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かがみの孤城/辻村深月のあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2018年7月13日

かがみの孤城/辻村深月のあらすじ(ネタバレ)

 中学1年生のこころは、あることが原因で学校に行くことが出来なくなった。

 こころは、一日中、自身の部屋にひきこもっていたが、母の勧めで不登校の子どもたちが通う「心の教室」というスクールに見学に行く。喜多嶋という女性の先生が優しく接してくれたが、スクールへの初登校日、「お腹が痛い」と休んでしまう。母は明らかに嫌な顔をする。こころはどうしていいかわからない。

 毎日夕方4時になると、クラスメートで隣の家に住む東条萌が、学校からのおたよりをポストに入れてくれる。しかし顔は合わせない。萌は転校生だった。家にもあそびに行ったことがあり、父親が大学の先生で、ヨーロッパで買ってきたという絵本の古い原画が飾られていたのが印象的だった。しかし萌とも、あることが原因で、以前のように話すことができない。

 そんな毎日を過ごしていたある日、突然、こころの部屋の姿見が光る。鏡を触ろうと、手を伸ばすと、その手がすうっと、鏡の中に吸い込まれた。何かに引きずられ、そのまま鏡の中に入り込んでしまうこころ。「ねえ、起きて」と女の子に声をかけられ気が付く。周りを見てびっくりする。そこは、童話に出てくるような城だったのだ。声の主はオオカミの面をつけ、ドレスを着た女の子のようだった。その子はいう。「安西こころさん、あなたはめでたくこの城のゲストに招かれました!」と。

 その城は、願いが叶う城だった。こころのほか、6人の中学生の男子(リオン、スバル、マサムネ、ウレシノ)と女子(アキ、フウカ)が集められていた。子どもたちはみな、こころと同じく学校に行っていないようだった。

 オオカミの面をつけた「オオカミさま」が、城について説明していく。城は朝9時〜17時まで開いている。17時までに鏡を通って部屋に戻らないと、恐ろしいペナルティ(狼に食われる)がある。さらに、来年3月30日までに鍵を見つけ、願いの部屋を開けると、なんでも願いが叶うという。しかし、誰かの願いが叶った時点で城は消滅するとのことだった。

 何が何だかわからないまま7人の子どもたちは城での生活を共有する。大広間やキッチン、浴室やトイレ、すべてそろっており、それぞれの個室も用意されていた。例の鍵は共有部のどこかに隠されているらしい。

 こころの願いは、「真田美織が、この世から消えますように」だった。美織はクラスの中心人物。バレー部に所属し、取り巻きが多い。こころは美織に目をつけられ、無視などをされるようになった。萌も巻き添えを食らわないように、こころと距離を置くようになったのだ。こころが標的になった理由は美織の彼・池田が、その昔こころを好きだったということを知ったからだった。嫉妬からなのか、あることないこと言いふらし、美織はこころの家にまでおしかけ、威圧してくる。恐怖でおびえるこころ。母に相談しようとも思ったが、嫌な顔をされて終わるかもしれないと心配し、何も相談できずにいた。

 初めこそ、城に行くことすら躊躇していたこころだったが、次第に城の子どもたちと仲良くなっていく。それぞれ鍵を探していたようだが、なかなか見つからず、だいたいの時間を、ゲームをしたり、お菓子を食べたりして過ごしていた。

 夏がすぎ、2学期になった。スクールの喜多嶋がこころの家を訪ねてくる。

 喜多嶋は学校とも連携をとり、不登校の子どもたちのフォローをしている。さらに、こころに優しくなれない母のフォローも行っていた。喜多嶋はこころの母にあることを言っていた。

「こころちゃんが学校に行けないのは、絶対こころちゃんのせいじゃないです」

 どうやら、こころの学校での出来事も知っているようだった。

 喜多嶋は優しくこころの話を聞く。喜多嶋は、こころが思う、普通の大人とは違った言葉を発した。「こころちゃんは毎日、闘っているでしょう?」と。

 驚くこころ。もっと責められると思っていたのだ。こころは喜多嶋を信頼し始める。

 10月になり、そろそろ本気で鍵を探そうということになる。ここはみんなで一致団結しようと。するとオオカミ様は「大事なことを言い忘れていた」という。誰かが鍵をみつけ、願いを叶えた時点で、こころたちの城での記憶はすべて消えてしまうというのだ。もしも願いが叶わなければ、城での記憶はそのままということだった。せっかく仲良くなり友情が芽生え始めてきた7人だけに、その言葉はショックでしかなかった。

 11月。しばらく姿を見せていなかったアキが城にきた。珍しく学校の制服を着ている。それを見てこころは驚く。それは自分の中学校の制服と同じだったのだ。まさか同じ中学だったなんて。それまでお互いの住んでいる場所やどうして学校にいかなくなったなど、詳しい話をなんとなく避けてきた。城にいる時間を共有できていれば、それでいいと、みな思っていた。そして、ほかの4人も同じ中学だったと知る。リオンだけはハワイの中学に留学していたが、日本にいれば、こころと同じ中学に通う予定だったという。ただ同じ学校で一度に6人も不登校がいるというのも、なにか不自然な気がするこころだった。

 2学期も終わりに近づき、担任の井田がこころの家にくるという。真田美織のことで話があるらしい。こころの母は、一緒に先生に会おうという。こころは唇をかむ。そして、「わたし真田さんのことが嫌い」とようやく本心を告げる。これまで美織にされてきたことをすべて母に伝えるこころ。母は、「お母さん、何も気づかなかった。ごめんね」と声を震わせた。そして、一緒に闘おうと言った。

 12月。城ではクリスマスパーティーが開かれる。その席でマサムネが、3学期の初日、みんなで学校に来てほしいという。マサムネは親の判断で、別の学校に転校するかもしれなかった。それをもう少し先延ばしにするために、始業式だけ今の学校に行こうとしていた。教室に行かなくてもいい、だめなら保健室、それでもダメなら図書室と、みんなで約束をして、始業式の日を迎える。

 こころも学校に向かう。しかし、保健室には城の子どもたちは誰もきていない。保健室の先生に子どもたちの名前を告げても、そんな子はいないといわれてしまう。しかし、子どもたちはみんな学校に行っていた。じゃあどうして会えなかったのか? もしかして自分たちは同じ次元を生きていないのか? と疑問に思い始めるこころたち。

 3月。こころはその日、用事があり、城には行けていなかった。すると突然、すごい音とともに、鏡が割れた。そして中から助けを呼ぶ声がした。アキが17時を過ぎても城からでず、ペナルティーを科せられることになったのだ。しかも、その日に城にきていた人は連帯責任をとらされ、オオカミに食べられてしまうということだった。悲鳴が聞こえる。なんとかしなくてはとこころはあせる。意を決して、鏡の中に手を入れる。

 城の中はひどいありさまだった。すでに子どもたちの姿はなかった。本当に食べられてしまったのか。こころは城のあちこちを確認しているうちに、他の子どもたちの過去が見えてくる。そしてとうとう鍵の場所を見つけるこころ。願いの部屋を開けて、願い事をする。

「どうか、アキを助けてください。アキのルール違反をなかったことにしてください」と、、、。

かがみの孤城/辻村深月の読書感想文(ネタバレ)

 表紙からとてもファンタジックな、子ども向けの小説なのかと思ったら、大人が読むとても深い作品だった。それぞれに理由があり、学校に行けない子どもたちが集められた城。そこで子どもたちは他人と交流し、ひとつづつ大人になっていく。最終的には自立するんだろうな、と思わされるが、そういう単純なところでは終わらない。

 親の子どもへの接し方の不器用さもうまく描かれている。なんとなく意見を上手くはっきりいえる子のほうが正しく思いがちだが、なかなか言葉にできない子どもの想い気が付き、共感することができるようにならないといけないんだなと痛感させられた。

 次元を超えて集まった子どもたちが、それぞれの伏線が最後にすべてひとつになっていく後半は、ぐいぐい引き込まれていく。この城での時間があったからこそ、それぞれの今の生活があることまで想像させる。特に喜多嶋先生は、アキの大人の姿であった。子どものこころが分かる、とても素敵な大人になっていてよかった。

 何重にもなっている構造が面白く、もしかしたら忘れているだけで、自分にもこういう経験があったのかもしれない、と思わされ、ちょっと不思議な気分も味わえる。

 読了後、余韻にひたれる作品であり、夏休みに読むのにはぴったりな作品だなと思った。 (スギ タクミ)


→ ツナグ/辻村深月:あらすじ&書評『死者はみんな生者を見ている』


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