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少年は戦場へ旅立った/ゲイリー・ポールセンのあらすじと読書感想文

2014年1月22日 竹内みちまろ

少年は戦場へ旅立った(林田康一訳)のあらすじ

 1861年6月、アメリカ・ミネソタ州では、各地で市民集会が発生し、サムター要塞を襲撃した南部への怒りに燃えていました。人々は、「急いだほうがいい。さもないと、チャンスをのがしてしまう。一生のあいだに戦争に参加できるチャンスなんて、もう二度と来ない」と興奮します。役人や、政治家や、新聞は口を揃えて、戦争は、1か月か2か月で終わるとまくし立てていました。

 農業で働く15歳のチャーリーは、入隊審査をごまかすため、ミシシッピー川の上流にあるスネリング砦まで歩きます。18歳だといって、義勇兵になりました。母親には、月に11ドルももらえる給料で仕送りができると言い聞かせます。父親は馬に蹴られて死んでおり、弟がいました。

 義勇兵部隊に入隊したチャーリーは数週間、訓練を受けました。将校や下士官はみな市民出身者で戦闘に関しては素人でした。

 6月22日、移動命令が出て、ミネソタ州の主都セント・ポールまで船で移動します。沿道では若い女たちが旗をふり、人々は「たのんだぞ、南部のやつらをたたきのめしてやれ!」「リッチモンドまでひと息だ!」と歓声を贈ります。

 チャーリーはイリノリ州のシカゴなどを経由して、メリーランド州まで運ばれます。チャーリーはこの戦争で自分が死ぬとは思っていませんでしたが、銃や靴ひもの手入れなどを怠ることはありませんでした。

 チャーリーが経験した最初の戦闘は、「ブルランの戦い」でした。「そんなばかな!」、チャーリーは、「なにかのまちがいだ」「自分がこんなところにいるなんて」と愕然とします。弾丸が脇をすり抜け、隣にいた兵士の首が胴体から離れて吹き飛んでいきます。南軍に激しく反撃され、部隊は、退却しました。

 チャーリーのミネソタ連隊は比較的統率が取れ、田舎出身のため自然の中での生活もできました。が、ニューヨークなどの都内から来た兵隊は、糞尿の処理などもろくにできず、次々と赤痢などの病気にかかって死んでいます。悲惨な戦いを潜り抜けていくうちに、チャーリーは人間の死にも、死体にも、何も感じなくなっていました。

少年は戦場へ旅立ったの読書感想文

 「少年は戦場へ旅立った」は、チャーリーが参加した最後の戦いであり、南北戦争の天王山となった「ゲティスバーグの戦い」の場面が印象に残りました。

 丘の上に陣地を取った北軍は、草原を通って攻めてくる南軍を、バッタバッタとなぎ倒していきます。チャーリーは、冷静、というか冷めた目を持っていて、次々と倒れる南軍兵を見て、これが有利な立場で戦うということなのか、と実感していました。

 チャーリーは、政治のこと、社会のこと、都会のこと、人生のこと、人間のことなど、ほとんど何も知らない純粋な少年でした。純粋ゆえに、「将軍たちが求めているもの、将軍たちが必要としているもの、それは戦闘だ」「敵も味方も、すべては将軍しだい、将軍しだいなのだ」「もしも、実際に殺し合いをする人間、実際に死ぬ人間がすべてを決めることができるのなら、戦争なんて起らないだろう」と、人間たちが生み出す現象の本質が見えてきます。

 チャーリーは、もちろん人間性が失われるといわれる殺し合いに参加しました。でも、同時に、自分は安全な場所にいるくせに太鼓ばかりをたたくことに何の疑問を持たない国会議員や、正義や主義を主張するくせに自分は前に出ない大衆などを、そのカラクリを言葉にして説明できなかったとしても、純粋な心で見ていたのではないかと思います。

 そんなチャーリーでしたが、「ゲティスバーグの戦い」では、南軍の兵士は、こんな不利な状態で集中砲火を浴びたら絶対に前へは進めないとチャーリーが信じて疑わなかった攻撃を潜り抜けて、北軍の陣地に襲い掛かって来た様子を目の当たりにします。危機を察知したひとりの大佐が比較的安全な場所にいた第1ミネソタ義勇兵の部隊に反撃を命じ、チャーリーたちは叫びながら、坂を駆け上がってくる南軍に襲い掛かります。今後は、チャーリーの部隊が、飛んで火にいる夏の虫のごとく、南軍の攻撃にさらされます。

 「ゲティスバーグの戦い」では、チャーリーは叫びながら銃剣を振り回していましたが、そのときのチャーリーの心は、描かれていませんでした。冷静さと、本質を見極める目を持つチャーリーなら、戦況や、戦いの推移、両軍の陣形、将軍や下士官たちの思惑なども察することができたと思いますが、そんなことのいっさいを気にせず、チャーリーはただひたすら野獣のように叫びながら戦ったのではないかと思いました。戦争は起きるのではなく、人間たちが起こすものだと思います。チャーリーは、人間たちが生み出すある意味で最も醜い行為ともいえる戦争を、純粋で澄んだ心を持ったまま、駆け抜けてしまったのだと思いました。


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