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女子高生の裏社会/仁藤夢乃のあらすじと読書感想文

2015年2月18日 竹内みちまろ

 仁藤夢乃さんの「女子高生の裏社会 『関係性の貧困』に生きる少女たち」を読みました。仁藤さんは、すべての少女が「衣食住」と「関係性」を持ち、困難を抱える少女が暴力を受けたり、搾取労働に行き着かなくてもよい社会を目指して活動する一般社団法人Colaboの代表をしている方です。仁藤さんの本は初めて読みました。

 「女子高生の裏社会」は、仁藤さんが「JK産業」の内側にいる女子高生たちへ行った取材の内容やその時の様子、取材によって分かった(あるいは推測された)女子高生たちの生い立ちや生活環境、内面などが紹介され、女子高生たちを裏社会が、商品としてどう扱っているのかなどが記されていました。

 あらすじといっても、物語という意味でのストーリーがある本ではありませんが、概要と感想をメモしておきたいと思います。

 「女子高生の裏社会」は、まず、「なぜ援助交際をしているのか、それすらもわかりません」などと書かれている定時制高校3年生のハルナさん(仮名)から仁藤さんに送られたメッセージが紹介されています。その後、5人の女子高生を中心に、取材レポートが紹介され、「第6章 表社会化する裏社会」「第7章 少女たちのその後」と続きます。

 父子家庭で家に金銭的な余裕がないというレナさん(仮名・17歳)は、「お散歩は健全な仕事だ」と教え込まれ、監視と管理のために行っている巡回を「店の人が心配だから、ビラ配り中もたまに見回りに来る」と言うとのこと。店では少女同士の連絡先の交換やプライベートでの交際は禁止されていますが、「うちのお店、ちゃんとしている子が多いんです」と言い張り、根拠なく「うちのお店は大丈夫」と繰り返したそうです。店への強い所属意識と信頼を植え付けられ、「お散歩は健全な仕事だ」と教育されているとのこと。また、店は、毎月ランキングが発表され(1位になると5,000円のボーナス)、ランクインしたり客が取れたりすると褒めて少女たちにやりがいと肯定感を与え、出勤が減ると「もっと頑張って」と注意したり背中を押したりしながら、少女たちを競わせ、目的を持たせて働かせているとのことでした。店側は、基本的に、脅しや色恋で従わせようとすることもありますが、少女たちとよい関係を築き、少女たちに心地よさを植え付けようとするそうです。ただ、仁藤さんは、レナさんと話をするうちに、「彼女の話す姿を見ていると、危険が身近にあることは察しているが、認めたくないという気持ちが強いようだ」と感じ、その後の取材で、「うちのお店には裏オプをやっている子はいない」というレナさんの主張がまったくの幻想だったことが判明したことが書かれていました。

 「JK産業」で働く少女たちは「出勤」「プライベート」という言葉を頻繁に使い、少女たちは自分の都合のいいように使い分けているように感じますが、実際は、裏社会の大人たちが少女たちに植え付けていることで、「出勤」という言葉が大人っぽくて嬉しかったり、「プライベートでの接触や連絡先の交換は禁止」などと言われるうちに、仕事だと割り切るようになるそうです。少女たちは「JK産業」から抜け出すことを「卒業」と呼びますが、「卒業」という「目的」や「モデル」を見せられることでモチベーションを保ち、裏社会は卒業後も少女たちを系列の風俗店に取り込んでいくとのこと。

 さらに、店長が「待機時間に「ここは受験に出るよ」「これはこうすると覚えやすいよ」など、学習指導すら行っている」店もあることが記されていました。「頼れるつながりや安心して過ごせる居場所を失ったとき、少女に生活の術を与えているのは、未熟さや性を売りにした仕事ばかり」ですが、「家庭や学校に頼れず「関係性の貧困」の中にいる彼女たちに、裏社会は「居場所」や「関係性」も提供する。彼らは少女たちを引き止めるため、店を彼女たちの居場所にしていく。もちろん、少女たちは将来にわたって長く続けられる仕事ではないことを知っているが、働くうちに店に居心地の良さを感じ、そこでの関係や役割に依存する少女も多い」

 仁藤さんが取材した少女たちには、家出、虐待、貧困、いじめ、病気、過呼吸や蕁麻疹などの症状など、何らかの事情を持つことが多かったようですが、スカウトはそういった事情がありそうな少女たちを狙うそうです。家庭や学校に居場所がなかったり、家出をしてその日の衣食住にも困っている少女たちに「うちなら寮も仕事もある」と声を掛けるとのこと。現状から抜け出し、自立したい心に付け込んで少女たちを取り込んでいくシステムはマニュアル化され、共有されていることの記されていました。また、表社会も裏社会も関係なく誰もがアクセスできるインターネットやSNSが普及したことで、裏社会の大人たちは、広報などで罠を広げ、少女が引っ掛かるのを待ち、口コミや紹介を含めて、「普通」の少女たちも、「JK産業」に取り込まれるようになっているとのこと。「ネットにおける公での広報と「普通」の少女たちの介入もあり、裏社会は表社会化している。社会はそれを容認している。8年前はそれ自体が「裏オプ」であった「お散歩」が「普通」の女子高生のアルバイトとして大流行しているのが、その例だろう」と警笛を鳴らしていました。

 仁藤さんは、裏社会の大人たちは「居場所づくりのプロ」であると記しています。仁藤さん自身も、かつては居場所を無くした女子高生だったようですが、高校生のときから、「なぜ、裏社会の大人にできていることが、表社会ではできないのだろうか」と疑問に思っていたそうです。「裏社会のスカウトは、少女を最後まで見捨てない。一度店に繋いで終わりではなく、困ったことがあれば相談にのり、合わなければまた別の店を紹介し、少女の生活と成長をサポートし続ける」とのこと。仁藤さんは、「表社会のスカウトに、子どもと社会をつなぐかけ橋になりたい」と記していました。

 「女子高生の裏社会」を読み終えて、仁藤さんが行動する人である点が印象に残りました。

 「JK」を取り上げる際に、それを家庭問題や子育て問題に繋げ、「JK」の家庭環境を利用して、自らの子育て論や家族論を主張する人は少なくない気がします。が、「女子高生の裏社会」では、「JK産業」で働く少女たちを、目の前に存在する現象として受け止め、家庭環境の良し悪しや家族や子育てはどうあるべきかを直接、論ずることはしていませんでした。

 もちろん、「女子高生の裏社会」の中では少女たちの家庭環境が紹介され、その多くは問題を抱えていますが、「JK産業」に少女たちが「なぜ」行き着いたのかという論考よりも、今、目の前に「JK産業」に行き着いた少女たちが存在するという現象を前にしてそれなら「どうすれば」少女たちが「JK産業」に行き着かないようにすることができるのかを考え、その上で、仁藤さんは、自ら身を乗り出して行動していました。

 「なぜ少女たちは「JK産業」に行き着いたのか」を分析をして、「家庭や学校はこうあるべき」と論考を展開することも必要だとは思いますが、「どうすれば」少女たちが「JK産業」に行き着かなくてもよくなるかを考え行動をする仁藤さんが書いたからこそ、「女子高生の裏社会」には説得力があるのだと思いました。


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