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羅生門/芥川龍之介のあらすじと読書感想文

2006年10月15日 竹内みちまろ

羅生門のあらすじ

 「羅生門」は有名なのであらすじは簡単に。天変地異が平安京を襲います。狐狸や盗人が我が物顔で徘徊します。しかし、夕暮れの羅生門には、雨宿りをする人影もありません。餓死者の死体が捨てられる羅生門には盗人さえも近づかないことが語られます。

 一人の下人が羅生門で雨宿りをしています。主人から暇を出されて途方に暮れていました。下人は羅生門にのぼって死体の脇で一晩を明かすことにしました。はしごに足をかけます。下人は中段で息を殺したまま身を縮めてなかの様子をうかがいます。下人は雨の夜に羅生門で火をともすようなやからは「どうでただ者ではない」と思います。

 下人は恐る恐るはしごの上段からなかをのぞきました。白髪頭をした猿のような老婆が女の死体から髪の毛を抜いていました。髪の毛が一本づつ抜けるごとに、恐怖が消えて、下人の心に「あらゆる悪に対する反感」が湧きあがってきました。しかし、下人は老婆がなぜ髪の毛を抜くのかがわかりませんでした。「合理的には、それを善悪のいづれかに片づけてよいか知らなかった」はずです。しかし、下人には、死人の髪の毛を抜くという行為自体が、理由を問わずに、許すべからざる悪でした。

 下人ははしごから飛び上がります。下人は老婆を問い詰めました。老婆は、かつらにするという下人にとっては平凡とも思えた返事をしました。下人の心を見すえた老婆は続きを語ります。死体はへびの肉を干し魚だといって売りさばいていた女でした。老婆は、この女のしたことを悪いとは思っていない、そして、自分がしていることも悪いとは思っていないと言います。せねば餓死をするので仕方がないのだと開き直ります。下人の心にある勇気がわいてきました。

「では、おれが引きはぎをしようと恨むまいな、おれもそうしなければ、餓死をする体なのだ」

 下人は老婆の着物をはぎ取ります。足にしがみつく老婆を蹴り倒して夜の闇に消えていきました。

羅生門の読書感想文

 「羅生門」は境界を越えた瞬間の人間のうしろ姿を切り取った物語だと思いました。芥川龍之介が描いたのは、飢え死にするべきか否かとか、なにが善くてなにが悪いのかとか、人間はどうあるべきかなどという理想ではなくて、命の現実だと思いました。

 物語に登場したばかりの下人は途方にくれています。長く主人のもとでカタギに使えていた男のようです。さしあたり明日の暮らしをどうするかを考えます。選択肢は飢え死にするか盗人になるかしかありませんでした。下人は頭では盗人になるほかないことが理解できます。しかし、盗人になると心に決めることができません。荒廃した京都の町と降りしきる雨が下人の感傷を深めます。下人は使用人として暮らしていたカタギの世界の延長線上、いわば「こちら側の世界」の周縁にいるような気がしました。合理的に考えれば「あちら側の世界」に踏み込むしかないとわかります。しかし、境界線を越えることができません。下人は、はしごから櫓のなかを恐る恐るのぞきこみます。そこには「あらち側の世界」が広がっていました。下人は櫓のなかに飛び込みます。「あちら側の世界」の住人に変身して櫓のなかから飛び出してきました。

 「羅生門」には飢え死にをするべきか盗人になるべきかという命題が存在します。しかし、それは、しょせんは「こちら側の世界」に広がっている理想でしかないと思いました。たしかに平安朝には、貴族のたしなみや武家の訓は存在したと思います。「あわれ」とか「ほこり」とかにつながるものだと思います。貴族か武家の世界の一番はじっこで恩恵を受けていたと思われる下人も、物語に登場したばかりのころは、べき論で身の振り方を考えます。しかし、下人が直面したのは、理想ではなくて、命の現実でした。そんな下人が、櫓のなかに広がっていた「あちら側の世界」を垣間見て、自分も「あちら側の世界」の住人になって、櫓のなかから飛び出して夜の闇に消えていくというストーリーが絶妙だと思いました。


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