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よるのばけもの/住野よるのあらすじと読書感想文(ネタバレ)

2017年10月17日

よるのばけもの/住野よるのあらすじ

 主人公は中学3年生の安達という男子生徒。彼は夜になると、8つの目、6つ足、4つの尾を持つ、「ばけもの」になります。そして、ばけものになると彼は夜の街を徘徊するのです。

 ある夜、ばけものの姿で学校に行き教室に入ると、そこにはクラスメイトの矢野さつきが立っていました。彼女は、ばけものになった彼の姿を見て驚きはするものの「あっちーくん(安達のあだな)だよ、ね?」と、正体を見破ります。

 この日の出会いがきっかけとなり、翌日以降も二人は“夜休み”を供に過ごすことになりました。

 しかし、昼間の学校では彼らは一切話をしません。なぜなら矢野さつきがクラスでいじめを受けているためです。いじめに巻き込まれたくない安達は、矢野のことを無視し、いじめに対して傍観者であり続けています。

 矢野と夜休みを過ごす中で、実は矢野がクラスのみんなに思われているような変な奴ではないことに、安達は気が付きます。

 だんだんとエスカレートしていく矢野へのいじめ…。それは周囲のクラスメイトをも飲み込んで、大きく、大きくなっていきます。

 矢野の本音を知ってしまった安達は、このいじめに向き合うことができるのでしょうか。

 また、「ばけもの」になってしまう原因とは、一体何なのでしょうか。

よるのばけもの/主な登場人物

 いじめに関わるクラスメイトたちの個々のキャラクターは、本書の見どころの一つです。主な登場人物を紹介します。

安達(あっちー):夜になると「ばけもの」になり、学校で矢野と“夜休み”を過ごす。昼間の学校生活では、クラスで浮いた存在にならないよう、周囲の友達に合わせて矢野を無視している。

矢野さつき:夜の学校でばけものの姿の安達に会い、ともに“夜休み”を過ごす。一方で、昼間の学校ではクラス全員からイジメを受けている。無視をされているが笑顔でクラスメイトに話しかけており、気持ち悪がられている。

笠井(かさい):クラスで一目置かれている中心的な人物。いじめについても自ら手を下すことはないが、周りが上手く動くように仕向けている。

緑川双葉:話しかけられると誰に対しても「うん」と頷くだけ。学校生活では、いつも図書館の本を読んで過ごしている。矢野が緑川の本を投げ捨てたことが、矢野のいじめが始まったきっかけである。

井口:矢野がいじめられていることを気に掛ける優しい性格の女子生徒。矢野をうっかり助けてしまったことで、いじめられそうになる。そのことに気付いた矢野は、井口を叩き自分が悪者になることで、井口をいじめから救う。しかし、その後井口は周囲の友人を信じられなくなる。

中川ゆりこ:笠井に好意を抱いており、気に入られたいがために、矢野いじめを率先して行っている。顔も性格も派手なため、クラスの男子からは人気があるが、安達からは苦手に思われている。

能登先生(のんちゃん):保健室の女性の先生。面倒見がよく、矢野や緑川からも慕われている。矢野に「難しいことはいい、生き延びなさい。大人になればちょっと自由になれる」などとアドバイスしており、介入はしないものの全体を見通して味方でいてくれる存在。

よるのばけもの/住野よるのあらすじと読書感想文(ネタバレ)

 いじめが周りになかった人は、少ないでしょう。小学校高学年くらいから高校生までの間に、ほとんどの人がいじめを経験します。そんないじめですが、関わり方は様々。本書で安達がいじめをする側のパターンを三つに分けているので紹介します。

一つ目は、これ見よがしに害を与え、それを面白がっているもの

二つ目は、敵意を明確にはしているが控えめで、地味な嫌がらせをするもの

三つ目は、特に行動は起こさず無視だけを決め込んでいるもの

 安達は三つ目のパターンとして、いじめに参加しています。しかし矢野を無視することしかできない自分に大きなストレスを感じており、そのストレスが、どうやら「ばけもの」になる原因のようでした。

 このクラスのいじめですが、謎も多く残されたまま幕を閉じます。安達視点で書かれた物語のため、いじめの全貌が見えづらく、最後の場面で矢野からいくつか種明かしがあるものの、不明な点が多いのです。

 そのため、安達以外の登場人物の行動や言動は注意深く見ていく必要があります。

 忘れてはいけないのが、安達は中学三年生で、まだまだ人を見誤ることの多い年頃だということ。

 実はそのことを念頭に置いて読まないと、いじめの深い部分にたどり着けないかもしれません。

 見えずらいのが笠井のキャラクター。安達は完全に笠井の術中にはまっており、安達の笠井への評価がいまいち当てにならない部分が多いのです。

 安達と笠井の力関係が垣間見える部分、笠井から寵愛を受けているはずの緑川が言った「笠井くんは悪い子だよ」という言葉、そして、矢野の「頭が良くて、自分がどうすれば周りが動くか分かって遊んでる男の子」、「きっと彼には、好きな人なんて一生できないと思う」という発言……。安達が見ている笠井の言動は、どこまでが本心なのでしょうか。

 謎が多く残されたまま本書が幕を閉じているのは、ひょっとすると、この物語を読むことで、いじめの本質を見抜く力をつけて欲しいという、住野よるさんが込めた願いかもしれません。

 最後に、安達が目の前で起きているいじめに対して感じていた、いじめの真理ともいえるような一文が印象的だったので紹介したいと思います。

「仲間意識。矢野たった一人を悪だとすることで生まれた、仲良くするための大義名分が、このクラスの中にはある。だから、いいクラス。」

 おそらく“いじめ”は無くなりません。それでもこうやって、中高生に人気のある住野よるさんが、いじめをテーマに本を書くことには、大きな意味があるでしょう。いじめられる人以外の、いじめる側の、その中でも消極的な人たち(安達のいうところの三つ目)に焦点を当てて書かれた作品は少ないように感じます。それぞれが大きな不安を抱えながら生きている……。いじめに関わる全ての人たちに、ぜひ手に取ってもらいたい一冊でした。(ミーナ)


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