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8年越しの花嫁 キミの目が覚めたなら/中原尚志・麻衣のあらすじと読書感想文

2018年2月25日 18時10分

8年越しの花嫁のあらすじ

 2005年7月1日、麻衣と尚志が付き合い始めた日。海に行ったり、花火をしたり。2人は、どこにでもいる普通のカップルだった。

 付き合って1年後の2006年7月1日、尚志から麻衣にプロポーズをした。2人で見に行った式場、アーヴェリール迎賓館。結婚式は2007年3月に予約した。

 麻衣の様子がおかしくなったのは、2006年12月31日。尚志と服を買いに行った帰りの車、麻衣は「今日1日の記憶が全然ない」と泣き出した。麻衣にはこの先、3、4年分の記憶がない。

 それから麻衣は、夜中に飛び起きて「怖い!死にたくない!」と叫んだりするようになった。何かに憑かれたように、普段では考えられない言い方で怒鳴るようになった。MRI検査を受けても異常は見当たらず、精神科の病院に入院した。

「麻衣さんが心肺停止になりました。」

 2007年1月5日、病院から電話がかかってきた。どうして心臓が止まるのかわからない。頭の中が真っ白になりながらも、尚志は車を走らせた。

 心肺蘇生を受けた麻衣は、人工呼吸器、点滴や静脈麻酔など、8本の管を体につながれて、ただ命をつなぎとめていた。

 原因も治療法もわからない。管をつなぐために喉を切り、おなかに穴を開け、薬の副作用で顔もむくみ、麻衣が麻衣でなくなっていくのを、ただ茫然と見ているしかなかった。それでも尚志は毎朝、仕事の前に、雨が降っても雪が降っても、スクーターで30分かけて病院に通った。休みの日も、面会が許される限りそばにいた。

 2007年3月、採取した髄液の検査で、麻衣は「抗NMDA受容体脳炎」であるとわかった。卵巣に腫瘍ができたことにより体内から抗体がつくられ、その抗体が誤って脳を攻撃してしまっている。腫瘍を摘出すれば、改善に向かう可能性がある。

 手術は5月に行われた。6月、医師が「尚志さん」という言葉をかけた時、脳波に変化が見られた。その後、自発呼吸も認められた。

 2008年2月には、約400日ぶりに人工呼吸器がはずれた。それからしばらくして、麻衣は目を開けた。意識を失ってから1年半。目を開けて10日経った6月18日、追視をした。目の前でゆっくりと動かした尚志の指を、麻衣の目は追いかけた。意識がある証。尚志は、「本当に麻衣が帰ってきてくれた」と確信した。

 8月、集中治療室から病院に移った。少しずつ、赤ちゃんのようなことができるようになった。12月にはスプーンで口からプリンを食べさせることも始めた。うなずくことができるようになった。色分けができるようになった。「まい」と書いた字の上をなぞることができた。

 2009年9月16日、2桁の足し算ができた。紙に麻衣の苗字、「中原」と書いて渡すと、それに続けて漢字で「麻衣」と書いた。尚志の苗字「西澤」と書いても「麻衣」と書いた。わかっているのかはわからない。けれど、尚志は泣いていた。

 2010年の正月は、3年ぶりに家で過ごすことができた。2011年からはリハビリを本格化させ、4月には、ついに退院もした。4年3ヶ月の入院生活だった。2013年、つかまり立ちできるようになって、杖を使ってほんの少しだけ歩けるようになる。この頃から麻衣は、徐々に記憶を取り戻す。

 2014年1月、車の運転を再開した。右足も、アクセルやブレーキを踏むには問題がなかった。8年間を取り戻すため、2人でいろんなところへ行った。予約を保留にしたままだったアーヴェリール迎賓館にも行った。8年前、「キャンセルしますか」と聞かれて、「キャンセルはしません。必ず結婚します」と答えていた尚志。2人のファイルはずっと保管されていた。再び見学に行った当日、ここで式を挙げることを決めた。

 バージンロードを自分の足で歩きたい。麻衣はリハビリをそれまで以上にがんばり、式の当日、2014年12月21日を迎えた。車椅子も杖も使わず、両親に支えてもらって、笑顔で待っている尚志のところまで、一歩ずつ、自分の足で歩いていった。この時、麻衣のお腹には新しい命が宿っていた。

8年越しの花嫁の読書感想文

 「8年越しの花嫁 キミの目が覚めたなら」は、尚志さんとそのご家族の日記を元に書かれたドキュメンタリーです。日記が元になっている分、あまりにも重みがありすぎて、何を書けばいいのか言葉が見つからない、というのが、最初の感想でした。

 自分の心も体も思い通りにならなくなるなんて、麻衣さんは、どれだけ辛かっただろう。そして、先が見えない中、麻衣さんを待ち続けた尚志さんも。その愛は、本当に、「すごい」としか言いようがない。

 何一つ見返りを求めず、ただ同じ世界に、相手が生きていてくれればそれでいい。そんな風に相手を思える愛と出会えたら、なんて幸せなことだろう。

 それから、2人のご家族や、周りの人の想いにも、心を打たれます。原因が分からなくても、先が見えなくても、誰も諦めなかった。必ず目を覚ますと信じ続けた想いが、奇跡を起こします。

 倒れた直後、お医者さんは、麻衣さんが脳死状態にあると考えていたそうです。本にも、もし脳死扱いになれば、臓器提供とかそういう話になっていたのかもしれないと、書かれています。そうなれば、麻衣さんは目覚めることは無かったし、新しい命が生まれることも無かった。

 2人の物語の節々には、他にもたくさんの奇跡が起こります。心肺停止になったとき、たまたま同じフロアに内科の医師がいてすぐに処置できたから、また、入院していた病院と移送先の大学病院、2つの病院が近かったから助かった、というようなことがあったり。

 ドキュメンタリーだからこそ、不思議な出来事の連続が今を作っていることに驚き、感動します。たしかに不思議だけど、そんなことってあるよなぁと思ったり。

 もしこうじゃなかったら、あの時ああしていなかったら。人と人が出会わないことだってあるし、ひとつの命が生まれてこなかった可能性だってある。

 そう考えていくと、自分が生きているということも、数えきれない奇跡の連続の末端にあると気づきます。自分の両親、そのまた両親、その両親と、ひとりでも欠けていたら、この命はここにない。

 命の尊さ、なんて言葉は、見慣れた言葉になってしまっているけれど、この物語を読む間、あらためて何度も、その意味を知りました。

 自由に動く身体があること、大切な誰かが目の前にいること。そしてその誰かが、自分の言葉に答えてくれるということ。自分に笑いかけてくれるということ。

 特別には思えない日常が、本当はたくさんの奇跡や幸せにあふれている。

 2人の愛と、周りの人たちの想い、そして数々の小さな奇跡が繋がりあって、大きな奇跡の物語となっています。章ごとに、麻衣さん、尚志さんそれぞれの視点から語られており、とても読みやすい本です。

 毎日に幸せを見出せない時、当たり前の日常に疲れてしまった時、ぜひ、手にとっていただきたい一冊だと思いました。(みゅう https://twitter.com/rekanoshuto13


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