2017年8月9日
夢の街=ハリウッド。アメリカ・ロサンゼルスに位置するこの映画の都には毎年、何千何万という夢追い人たちが訪れると言われているが、皆が皆、夢を掴めるわけではない。『夢を掴むためなら、どこまで許される?』それが本書の中心となるテーマである。
「見えざる敵」のあらすじ&登場人物
本作に登場する主要人物は、4人。ハリウッドで人気急上昇中の若手女優マディソン・ブルックス、ジャーナリスト志望のライラ・ハリソン、歌手を夢見て田舎町から出てきたトミー・フィリップス、そしてマディソンのような女優になりたいアスター・アミリプール。
彼ら4人の人生がとあるナイトクラブのオーナーが主催したコンテストに参加したことから交錯し、人生の歯車を狂わせていく。
物語はハリウッドのアイコン的存在 マディソンが失踪する1か月前から幕を開ける。
それぞれが成功を夢見て次の手段を模索している中、街一番のクラブを経営するイーラ・レッドマンが、成功への足掛かりとなるであろうコンテストを主催する。
このコンテストに参加することになったライラ、トミー、アスターは身を削りながら、夢を叶えるチャンスを手に入れようとする。1位になれば、ハリウッドで夢を掴むための富と名声が手に入る・・・。しかし、ハリウッドという街は、そんなに甘くない。この街は夢を食い物にする。次第に彼らの人生は破滅へと向かっていくことになる・・・。
「このコンテストの勝者はいかに?」というのが物語の主題ではあるが、同時にコンテストの主催者であるイーラ・レッドマンの謎めいた素性、「若手女優のマディソンはなぜ失踪したのか? 誰かに殺されてしまったのだろうか?」といったようなサスペンスフルな要素も充実しており、結末を早く知りたいといったような好奇心をくすぐってくる。
『夢をつかむためなら、どこまで許される?』はじめに述べたこの言葉を思い出してほしい。
そう、この物語は決してスッキリとしたサクセス・ストーリーというわけではない。
成功のためなら手段を厭わない人間たちが、策略に次ぐ策略で、敵を罠にハメ、騙しあいを繰り広げる。欲望渦巻く街を舞台に、まさに人間の性とでも言うべき、欲望に支配された人間性が色濃く描かれているのだ。
あなたはこの血で血を洗う壮絶な攻防戦についてくることができるだろうか?
夢の街に潜む闇を浮き彫りにした、ダークで秀逸なストーリー
物語は主に4パートから語られる。主人公4人それぞれから見た景色や印象、そしてコンテストの行く末が描写されている。彼らにとってハリウッドという街はどのような場所なのか?
あなたにとって“ハリウッド”とは、どのようなイメージだろうか。煌びやかで華々しく、喧騒に満ちた輝く街だろうか。表の顔はそのような夢に溢れた場所であろうが、実際にその世界の住人になってみると、それとはかけ離れた街だと聞いたことがある。夢を追い続ける人間をハメて荒稼ぎするような人間やセレブのプライベートを食い物にするパパラッチ、甘い誘惑がひしめく数々のクラブ・・・挙げたらキリがないほどに“夢”を“悪夢”に変えるような要素が数多く存在する。
主人公の4人もそんなハリウッドに飲み込まれてしまった犠牲者なのかもしれない。
彼らはただ成功を夢見て故郷を飛び出し、ハリウッドへやって来た。しかし、ほんの少し気を抜いてしまったがためにハリウッドを揺るがす大きな事件に身を投じてしまい、自分が夢見たことはこんなことだろうか?と疑問を抱く。もうその時には時すでに遅し・・・破滅へのカウントダウンは始まってしまっているのだ。
誰だって一度は憧れるであろう、ハリウッド。その街に潜む欲望と闇・・・ハリウッドという世界で成功を手にしているセレブたちは、ハリウッドという街に飲み込まれなかったほんの一握りの人間たちなのだ。
本書にはハリウッドの若きセレブリティ候補たちが経験するであろう日常やゴシップに満ちた恋愛模様なども描かれており、疑似セレブ体験ができるというのは楽しい限りだし、それぞれエピソードごとのタイトルに大ヒットナンバーのタイトルが添えられているという遊び心も大いに気に入った次第である。
作者について
作者のアリソン・ノエルという女流作家は、過去にニューヨーク・タイムズでベストセラーリスト堂々の1位を獲得したことがあるほどの逸材。これまでの著作が36もの言語で翻訳されており、満を持して日本でもデビューを飾ったというわけだ。
すでに全米では知る人ぞ知る作家であり、本書もハイティーンいわゆる10代後半から20代前半といった年齢層のファンたちに読み親しまれている。
近年、この手のヤング・アダルト小説が映像化され、映画や海外ドラマとして大ヒットを記録している印象が強いが、本書も確実に今後、映像化されることであろう。
その道の先駆者でもある人気ガールズ・ドラマ「ゴシップガール」の著者も絶賛したということもあり、注目度も増すばかりだ。
筆者としては物語の連続性などを考えて、ぜひとも海外ドラマとしての映像化を望みたい。
小説を読む時にはキャラクターそれぞれにイメージする容姿や声といったものがあると思うが、本書はそんな想像力も存分に掻き立ててくれる。
そういった楽しみ方もあることから、映像化しても大いに楽しませてくれる作品であろう。
続編の発刊がすでに決定しているということもあり、この一冊では物語は完結しない。先行きの気になるクリフハンガーで幕を閉じているが、これから先もぜひ読みたいとさせるような一冊であった。続編が今から楽しみである。(文=Sunset
Boulevard Twitter:https://twitter.com/sunsetblvdmovie)
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