、当初はこまごまと世話をしていた文鳥ですが、「一度家のものが文鳥の世話をしてくれてから、何だか自分の責任が軽くなった様な心持ち」がして、ついには、「自分は只文鳥の声を聞くだけが役目のようになった」とのこと。

 専業小説家である「自分」は急ぎの原稿に追われ、また、会合などにもひんぱんに出なければならず、文鳥の声が聞こえなくなっても、疲れ切った体で床に着くときには、すっかり忘れていました。文鳥は死んでしまいました。「自分」は、文鳥の冷たい体を握り、座布団の上に置きました。しかし、16歳になる使用人の女性を呼びつけ、文鳥を女性の前に放り投げ、えさをやらないから死んでしまったなどと言いました。三重吉には、「家人が餌を遣らないものだから、文鳥はとうとう死んでしまった」などとハガキに書いて、女性に投函させました。三重吉の返事には、かわいそうなことをしたとあるばかりで、家の人が悪いともなんとも書いてありませんでした。

文鳥/夏目漱石の読書感想文

 言われるがままに飼い始めた文鳥で、三重吉直伝の飼育方法をただ正直に実践するだけのはじまりでしたが、書斎で執筆をしながら文鳥の声を聞いたことや、夕方に水を飲む姿を見たことや、昼過ぎに見てみるとえさが7割がたなくなっていて慌てて与える姿には、静かな喜びと文鳥とともに始まった新しい生活の高揚感が伝わってきました。昔の女性を思い出すあたりはロマンティックでした。しかし、恋が一瞬でさめるのと同じように、はじめのうちはどんなにかいがいしく世話をしていても、時間がたつにつれて、面倒になり、やがて、まったく世話をしなくなる姿も、人間らしいと思いました。現代的な視点や発想で読むとまた違った解釈があるのかもしれませんが、家制度に裏打ちされた明治という時代の中での小説として読むと、「自分」が使用人の女性にあたる場面には孤独やさみしさが感じられ、三重吉のハガキの文面が紹介されるラストシーンからは、人間の内面へと向けられている漱石の“まなざし”のようなものが伝わってきました。


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