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鼻/芥川龍之介のあらすじと読書感想文

2011年2月10日 竹内みちまろ

鼻/芥川龍之介のあらすじ

 「鼻」のあらすじから。僧は「内道場供奉」の職にのぼったと書かれています。老年です。どれくらいの職位なのかはわかりませんが、うわさが京にまでのぼるほどの話題性や知名度がある官職のようです。

 それはさておき、僧は、鼻を気にしていますが、自分が気にしていることを人に知られたくはありません。しかし、一人では食事もできないので、食事の間は、弟子に板で鼻を持ち上げておいてもらいます。一度、弟子の代わりを務めた中童子が手をふるわせて鼻をかゆの中に落としてしまいました。そのうわさは京までのぼったとのことでした。カラスウリを煎じて飲んだり、ネズミのおしっこをすりつけたりしますが、効果はありません。

 鼻を気にする僧は、短く見せる方法がないかと鏡とにらめっこをしたり、他人の鼻を観察したり、書籍の中に自分と同じように鼻が長い人物がいなかったか調べたりします。

 あるとき、弟子が鼻を短くする方法を聞いてきたことにより「鼻」のストーリーは展開します。その方法とは、熱湯で鼻をあたためたあとに人に踏ませるというものでしたが、さっそく試してみます。なんと、鼻が短くなりました。これでもう笑われることはないと僧は思いますが、しかし、人々は、鼻が短くなった僧の顔を見て笑います。

 そのうちに、鼻がむずかゆくなって、翌朝に起きると、もとの通り、長くなっていました。僧は、こうなればもう笑われることはない、と晴れ晴れとした気持ちになりました。

鼻/芥川龍之介の読書感想文

 「鼻」の読書感想文です。「鼻」はストーリーとしては小難しいことはなくて、小気味よく進みます。登場人物たちの気持ちも全部説明されているのでわからない個所はありません。その登場人物たちの心理状態ですが、なんともいえずに、面白かったです。

 鼻が長いという現象については、ある種の病気なのかもしれませんが、ただ長いというだけで、支障があるわけではないようです。しかし、僧は、高位の宗教者であるにもかかわらず、そのただ長いということを気にしています。そして、自分が気にしているということを人に知られたくありませんし(といいますか、みんな僧が気にしていることはわかっているのですが、それを認めたくない)、弟子が鼻を短くする方法を聞いてきたと知っても自分からは聞こうとはせずに、それでいて、弟子から無理にでも進言させようとして食事の時に弟子に手を焼かせるのが心苦しいなどと言います。弟子も弟子で、そう言われると自分からは進言したくなくなるのですが、それにもまして、僧が哀れに思えて、その方法を試してみることを強く勧めました。このあたりの人間くささは、読んでいて楽しかったです。また、中童子が僧の鼻を支えていた板を使って犬を追いかけて遊んでいたり、それを見た僧が激怒して板をひったくって中童子の顔をなぐりつけたりするところも、人間味がありました。なによりも、笑っちゃいけないけど、実際問題として、笑ってしまうという面白さが、伝わってきました。

 さて、「鼻」のラストシーンですが、すとんと落ちるような形ではないと思いました。ある意味で、砂の穴からの脱出を何度も試みておきながらついに脱出に成功したらまた穴の中に戻ってしまった「砂の女」(安部公房)みたいな感じでもありました。日本には殿様や高僧など身分の高い人を風刺して楽しみとする狂言の伝統はあるのですが、それとは別の次元の現象であるかのように、「鼻」のラストシーンの僧は、もとの長さに戻った鼻をぶら下げながら、こうなればもう笑うものはいないと確信します。鼻が物理的に短くなったときは、さいしょ、明日になればまたもとの長さに戻ってしまうのではないかとびくびくしていたので、それゆえに、ラストシーンの確信的な安心感は、意味深であるような気もしました。いろいろと書きましたが、けっきょくは、読んだ人それぞれが自分で感じるままに「鼻」という作品を味わい考えろ、という形にまとめられているのかなと思いました。


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