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藪の中/芥川龍之介のあらすじと読書感想文

2004年10月25日 竹内みちまろ

 「藪の中」(芥川龍之介)は、心の闇を描いた作品です。感慨にふけりました。旅に出た若夫婦は、盗人に襲われます。検非違使(けびいし:警察のようなもの)が出てきます。時代設定は、歴史の教科書に出てくるような昔です。男の死体を発見した木こりや、夫婦を見かけた旅法師、妻の年老いた母親などの供述が順番に語られます。男が殺害された事件を中心にして、同心円的に各人の見解を並びたてていく構成です。第一発見者や関係者の供述から、男の死体があった現場の周辺は踏み荒らされていたことと、凶器は発見されずに男の脇にクシが落ちていたことがわかります。物語は佳境にはいります。

 「捉えられた盗人」、「清水寺に懺悔に来た女」、「巫女の口を借りた死霊」と、いよいよ3人の当事者の供述が語られます。3人とも、女が盗人に手ごめにされたことと男が胸を刺されて死んだことは認めます。しかし、その時に起こった出来事については、3人とも異なる物語を語ります。3人の供述を読み終えて、作品世界に心を奪われました。盗人は、自分が男を殺したと言います。女も、自分が男を殺したと言います。男も、自分が男を殺したと言います。盗人は、男を解き放して勝負をしたと言います。女は、辱めを受けたあとに「もはや」と思い、木に縛り付けられていた夫を刺して、すぐに後を追うつもりだったが、死に切れなかったと言います。男は、盗人も女も消えた後に、自害したと言います。誰かが嘘をついてます。もしくは、3人とも。そこに心の闇が潜んでいるのだと思いました。

 盗人は、女が自分を見つめる瞳を見た瞬間に、たとえ神鳴に打ち殺されようとも、女を妻にしたいと思ったと言います。女は、自分が辱めを受けているときに、夫の瞳には、何とも言えない輝きが宿っていたと言います。男は、手ごめにされたあとにうっとりと顔をもたげた女を見て、あの時ほど美しい妻を見たことがないと言います。盗人が男を木に縛り付けて、その男の目の前で女を弄んだことは事実のようです。その刹那、3人の瞳の中には、それぞれに炎が宿ったようです。「藪の中」は、3人の供述を併記した時点で終わります。事件の真相は藪の中。読者には語られません。「藪の中」で芥川が描きたかったのは、謎解きではなくて、瞳の中に宿った一瞬の炎ではないかと思いました。


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