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屍人荘の殺人/今村昌弘のあらすじと読書感想文

2018年12月18日 15時00分

屍人荘の殺人/今村昌弘のあらすじ(ネタバレ)

 神紅大学1年生の葉村譲は、3年生の明智恭介とミステリ愛好会に所属するミステリ好きの大学生である。大学生になるまで特に親友と呼べる親しい友人もいなかった葉村は、事件や謎を愛しており、神紅のホームズと呼ばれる明智に誘われ、ミステリ愛好会に入会した。2人きりではあるが、助手として明智と過ごす日々を楽しんでいた。

 ある日、同大の映画研究部が夏休みにペンションを借りて合宿を行うという話を耳にし、面白そうな事件が起きるのではないかと察知した明智は、映画研究部の部長である進藤歩に合宿への同行を依頼するが、無残にも断られる。どうしたら同行できるか悩んでいる明智と葉村の前に、幾多の事件を解決に導いた探偵少女として有名な、同大学2年生の剣崎比留子が現れ、自分と一緒に合宿に参加しないかと話を持ち掛ける。剣崎は「自分がこの話を持ち掛けた理由を聞かないこと」を条件に2人の参加を進藤にかけあってくれる。

 実は、今回の映画研究部の合宿は、表向き撮影合宿という形ではあるが、本当の目的はペンションの持ち主の息子であるOBのためのコンパであった。しかし、合宿まであと数週間というところで脅迫状が届く。昨年合宿に参加した女子部員が合宿後に自殺した経緯もあり、脅迫状を見た女子部員の多くが合宿をキャンセルしてしまった。OBのためにも女性の参加者を確保しなくてはいけない進藤は、剣崎が参加するなら、という理由で明智と葉村の参加も認めた。

 合宿当日。集められた女性陣は、進藤の彼女である星川の他、名張、高木、静原、下松という女性で、剣崎も含めた6人ともみな美人ばかりであった。男性陣は、学生は明智、葉村、進藤の他、映画研究部の重元の4名に、ペンションの持ち主の息子で映画研究部OB七宮と、同じくOBの出目、立浪の3名を加えた合計7名であった。

 一同はバーベキューなどをして時間を過ごしたあと、肝試しをすることになった。ふと携帯の電波が入らなくなっていることに気づくが、不思議に思うも、気にせずにそのまま肝試しを決行する。葉村は剣崎とペアで山道を歩いていたが、突然、山の向こうから人の姿をした複数人の恐ろしい生き物が襲い掛かってくる。状況を理解できないまま、葉村と剣崎は命からがら紫湛荘まで逃げ帰る。

 恐ろしい生き物はゾンビ化した人間であった。実はこの日、紫湛荘の近くでは野外フェスが行われていた。その野外フェスの会場にて、人間をゾンビ化させるウイルステロが起こり、紫湛荘の方面までゾンビが流れてきた。ゾンビは元々人間ではあるが、ゾンビに噛まれてしまったら、その人間も間もなくしてゾンビになってしまう。逃げ遅れた出目と下松はゾンビの餌食になり、星川は行方が分からなくなった。さらに静原とペアで肝試しをしていた明智は、静原を助けた後、紫湛荘に入る目前でゾンビに噛まれそのままゾンビの群れに消えてしまう。1階は既にゾンビが入って来ていたため、紫湛荘の2階へと逃げ込こんだ残りのメンバーは、ゾンビが2階に上がってこられないようにバリケードを作った。電話は相変わらず通じず、紫湛荘はゾンビに囲まれ、一同は脱出できない状態に陥った。

 そんな危機的状況の中で、最初の事件が起こる。被害者は進藤。自室でボロボロに噛み千切られているところを発見された。ゾンビにやられたとしか思えない遺体の状態ではあるが、部屋の内外に明らかに人間が仕込んだメッセージの紙が置かれており、ゾンビと人間のどちらが犯人でもうまく説明がつかない矛盾が生じていた。ゾンビ対策のバリケードもいつ突破されてもおかしくない状況で、剣崎や葉村を中心に、一同は協力し合いながら事件解決のために調査を進めていく。

 しかし、一同の尽力むなしく第二の事件が起こる。次の被害者はOBの立浪。立浪は全ての階を通ることができるエレベーターの中で亡くなっていた。立浪の遺体は、ゾンビに噛み千切られた跡の他、その後に頭を殴られた酷い状態で発見された。葉村と剣崎が調べた結果、犯人は1階にいるゾンビがエレベーターに乗ってくるリスクを知りながら、なぜか立浪を入れたエレベーターを1階へ送りゾンビに噛ませ、その後、立浪を2階に戻し、改めて頭部をぐちゃぐちゃに潰していたことがわかった。犯人の不可解な行動に謎が深まっていく。

 そんな中で葉村は剣崎が探偵少女と呼ばれる所以を聞く。剣崎は謎解きが好きで謎を解いているわけではなく、昔から事件に巻き込まれてしまう体質で、巻き込まれた事件から逃れるために、自ら謎を解くしかなかったと言う。そのことに苦しんでいた剣崎は、大学で明智と葉村の存在を知る。葉村が明智の助手をしていると聞き、自分は今まで一人で謎に立ち向かっていたが、傍で助けてくれる人の存在が必要であると感じた。今回の合宿で明智と葉村に話を持ち掛けたのは、葉村を自分の助手にしたいと考えていたからだった。葉村はその事を聞き、彼女の苦悩を悟ったが、消えてしまった明智のこともあり苦しい気持ちになった。

 進藤と立浪の事件によって一番動揺していたのは七宮であった。進藤と立浪の共通点は、昨年の合宿にも参加していたという点で、同じく参加していた七宮は、次は自分が狙われると考え3階の自室に引きこもってしまう。そして、謎が解けないまま、ゾンビたちはバリケードを破壊し2階にまで侵入し、一同は3階へ避難する。

 そして、最後の事件が起こる。被害者は七宮であった。七宮の遺体には目立った外傷はなく、何かしらの毒物が使われた可能性が高いと考えられた。自室にこもっていた七宮に対して、犯行の機会はたった一度だけあった。ゾンビに2階の侵入を許した際に、取り残された2階部屋の剣崎を助けるため、真上の部屋である七宮の部屋から梯子を下していた。その一瞬で、犯人は七宮に毒物を与えたと思われるが、特に怪しい素振りをしたものはおらず、すぐに犯人を見つけることは難しいように思われた。

 そして、3階もほとんどゾンビに侵入されてしまった危機的状況の中、剣崎がこれまでの犯行の謎を解いていく。

 第一の事件では、ゾンビに噛まれて死んでいるのに、人間が残したメッセージがあるという矛盾があった。この矛盾を解決する糸口になったのは、進藤の部屋のかけ布団の裏側に血がついていたことである。実は、進藤はゾンビに噛まれてしまった恋人の星川をこっそりと自室にかくまっていた。ゾンビに噛まれた人間は数時間たつとゾンビになってしまう。進藤はゾンビになった星川に殺されたのだった。その様子を目撃した犯人は、部屋の内外にメッセージを残し、今回の一連の事件をゾンビと人間のどちらが殺したのかわからない混乱を作り上げた。

 第二の事件では、なぜ1階で立浪をゾンビに噛ませ、わざわざ戻すという危険な方法をとったのかという点が不可解であった。その答えは、立浪に対する犯人の強い憎しみから来ていた。生きている立浪をゾンビに殺させ、ゾンビになった立浪をもう一度殺す、犯人は立浪を2度殺すために手の込んだ殺し方をしたのだった。

 昨年の合宿に参加していた立浪と七宮は合宿で目を付けた女子部員を彼女にしたが、2人とも夏休み後に手酷く彼女を捨てていた。七宮が捨てた女子部員は自殺してしまい、立浪が捨てた女子部員は実家に帰っていたが、その女子部員が犯人の親しい人であった。女子部員は立浪の子どもを妊娠しており、そのことを立浪に報告したが、立浪からは金が送られてきただけであった。ショックを受けた女子部員は子どもを宿したまま自殺をした。犯人が立浪を2度殺したのは、母と子それぞれの復習のためであった。

 最後の事件では、犯人が毒物の代わりに使用したのは、ゾンビ化した立浪の血であった。犯人は七宮が頻繁に使用していた目薬を、ゾンビの血が混ざったものにすり替えていた。ゾンビ化させるほどの強力なウイルスがある血液を、脳に近い目から混入するだけで強い作用があり、そのせいで七宮は死んでしまったのだった。

 謎解きを終えた剣崎は、各々の行動から犯人を絞り込んでいき、最終的に犯人を突き止める。その時、3階のドアもゾンビにやぶられた一同は、最後の逃げ場である屋上に向かって逃げていく。葉村は迫りくるゾンビたちの中に、大学生活を共に過ごしていた相棒の姿を見つけ頭が真っ白になる。動きが止まりゾンビに噛まれそうになるが、一瞬の差で剣崎がゾンビに槍を突きつけ、そのゾンビを群れの中に落としていった。

 一連の事件を起こした犯人は屋上への逃走中にゾンビに噛まれてしまい、最終的にゾンビ化する前に屋上から身を投げて自ら命を絶ってしまった。その後、政府による救助ヘリが到着し、一行は無事に救出された。

 事件が終わり、葉村は改めて剣崎からの助手の申し出を断った。しかし、2人だったミステリ愛好会は、明智がいなくなった現在も2人で活動をしている。

屍人荘の殺人/今村昌弘の読書感想文(ネタバレ)

 本作を読んで、ド直球のミステリのようにも思えるし、今まで見たことのない新しいミステリのようにも思える、とても不思議な感覚を覚えました。ミステリでよく扱われる手口が、非常に斬新な角度から攻め込まれているような感覚で、作者の発想力に脱帽しました。間違いなく今まで出会ったことのない作品であると言えます。

 ミステリではよく出てくる、クローズド・サークルをまさかゾンビの登場で作り上げるというのは驚きでした。正直に言うと、私はゾンビ系の話はあまり得意ではありませんでした。ですので、最初にゾンビが出てきたとき、このまま読んでいって大丈夫かな?という気持ちにもなりましたが、読んでいくにつれて、ゾンビへの恐怖がこんなに物語に刺激を与えてくれるものなのかと、感じるようになりました。さらに、ゾンビはクローズド・サークルを作るための存在だけではなく、事件のトリックにも絡ませてあり、謎を解く難しさが何倍にも膨らむようで非常にワクワクしました。

 また、トリックや設定の斬新さもありますが、なんといっても主人公葉村の相棒、ワトソンにとってのホームズである明智が序盤でいなくなってしまうというのが、非常に驚きました。心の中で、どこかで戻ってきて欲しいと思いながらも、ラストシーンでやっぱり駄目だったか、というやるせなさを抱え、非常に苦しい気持ちになりました。おそらく同じ気持ちになる読者が多いのだろうなと思います。それくらい、登場人物が魅力的に感じました。ぜひ、続編などで本作の登場人物がさらに活躍する話も読んでみたいと思いました。

 本作を読み終わった後は、誰かにトリックや登場人物の人間模様など、色んな感想を語りたくなると思います。ただ、読んでない方に感想を伝えようとしても、何を言ってもネタバレになってしまう恐れがあるため、たやすく語れないのが非常にもどかしい気持ちになります。本作を読んだ人同士で、感想を語りあう場があれば、非常に盛り上がるのではないかと感じました。私は語り合いたいです。(まる)


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