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三四郎/夏目漱石のあらすじと読書感想文

2012年6月13日 竹内みちまろ

三四郎/夏目漱石のあらすじ

 熊本の高等学校を卒業した23歳の小川三四郎は、福岡の故郷を後にして、東京帝国大学一部文科に通うために、単身、上京しました。ちんちん電車にも、東京がどこまで行ってもなくならないことにも驚きました。これが現実だとしたら、自分はいままで現実世界に触れたことがなく、置き去りにされていたと実感しました。

 三四郎が一人でふさぎ込んでいると、故郷の母が、理科大学の野々宮宗八先生を尋ねるよう、手紙で言ってきました。三四郎は野々宮を尋ね、帰りに東大の赤門の奥の池の端へ行きました。熊本でも、一人で山に上ったり、月見草の生える運動場に一人で寝ころんだこともありましたが、三四郎は、今まで体験したことがない孤独を感じました。三四郎は、自分には現実世界が必要らしいと思いますが、同時に、現実世界は危なくて近づけない気がします。

 三四郎が見上げると、丘の上に、きめ細かいキツネ色をした肌を持つ里見美禰子を見かけました。美禰子は、三四郎の前を通り過ぎる時、嗅いでいた白い花を三四郎の前に落としました。三四郎は声に出して「矛盾だ」と告げ、美禰子が落としていった白い花を拾い上げ、においをかぎました。別段の香りもなく、花を池の中へ投げ入れました。

 9月1日、大学が始まりました。三四郎は、専門学校を卒業し選科に入った佐々木与次郎から声を掛けられました。与次郎は、高等学校の先生をしている広田の家に下宿していると自己紹介しました。与次郎は、本郷通りの淀見軒へ三四郎を連れ出してライスカレーを食べさせたり、青木堂を教えたり、図書館へ行くことを気づかせたり、電車に乗せたりしました。

 三四郎が野々宮の家を尋ねると、入院中の妹から電報が来たという野々宮から、下女が一人になってしまうのでその日、家に泊まってほしいと頼まれます。翌朝、帰宅した野々宮から、病院に袷(あわせ)を届けてほしいと頼まれ、病院へ行きます。妹「野々宮よし子」の病室を訪ね、帰り際に、よし子のお見舞いに来た美禰子に会いました。

 三四郎は心をふわつかせました。三四郎は、与次郎から広田を紹介されます。広田は野々宮の元先生で野々宮と美禰子の兄が同期生でした。こうして、三四郎、与次郎、広田、野々宮、よし子、美禰子の交際が始まります。

 三四郎は、美禰子から、「明日午後一時頃から菊人形を見に参りますから、広田先生のうちまでいらっしゃい。美禰子」というハガキを受け取ります。翌日、新調の制服を着て、光った靴を履いた三四郎は、広田の家へ行き、広田、野々宮、よし子、美禰子と連れ立って出かけました。三四郎は、「自分の今の生活が熊本当時のそれよりも、ずっと意味の深いものになりつつあると感じた」

 菊まつりの人ごみの中で、三四郎は、うつむいた美禰子が人ごみに押されて出口の方へ行く姿を見ました。三四郎は「三人を棄てて、美禰子の後を追って行った」。美禰子は「もう出ましょう」と三四郎を誘い、「何処か静かな所はないでしょうか」と告げます。2人は、谷中の町を横切り、根津へ抜ける橋を渡り、小川のほとりに腰掛けました。美禰子は具合が悪い様子でしたが、「この女は素直な足を真直に前へ運ぶ。わざと女らしく甘えた歩き方をしない。従って無暗に此方(こっち)から手を貸す訳に行かない」。美禰子は「空の色が濁りました」と告げ、三四郎は、「空が濁ったという言葉を聞いたのはこの時が始めて」。美禰子は、「私そんなに生意気に見えますか」と三四郎に問います。三四郎が「御捕(おつか)まりなさい」と手を出すと、美禰子は「いえ大丈夫」と笑いましたが、石を踏んでぬかるみを渡った際に、美禰子の両手が三四郎の両腕に落ちました。美禰子は「迷える子(ストレイ・シープ)」と口の中で言葉にし、三四郎は美禰子の呼吸(いき)を感じました。

 三四郎は、与次郎が勝手に起こした広田を教授にするための運動に巻き込まれ、与次郎がペンネームで書いた広田を持ち上げる評論「偉大なる暗闇」の作者にさせられてしまいました。また、与次郎が競馬ですってしまった20円を貸し、三四郎が下宿代の支払いに困ると、与次郎が、美禰子に三四郎へ金を貸すよう手筈を整えました。三四郎はいったんは、美禰子に金を借りたものの、故郷から取り寄せた金で返済しようとします。美禰子は「みんな、御遣いなさい」と受け取りません。与次郎からは「何時までも借りて置いてやれ」と言われました。

 よし子に縁談の話が持ち上がりました。しかし、よし子は、知りもしない人なので答えようがないと笑っています。与次郎は、自己主張する女性が増え、女性がどんどん強くなると三四郎に話して聞かせます。三四郎は、画家の原口の家を尋ねます。原口が美禰子の肖像画を描いていましたが、原口の家は豪邸で、三四郎が初めて見る元禄が吊るされていました。

 三四郎は、原口の家で再び、借りた金を返そうとしますが、美禰子は「今下すっても仕方がないわ」と受け取りません。美禰子と三四郎はいっしょに原口の家を出ます。三四郎は曙町を一回り散歩しようと誘います。「ところが相手は案外にも応じなかった」。美禰子は、「御金は、彼所(あすこ)じゃ頂けないのよ」と告げます。「本当は金を返しに行ったのじゃありません」「御金は私も要りません。持っていらっしゃい」「ただ、あなたに会いたいから行ったのです」。三四郎は突然、「始めて池の周囲(まわり)で美禰子に逢った暑い昔を思い出した」。2人が歩いていると、「背のすらりと高い細面の立派な」男性が美禰子の前に現れました。「今まで待っていたけれども、余(あんま)り遅いから迎えに来た」

 与次郎は、広田を大学の先生にするたくらみが新聞に批判されても、その時は慌てふためきますが、どこ吹く風で、文芸協会の演芸会のチケット売りに奔走します。三四郎は、評論の冤罪事件や、美禰子の前に現れた男など、いろいろな事が重なって床に入っても寝付かれませんでした。「国にいる方が寝易(やす)い心持がする」と感じます。福岡の母親が、手紙で「帰って来い」と告げてきました。三四郎はインフルエンザにかかり、よし子がお見舞いに来ました。よし子から、美禰子がよし子の縁談の相手だった男と結婚することになったことを聞きます。三四郎はその日から4日ほど寝込みました。5日後に、湯に入り、翌日の日曜日に、美禰子を尋ねます。美禰子は逆らわずに、三四郎が「拝借した金です」と差し出した紙包を受け取りました。下宿に帰ると、母親から電報が来ていました。

 三四郎が帰京すると、美禰子の結婚式の招待状が机の上に置いてありました。しかし、日は過ぎていました。三四郎は、原口さんが美禰子を描いた絵が展示される展覧会を、野々宮や与次郎らと見に行きました。

 三四郎は、口の中で「迷羊(ストレイ・シープ)、迷羊(ストレイ・シープ)」と繰り返しました。

三四郎/夏目漱石の読書感想文

 『三四郎』は、読み終えて、なぜか、せつない気持ちになってしまいました。原因を考えたら、作者である漱石の三四郎を見つめる視線が、どこか、悲しみを帯びているからかもしれないと思いました。

 『三四郎』は、三四郎が、世間慣れした与次郎らに出会い、美禰子に翻弄される物語です。美禰子は、田舎者の三四郎を手玉にとります。菊祭りで、グループからフェイドアウトする場面は読みごたえがありました。美禰子は三四郎の心を惑わせることばかりをしますが、三四郎が手を差し伸べても、三四郎の手を握りません。態度や視線、言葉ではいくらでも愛想を振りまきますが、しっかりと、自分を安売り(?)しないための一線を引いています。また、借りた金をずっと受け取ろうとしませんでしたが、結婚が決まったあとは、素直に受け取りました。美禰子に限らず、多くの女性には、自分に言い寄ってくる限りはどんな男も受け入れますが、財産や価値を自分から払うのは対価のある場合だけ、というような点が、あるような気がします。漱石は、田舎者の青年・三四郎とともに、美禰子をとおして、女性の普遍的な一面を描いていると思いました。また、ストーリーとしても、ぬかるいを跨いだときのアクシデントで、美禰子が三四郎にもたれかかってしまったり、「あなたに会いたいから」と三四郎が初めて美禰子へ気持ちを伝えたとたん、立派な男性を出現させたり、最後は、故郷の母からの手紙を利用して、どこか淡々と、かつ手短にまとめ、物語に余韻を持たせたりと、上手だなあと思いました。

 しかし、そういった人間の描き方や、ストーリーの妙よりも、『三四郎』で一番印象に残ったのは、三四郎を見つめる視線が帯びている「悲しさ」でした。それは、冒頭近くから、結末まで、『三四郎』に終始一貫して感じました。特に、三四郎が池のほとりで今までに感じたことがない孤独を体験する場面だったり、母親からの手紙を読んでバカバカしいと思いながらもその日のうちに長い手紙を書いて、その手紙の中に、「東京はあまり面白い所ではない」と書いていたり、三四郎の知らないところで美禰子が結婚を決めていたことが淡々と描かれる場面だったりします。それぞれのエピソードは、田舎者の青年の喜劇という筋の合間にはさまれ、美禰子の結婚にしても、三四郎が「迷羊(ストレイ・シープ)」と繰り返すエピソードで、喜劇にオブラートに包まれています。しかし、それでも、孤独な青年を描く作者の「まなざし」からにじみ出る、やるせないせつなさのようなものを感じました。漱石は、人間は生まれながらにして不幸な存在で、孤独な人生にはどう意味づけをしようと結局は、人間はむくわれないのだ、などと、本文中に直接は書かれていませんが、心では感じており、それが、ストーリーから離れて、青年が独りでたたずむ場面を描く際に、にじみ出てしまったような気がしました。

 また、三四郎は「子供の様なよし子から子供扱いにされながら、少しもわが自尊心」が傷つかず、よし子と2人でいても、どうしても、異性に近づいて「得られる感じではない」のですが、美禰子なんかよりも、よし子に思いを寄せたほうが、よほど幸せになれるような気がしました。しかし、それでも、美禰子を好きになってしまうのは、読者たちがそれぞれに持っている青春の甘ずっぱい思い出を呼び起こし、大きな共感を呼ぶと思いました。


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