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書評「侍女の物語」|ハリウッドでドラマ化の衝撃作…あらすじ&感想

2017年9月21日

 マーガレット・アトウッド著の「侍女の物語」は現代ディストピア小説の中でも特に高い評価を受ける作品だが、“ディストピア”というここ数年でよく耳にするようになった言葉の意味をご存知だろうか? 聞いたことがないという方でも“ユートピア”、つまりは理想郷という単語は知っているだろう。ユートピアの対義語に当たる非理想郷がディストピアだ。本書は、そんなディストピア社会で生きる侍女たちの過酷な生活を通して描かれる彼女たちの感情を浮き彫りにした作品なのだ。

「侍女の物語」のあらすじ

 近未来。独裁神権政治のもと、女性は子供を産むための道具として扱われている世界ギレアデ共和国を舞台に配属先の邸宅で日々、子供を産むためだけに生き続ける侍女のオブフレッドが、過去と現在の話を織り交ぜながら、自身の人生を語り始める。

 そこで描かれているのは、自由や平等、全ての文化が崩壊した世界だった。

 侍女たちは彼女たちを“所有”する妻に代わって司令官と呼ばれるその家の主と子作りに励み、妊娠できなかったり、障害を持った子供を産めば、<コロニー>と呼ばれる収容所に送られることになる。

 この社会では女性は学ぶことも言葉を読むことも互いにコミュニケーションをとることさえも禁じられている。服装もそれぞれ階級ごとに決められたものに身を包み、侍女たちはその素顔や肌といった個人的な部分を露出してはいけない。といったように全てが管理され、<目>と呼ばれる集団の監視下に置かれているディストピア社会が細部に至るまで細かい描写で描かれているのだ。

近未来、現実に起こりうる問題を定義した衝撃作

 本書は、シンプルに、ただまじまじと読んでいるだけでは決して理解できない作品である。

 まだ文明があった頃の“過去”と「大統領の日の虐殺」と呼ばれる日をきっかけに全てが様変わりした“現在”、その両面から物語を進行させ、終盤に進むにつれて不透明だった、そのギレアデ共和国の実態が明らかになっていくといった手法がとられている。

 それも厳しい監視下に置かれ、何事も制限される“日中”と監視の目が薄くなり、比較的自由に回想ができる“夜”とで章が分かれているのもまた面白く、主人公オブフレッドに自らを投影して、この反社会的な世界に生きているかのような錯覚を覚えさせる。

 また、物語が進む上で重要であったり、危険とされている単語や言葉の数々を目の錯覚かと思うほど微かに太い文字で書かれているところも、非常に秀逸かつ没入感が増す要因となっている。

 正直な感想を言えば、本書の中で描かれている世界には誰しもが共感できるものではなく、その過酷で人間を物のように扱う描写の数々から、好きにはなれない一冊だ。(現に本書を読み続けた日々には、あまり良い夢を見られず、寝不足になってしまい、感情の起伏も激しくなってしまった。)

 だが、本書が書かれた1980年代から現代に至るまで世界的な緊張がさらに増し、今をもってしても人々は争い続け、このようなディストピア社会がいくつも存在する。

 そういった点において、本書はこのままの状態で人間が歩み続ければ、必ず訪れるであろう未来を予言していると言っても過言ではないのだ。

 まさに今、日本とあまり距離の離れていない国でも、このような独裁政権が行われており、電話を一本かけるだけでも処刑されるといった禍々しく気が気じゃない世界が存在しているのだ。

 物語が終了した後にも、“その後”の他国における注釈が添えられており、鳥肌が立つほどに真実味を持たせた一冊となっている。

 政治、宗教、法律・・・“報復は次の報復の予約でしかない”まさにその通りで、近未来、このまま進み続けたら、もしかしたら我々の元にもこのような未来が訪れるかもしれない。

 そんなことが頭によぎるリアルで説得力のあるストーリーが繰り広げられるのが、この「侍女の物語」だ。

ハリウッドでTVドラマ化!今年度エミー賞も受賞

 なぜ今、この作品を読むべきか。

 もちろん、現代社会にも相通ずる問題提起がされているという部分もあるが、実は全米ではこの2017年にTVシリーズ化されており、米Huluで絶賛配信中なのだ。その評価は軒並み好調で、先に行われた第69回エミー賞においても、作品賞を含む、堂々8部門を制覇してみせた。

 原作の発刊から30年の時を経て、描かれるギレアデ共和国の世界観は読者が想像してきたであろう街並みや雰囲気をそのまま具現化しており、ものすごい作品に仕上がっているという。キャストに関しても表現力の高い実力派俳優たちを起用しており、キャスティングの妙も伺える。

 この作品を日本で観られるようになるのは2018年とまだ少し先の話ではあるが、原作である本書をまずは読み、その世界に没頭してから、同ドラマを観れば、より楽しめるのではないか。

 アーサー・C・クラーク賞を初め、数々の賞に輝く秀作。英文学の観点から見ても重要な位置づけである本書を一生に一度は読んでもらいたい。

最後に一つ。

 本を読む楽しさとして、その中に入り込み“その世界”に生きているような感覚になることが挙げられるが、本書はあまり深読みし過ぎない方が良いかもしれない。人それぞれ感覚はあると思うが、それほど恐い・・・いや壮絶な一冊である。


【この記事の著者紹介】
Sunset Boulevard(書評&映画評ライター):
 映画を観ることと本を読むことが大好きな、しがないライター。オススメ小説の書評や読書感想文を通じて、本を読む楽しさを伝えられたら嬉しいです。また幼き日よりハリウッド映画に親しんできたため、知識に関しては確固たる自信があり、誰よりも詳しく深い評論が書けるように日々努力を重ねています。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。Twitter:https://twitter.com/sunsetblvdmovie


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