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母性/湊かなえのあらすじと読書感想(ネタバレ)

2018年5月12日 20時40分

母性/湊かなえのあらすじ

 ルミ子はという女性は昔から母親から褒められること、愛されることを喜びと感じて育ってきた。絵画教室で出会った田所哲史と交際を始めたのも、母親が田所の絵を気に入ったからであった。一緒に絵画教室に通っていた佐々木仁美から、田所との交際を反対するような話をされたが、母親が田所を気に入ったことが決め手となり結婚した。高台にある一軒家で田所との生活が始まり、半年後にルミ子は妊娠した。妊娠がわかったルミ子は、自分の中に生き物が存在し、この世に出てくることを恐ろしく感じた。しかし、母親が喜んでくれることが全てであったルミ子は、喜ぶ母のために子どもを産み、生まれてきた娘の清佳を育てた。ルミ子の目から見た清佳は他人に親切にできる良い子に育っているように見えた。母親も清佳を可愛がってくれ、娘を愛し、母親に愛される生活を、ルミ子は幸せだと思っていた。

 しかし、清佳は大人の顔色を窺い、誰かに許されない行為をすることを極端に恐れる子どもとして成長していってしまっていた。清佳は愛されるためには正しいことをしないといけないという想いを常に感じていた。ルミ子の母、清佳にとってのおばあちゃんからは、常に無償の愛を注がれているように感じていたが、清佳はルミ子からの愛情を求めていた。

 清佳が小学校入学を間近に控えたある日、事件が起きた。その日、ルミ子の母は高台にあるルミ子の家に泊まりにきていた。鉄工所勤めの田所が夜勤の日は、ルミ子の母が泊まりにくることになっており、ルミ子も清佳も楽しみにしていた。その日は、台風情報が出ており、停電になっていた。清佳はおばあちゃんと一緒に寝るのが大好きで、布団で一緒に寝ていた。ルミ子が異変に気が付いたのは、大きな音がして清佳の声が聞こえた時であった。土砂崩れが起きていた。ルミ子が清佳の声がする方へ行くと、母親と清佳が箪笥の下敷きになっていた。どちらか1人しか助けることができず、ルミ子は迷うことなく母親を助けようとしたが、ルミ子の母親は清佳を助けるように言い残し、命を落とした。

 高台の家が焼けてしまったため、田所とルミ子と清佳は、田所の実家に住むことになった。ルミ子は、母の死の悲しみがあったが、母が命をかけて助けた清佳に愛情を注いていこうと思った。しかし、寝ている清佳の頭を撫でようとした時、清佳が無意識にその手を払いのけ、そのことにルミ子はショックを受けた。また、田所の実家での生活もルミ子にとっては苦しみであった。ルミ子への義母からの扱いはひどく、家事や農業の手伝いをさせられ、毎日こき使われていた。清佳は、ルミ子への扱いがひどい義母に腹を立て、ルミ子を守ろうとかばうような発言をするようになった。しかし、ルミ子はなぜそんな余計な事をするのかと、清佳に対して腹を立てていた。

 田所の妹の律子が実家に帰ってくることになり一緒に住むようになる。律子は恋人の男に騙されお金を迫られていた。義母は律子が男の所に行かないように、家にいる清佳に見張りを依頼した。清佳に買い物に行かせた律子はその間に家を出て行ってしまい、義母は激怒した。実は、清佳はわざと律子を見逃していた。

 清佳は学校での話をルミ子にしても、基本的にそっけなくされていたが、唯一友達の真子ちゃんの話をするとルミ子が褒めてくれるのを知っていた。真子ちゃんの母親は若い男とかけおちをしており、そのことで真子ちゃんはからかわれていた。そんな真子ちゃんと仲良くしていることを話すと母は「かわいそうな子に優しくしている」と褒めてくれた。清佳から見て、律子は真子ちゃんに似ているかわいそうな子だった。ルミ子の教えどおり、律子の味方になってあげたいと思い律子を逃がした。しかし、清佳の想いとは裏腹に、ルミ子は見張りもできない清佳に失望し、義母から責められたことでルミ子は清佳を恨んでいた。

 ルミ子が母親を失って6年後、2人目の子どもを妊娠した。ルミ子は、お腹の赤ちゃんに桜という名前をつけ大切にしようと思った。その頃、田所のもう一人の妹である憲子が実家に頻繁に来るようになった。憲子の息子で4歳になる英紀が、あまりにもいう事を聞かない乱暴者で、憲子は英紀の世話をルミ子に押し付けるようになった。英紀はルミ子に懐くようになった。妊娠中のルミ子は、病院で安静にしているようにと言われていたが、義母や憲子に強引に押し付けられ英紀の世話を引き受けることになった。

 清佳は、自分がルミ子とお腹の赤ちゃんを守ると決め、ルミ子を助けるために積極的に家事などの手伝いをした。清佳はルミ子と赤ちゃんのために、義母たちからのひどい扱いにも耐えた。そんな清佳の手にルミ子はハンドクリームを塗ってくれ、久々のルミ子の優しさに清佳は泣きそうになった。ルミ子は清佳用のハンドクリームを買うようにお金を渡し、清佳は英紀と一緒に買い物に行った。その道中、清佳は、ルミ子の体調を心配する英紀にルミ子のお腹に赤ちゃんがいることを話した。しかし、帰ってしばらくすると英紀が暴れだし、心配する清佳をよそに、ルミ子は英紀を散歩に連れて行った。そして、散歩の最中に英紀に突き飛ばされてルミ子は流産してしまう。英紀はお腹の赤ちゃんにルミ子が愛情を注ぐことに嫉妬してしまっていたのだった。お腹の赤ちゃんが流産し、ルミ子は悲しみにくれていたが、英紀の起こした行動は清佳が余計なタイミングでお腹の赤ちゃんのことを話したせいだと思っていた。

 落ち込んでいたルミ子であったが、流産した時に救急車を呼んでくれた中峰敏子に誘われ手芸教室に通うようになった。ルミ子は久々に楽しい日々を過ごしており、清佳も楽しそうなルミ子を見て良かったと思っていた。ルミ子は敏子の紹介で、占いができるという敏子の姉の彰子と出会い、家族について言い当てられた。特に、娘の清佳との仲がうまくいっていないことを気にしていたルミ子は、娘を良くするために彰子から高額な薬を買うようになった。清佳にはニキビの薬と偽り、薬を飲ませていた。ルミ子は、薬の効果を知りたくて清佳の学校の話を聞くようになっていた。清佳は、勉強や学校について聞かれ、ちゃんと出来ていないとルミ子にけなされ、時には殴られることもあった。しかし清佳はそれでもルミ子に愛されたいと思っていた。ルミ子の義母は、ルミ子が彰子に騙されていると思い、彰子との関係を辞めさせる。ルミ子は清佳が義母に告げ口したのだと思い、清佳を恨んでいった。

 清佳は高校生になり恋人の亨の家に行く途中で、ルミ子の母親の家に向かう田所の姿を見つけた。不思議に思って、田所の後を追うと、田所は仁美と一緒にいた。田所は残業といって家の帰りが遅かったが、実は仁美と不倫をしていた。仁美と田所は昔一緒に学生運動をしていた仲間であった。清佳がルミ子を裏切っていた田所を罵ると、仁美が言い返してきた。田所からルミ子と清佳の話を聞いていた仁美は、母親に愛されるのを諦めろと清佳に伝える。そして、清佳はルミ子がなぜ自分を愛してくれないのか、ルミ子の母親の死の真相について聞かされる。実は、ルミ子の母親が死んだ台風の日、ルミ子の母親はルミ子に清佳を助けさせるために、自らの舌を噛んで自殺したのだった。

 自分がルミ子の母親を死なせることになったという事実を聞いた清佳は絶望し家に帰る。そして、ルミ子に台風の日について尋ねる。ルミ子は母親の死について聞かれ、事件当日の事を鮮明に思い出し目の前が真っ白になる。そして、ルミ子は静かに清佳の首をしめようとした。清佳はルミ子を殺人犯にしないため、ルミ子を突き放し、最後にルミ子へのメッセージを残し自分で首を吊って自殺を図った。結果的に義母が清佳に気づいて、清佳の命は助かった。

 そして、現在。ルミ子はキリスト教の宗派の活動に参加している以外は何も変わらない生活をしている。清佳が自殺未遂して以来、田所は姿を消していたが、3年前に1人で帰ってきた。実は、あの台風の日、田所は家にたどり着いていた。しかし、ルミ子達を救出するよりも、自分の描いた絵を避難させることを優先し、その間にルミ子の母親が自殺してしまった。その事でずっと罪悪感に駆られていたため逃げ出してしまった、とルミ子と清佳に頭を下げた。ルミ子は田所を許し、清佳も許した。そして、田所が帰ってきた翌年に清佳は亨と結婚をした。現在、教師として働いている清佳のお腹には赤ちゃんがいる。清佳は自分が母親に望んでいたことを、自分の子どもにしてあげたいと思っている。

母性/湊かなえの読書感想文

 「母性」というのは、女性が持っているとされている、母親としての本能や性質のことを指していますが、この「母性」とはどのタイミングで何がきかっけで持つことになるのでしょうか。妊娠したタイミングでしょうか。子どもが生まれたタイミングでしょうか。それとも、子どもを育てていくうちに徐々に芽生えていくものでしょうか。そんな、母親の持つ「母性」について色々と考えさせられるのが本作です。

 本作を読んでいると、ルミ子の母親として自分本位な考えに腹が立つ人が多いと思います。しかし、ルミ子ほど極端でなくても、実は、ルミ子のような人は多いのではないかと思います。いま私に子どもはいませんが、私がそうなってしまう可能性もゼロではありません。多くの人は、愛する人に褒められたい、もっと愛されたいと思うものだと思います。ルミ子は母親に褒められ、愛されることが全ての幸せでした。本人は娘に愛情をかけて大切に育てているつもりでも、実は自分の幸せを得るための行為、ということはあるのかもしれません。母親だって人間なので、幸せを得ることが悪いとは全く思いません。しかし、自分の幸せを考えてかけた愛情は、どのように子どもに伝わるのだろう、と本作を読んで考えさせられました。

 「母性」という無償の愛は、とても難しく答えのないものだと感じます。「なぜ、子どもを愛するのか?」本作の冒頭で出てくる問いです。この問いを見たとき、いつか子どもができた時、私はどのように答えるのだろう、と暫く頭を悩ませました。明確な答えは出てきませんでした。「自分の子どもだから」「子どもはかわいいから」「愛する人との子どもだから」そのどれも、正確な答えのようで、本当の答えには思えませんでした。「そして、自分が子どもの立場からも考えてみました。「なぜ、親から愛されるのか?」こちらの方がもっと、答えが出ないものでした。親と子どもは家族ではありますが、それぞれ別の人間であり、全く考えも違えば互いに腹が立つこともあります。それでも、なお愛情を注ぐ。その愛はどこから来るのか。すごく難しい問いだなと思います。

 「なぜ、愛するのか?」「なぜ、愛されるのか?」その答えを探し、わからなくても考えてみることで、自分が誰かに向ける愛情について考え直すことができる作品だと思います。(まる)


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